機動戦艦ナデシコ
『影(シャドウ)』
そこは、暗くてジメジメしている場所であった。
明るいナデシコの艦内にこんな場所があるとは、驚きである。
こういう場所がナデシコには、不釣合いなのは、確かだ。
確かに不釣合いだが、やはりそこは雰囲気というものがあるのだろうし、
尋問しなければならないというのに明るい場所で尋問するのもどうだろうか?
やはり、こういう場所で問い詰めないと相手も簡単には、口を割らないと思う。
だが、ゴートにとっても今回の相手は、やはり分が悪かった。
今まで相手にしたことがなかった部類だというのも理由である。
「それで?お前は、一体何が目的でナデシコに侵入したんだ?」
そのゴートの問いに答えずにもぐもぐとカツ丼を食べているくまのぬいぐるみが一体。
このぬいぐるみが空間を渡ってナデシコに侵入したぬいぐるみなのだが、不気味な奴だ。
何しろぬいぐるみを着込んだままカツ丼を食べるという妙な芸を披露してくれているのだから。
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐごっくん!
「む、食い終わったのだったらそろそろ質問に答えたらどうだ?」
ずずずずっ・・・すっ、カンカンカン!
しかし、またもやその問いに答えずにくまは、カツ丼のおかわりを要求してくる。
マナーの悪いくまらしくそのおかわりの仕方が茶碗をお箸で叩いているのだからタチが悪い。
その仕草にプロスが少しため息を吐いてからホウメイに連絡をとってカツ丼を持ってくるように言う。
だが、ゴートは、その行為に我慢ができなかったのだろう。
何しろずっと尋問しているというのに質問に答えようともしないのだ。
そろそろ堪忍袋の尾が切れたとしても誰も文句を言いはしないだろう。
「…わ、我々は軍人ではない。
…だから貴様をここに閉じ込めたからと言って拷問もしないし、
自白させようと医薬品を使って無理矢理吐かせるなどということはしない…。
しかし、だからと言っていつまでもお前のような奴をのさばらせておく訳にもいかない!」
「食費もかさみますしなあ」
「ミスター!食費の問題ではない!
このナデシコの警備体制の甘さがどんどん露呈している!
さらにこのふてぶてしい態度!どこからどう見ても我々を馬鹿にしている!!」
ゴートがそう指差すがくまは、そんなこと気にも止めずに次のカツ丼が来るのを待っている。
しかし、どうやら前のカツ丼を食べ終わった後の空腹感に少し堪えられなかったらしくガムを取り出す。
かさっ、くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ
「おや?食後のガムみたいですな」
「ふ、ふざけるなぁ!!」
ゴートがくまの胸倉を掴んでぶらりと浮かび上がらせる。
叫んで立ちあがった拍子に倒れた机をプロスがまた元の場所へと戻す。
と、そうドタバタやっているとドアからノックをする音が聞こえてくるのをプロスが聞こえた。
「おや、ホウメイさん、早かったですな」
「まあね、あのくまかなり食べてるからね。
まだ食べるんじゃないかと用意しといたんだよ。
それに何だかまだまだ食べるンじゃないかい?あのくま」
「ふふふっ、そうですな…このナデシコの食料だって無限という訳じゃないですのにね。
だいたいあのくまは、お金も払わないでもぐもぐもぐもぐとどんどん食べてしまって…。
そりゃ、私だってゴート君みたいに大声を上げて奴から情報を探りたいと思ったりしますけどね?
そんなことしたってあのくまが喋らないことがわかってしまっているのだから余計に腹が立ちますよ」
「み、ミスター、怖いよ?」
今さっきまでいつものプロススマイルで話していたプロスがいきなり暗い表情になったので驚く。
その後ろでのやり取りに気付いたゴートがそろそろミスター胃に穴が空くんじゃないか?とか思った。
実は、もう既に空いていてイネスの元に治療に励んでいたりする。
「と、とにかく!このくまが何も喋らないというのは、困る。
だいたい空間を渡るという変な技術、これは会社が知りたい情報なのでは?」
「そうですな(キラリ)恐らくそれは、本社が欲しがっている情報なのかも…。
まあ、このことは、おいおい本社に連絡するとして、問題は何が目的で侵入したかですな」
「思ったけどねーそいつ喋れないんじゃないかい?」
そのホウメイの言葉に2人は、えっ?みたいな顔をしながら次の言葉を待つ。
ホウメイは、その視線を受けながら頭をぽりぽり掻きながら説明を始める。
「ほら、こいつどう見てもぬいぐるみじゃないかい?
だから何か別の方法で喋べらすしかないんじゃないかってね」
「と言っても他の方法ですか…」
がさがさ・・・もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐごっくん!!
「あぁ!!あっという間に食べちまったよ!こいつ!!
はぁー…また新しいカツ丼が食いたいのかい?」
すると、くまは、首を横に振り始めた。
ん?っとホウメイが疑うとくまは、食堂のメニュー表を見始める。
そして、くまが指差したのは、カツ丼ではなく…親子丼のところだった。
「はぁ…しまったね…てっきりまたカツ丼を食べると思ってたのに」
「もう良い!こいつの為にいちいち食べ物を持ってこなく良い!
もう、甘やかさずにさっさとこいつから―――――――――――ん?」
なにやらくまの口からプシュプシュっと黒い煙が噴出し始めている。
「な、なんだ!?」
「壊れたのでしょうかねェ?」
「叩けば直るんじゃないかい?」
そして、ホウメイの言葉の通りにゴートの豪腕でぶっ叩く。
かなり勢いがあったらしくプロスとホウメイの耳には、空気を裂く音が聞こえた。
ビュンッ!!ゴキッ!ぐりんっ♪
その結果、なんだか首の部分がヘンテコな方向に向いてしまった。
…そして、部屋に静寂が訪れる。
「うわっ!ゴート君、これはさすがにマズいんじゃないんですか?」
「そ、そんなこと言われても叩けと言われたから叩いたのだ!」
「物には、限度ってものがあるでしょうが…。
でもまあ、なんか直ったみたいだよ?」
「「へっ?」」
ウィーン…ピピ、カシャ…ピコピコピコン!!
『しっかし、言語機能を送付するのに手間がかかったわい』
そう言いながらくまが肩をこきこきしながら話し始める。
その光景に全員目が点になる。
いきなり喋り始めた上に何故か似合わない言葉遣いだったのも原因だろう。
『ん?どうかしたのか?わしに質問があったのじゃなかったのか?
それとももう良いのか?だったらわしは、用事があるのでこれで』
「待て」
ゴートが素早くくまの肩を鷲掴みにする。
そして、素早くくまが逃げ出さないように簀巻きにしてから全員に目配せをする。
「どうする?」
「とりあえず、ルリ坊に連絡を取って全員でこいつの処分を決めるというのは?
それだったら、ちょうどこいつがいることを知らない奴にもわかってちょうど―――――」
「うーん、でしたらかえらすのではありませんでしたね。
コミュニケ使うよりも口頭で話した方が電気代もお得ですし」
プロスがそんなことを言って連絡しようか少し考える。
その仕草を見ながらホウメイが呆れながら息をついた。
(変なところで節約しようとする人だねえ。
ま、治療費や修理費やらで色々と問題なんだろうね)
と、くまが自分の頭を直そうとしている。
そして、ぐぎぎっと音を立てながら元の位置へと戻した。
『……お前等なあ、わしゃ精密機械なんじゃぞ?
それを壊れたTVやパソコンみたいに叩きおってからに…』
「そうは、言っても何も喋らなかったお前の方が悪いのではないか?」
『今さっきまで喋れなかったんじゃい!!』
「じゃあ、どうして急に喋れるようになったんですかな?」
『ふっ、別宇宙に存在する物体を食し、そこから生じたエネルギーを使い、
こちらの宇宙に存在していた物体を変化させこの器に言語機能を持たせたのじゃ』
「別宇宙?」
そのプロスの質問に対して急に動きを止めるくま…。
そして、しばらく経ってから何やら猛然と喋り始める。
どうやらその場をごまかそうとしているらしい。
『・・・しかもこの言語機能!世界80ヶ国語を喋ることができる!
今のような国際社会な世の中になったからには、まーさーにお得!』
「「「は?」」」
『さらに言うならば、この言葉を喋っているわしの思考を完璧にロスなく伝えており、
独自に喋っても良い内容と喋らなくても良い内容を判断するという機能もついておる!
余計な言葉を喋らなくても良いし、うっかり言った発言で窮地に立たされることもない!!』
「「「……」」」
と、ぺらぺらと良く喋る奴である。
むしろ喋らない方がマシだったなと全員が思い、アイコンタクトで合図を送る。
そして、べらべらと喋るくまを全員で簀巻きにして角の方へと追いやってしまった。
『こら、お前等!この扱いは、人権侵害だぞ!
いくらなんでもやって良いことと悪いことがあるじゃろうが!!』
「うるさい、黙れ」
ヒュッ!バシッ!!
ゴートがそう言って一発蹴りをかましたら黙った。
いや、黙ったのではなく、小声でブツブツと愚痴を言っている。
しかし、その愚痴なんて聞きたくないので、手を叩いて打ち消しながらゴートが言った。
「(ぱんぱん)さって…とりあえずここらで尋問も一旦休憩に入るか。
結構ゴタゴタしたせいで小腹も空いてることだしな…」
「そうですなあ…それにさっさと回収しないといけないものを回収しないといけませんしな。
あ、それとゴート君、私もわかったのですが、あの研究所にあるのは、貴重な資料らしいのですよ」
部外者がいるのにべらべら喋って良いのかい?
とホウメイは、思ったが別にそれを指摘する気もなかった。
どちらかというと、目的がやはりそれだったのかと呆れてしまったのだった。
一応、人助けとしてイネスは、救ったし、他の人間もなんだか別の連中に救助されたようだし。
と、自分を納得させてさっさと自分の持ち場である厨房へと帰ろうとした時であった。
コミュニケのウィンドウがいきなり目の前に現れて思わず悲鳴をあげて驚いてしまう。
その悲鳴が「きゃっ」などという乙女チックな悲鳴だったものだからプロスとゴートが驚いている。
「ホウメイさんでもきゃっ!とか言うのですな」
「なかなか貴重な一面を見させてもらったのな」
「・・・う、うるさいねえ」
ホウメイがうるさそうにそう言っているが頬が赤くなっているので照れてるのを隠せない。
でも、自分を驚かせた人物が一体誰なのかを確かめようと相手に問いただす。
「で?どうかしたのかい?」
「あ、ホウメイさん?カツ丼ってどれぐらい作れば良いの?
たくさん作り過ぎて厨房が埋まっちゃったよーむひょひょひょ」
と、不気味な笑い声を出すのは、ホウメイ・ガールズの一員であるエリであった。
その声にすっかり何かをそがれてしまったホウメイは、ちょっとげんなりしつつ答える。
「いや、もうオーダーは、変わっちゃったよ。
……カツ丼じゃなくて親子丼だってさ」
「「えぇー!?それって本当ですかァ!?」」
と、ジュンコとハルミが同じウィンドウの中から声を出して疑問の声を出す。
その後に騒ぎを聞きつけた他のメンバーもひょっこりと静かに顔を出してきた。
「だぁー全く、本当だったら!
だからそのカツ丼は、負傷した連中に出しちまいな!
連中、どうせベッドの上からあんまり動きたくないだろうからね」
「「「「「はーい!」」」」」
と返事をし、ウィンドウを閉じるのかと思ったら彼女らは、ウィンドウを閉めずに聞いてきた。
「あ、そこにプロスさんいます?」
「はいはい、私ならここにいますよ。
あ、ついでに注文しましょう。私は、イソジン定食を下さい」
「……カラムーチョ丼」
ジュンコがプロスとゴートの注文をメモり、ミカコとハルミがしこみの用意を始める。
そして、サユリが盛りつける皿などを用意してエリが2人に自分の用事を言った。
「むひょひょひょ、実はですねェ?
ナデシコ勝手に宇宙にでちゃったみたいです」
「はいはい、宇宙―――?」
そこで一旦プロスが頭を傾げて先ほどの言葉の意味を考える。
しばらくそのままの状態で言葉の意味が脳みそに到達した瞬間、混乱した。
「な、なんでですか!?」
「ひ、ひぃ!こ、怖いですよぅ」
エリが営業スマイルの状態でプロスのその怒りを収めようとする。
だが、そんなことでやはり怒り(というか動揺している)を静めれる訳が無かった。
「む、むぅ…仕方がありませんな。
…とりあえず、確認して見ましょうか」
「食堂をご利用していただき有難う御座いまーす!(ピッ)」
エリがそういうとプロスがさっさとウィンドウを閉じる。
そして、コミュニケのウィンドウをもう一度表示してナデシコの現在位置を表示する。
「ば、馬鹿な!?
どうして宇宙にいるんだ!?」
それを見て真っ先にゴートが叫んだ。
開いたプロスは、というとマジで動揺している。
動揺し過ぎでなんだかぷるぷるといつも持ち歩いている電卓が手から零れ落ちそうになっている。
だが、それでも商売人にとっては、命の次に大事な商売道具なのでなんとか持っているようだ。
「こ、これは…一体何時の間に…。
これが、あのクラウンの力とでも言うのでしょうか?」
モニターに映されたナデシコの現在位置に2人とも唖然としている。
ホウメイの方も少し驚いているが、誰かが動かしたのだろうと勝手に納得している。
『ふむ、宇宙に出たことで何か不都合でもあるのか?』
「まだあの火星には、研究資料、研究成果が山とあったのですよ!
それをまたわざわざ撃沈の可能性が高い中取りに戻らないといけないのですよ!!」
何時の間に置きあがったのか、くまが経ちあがってそう質問をする。
その立ち上がってもどうせ縛られていると思いそれを無視しながらプロスが答えた。
「(ぼりぼり)くぅーミスりましたなぁ(ぼりぼり)」
プロスが頭を掻く回数と力が段々大きくなっていく。
余りに予想に反した展開なので計算しなおさないといけないのだ。
回収できると見込んでいた資料を元にした研究にかかる費用の削減。
研究成果を元にした新しい商品を売りさばくことによって得る筈のお金。
これが、全部プロスの予想に反して無くなってしまったのだ。
よって、ちょっと半泣き状態である。
その様子を見て全員同情ムードに入っていたりする。
でも何も泣くことは、ないんじゃないかねぇ?などと、ホウメイは、思っていたりする。
プロスにして見ればそれが目的でこの戦艦に乗ったというのに見事に潰されたのだから泣きもする。
「とほほ、まさかこんな事態に陥るなんて予想してませんでしたな。
ネルガル本社に送っていた報告書の見込み利益は、大幅に激減しましたな」
と、プロスが愚痴っていると肩に誰かが手を置いた。
振り向くとくまが何やら哀れな視線を送りながら首を振っている。
というか、何時の間にやらゴートが縛った縄から抜け出していたりもする。
「何時の間に脱出したのですかな?」
『まあ、気にするな。
わしはなあ、何も世の中金だけが総てだとは、思っておらん。
それにこの失敗は、いつかお前さんの大きな成功へと繋がる筈じゃよ(キラキラ)』
妙に目を輝かせて良い言葉をプロスに言って聞かせる。
その言葉にさすがに励まされてると感じたのだろう、プロスが元気を出そうとしている。
「経験としてですか…(ふぅ)…ま、まあ、良いでしょう。
ですが、勝手に宇宙へとナデシコを宇宙へと移動させた方を処罰しないといけませんな」
『ん?宇宙へ移動した奴か?』
「はい、そうです」
『ああ、わしが移動させたよ』
「は?」
全員その言葉に呆然とする。
『だから、わしが移動させた。
ふっ、ま、わしの力を持ってすれば軽い、軽いッ!ふぉっふぉっふぉっふぉ!!』
ぶちぶちぶちっん!ぷっちんちん♪
「き"ぃーさ"ぁーま"ぁぁぁぁぁ!!!!!」
そう言われてプロスが真っ先に首を締めた。
その締め具合に全員納得して頷いている。
くまの方は、首を締められたせいで真っ赤になりながら口の部分から泡がでてきている。
同じようにプロスの方も怒りで顔を真っ赤にしながらくまの首を一生懸命締めている。
『こ…こりゃ!い…一体何をする!!(ぶくぶく)
は…離せ!さっさとこの手を離さんか!!(ぶくぶく)』
ぐ、ぐぐぐぐぐぐっ!!!!!
「お前かァ!お前が、お前が私の計算を狂わせたのかァ!!
お前のせいで!お前のせいで莫大な損失がァ!莫大な利益がァ!!」
金銭が絡んだせいで性格が変わっている。
さすがは、商社マン、社員の鏡であった。
そして、くまが中身に何が入っているのかは、知らないが泡を精一杯出す。
最後だとばかりに周りで頷いている連中へと救いを求めて大声を出した。
『ぐわぁぁぁ!!だ、誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ...』
「み、ミスター落ち着け!何も手を汚すことはない!
それにこいつからまだ何も入りこんだ理由を聞いてないんだぞ!?」
「はぁ、はぁ、そういえば…そうでしたな」
この人を金銭的問題で怒らせるのは、やめよう。
そう、誓ったホウメイは、今後から節約料理を中心にしようか悩む。
その間にプロスとゴートが再度くまを縛り上げて床へと転がす。
そして、それをプロスとゴートが見下ろしながら問い掛ける。
「それで!?貴方は、一体なんなのですか!?
どうして、こんな宇宙へと勝手に移動させたり、変な現象を起こせるのですか!?」
まだ興奮しているプロスがそう叫びながら問い掛ける。
くまの返事を待っているせいで、はぁはぁっとプロスの息遣いだけが聞こえてくる。
くまが答えないということも考えられたが、さすがに命の危険を感じたのか今度は、答えてくれた。
そして、疑問にくまが答える。
『だって、わし遺跡だもーん』
・・・しーん(はぁはぁ)
…その言葉を聞いても全員なんの反応も無い。
聞き捨てならない言葉をくまが吐いたのだが、思考がついていけなかったのだ。
問題発言したくまが縛られているにも関わらず器用に鼻をほじっているのも原因だろう。
そして、代表してプロスがこほんっと咳払いをした後にゆっくりと確認し始める。
ゴートよりもプロスの方がこういう突然の事態には、立ち直りやすいというのもある。
「本当にですかな?」
『いや、マジで』
「本当に嘘じゃなくて?」
『だからマジだって』
・・・。
「「な、なんですとぉー!!!!?」」
「…ちょっと驚くの遅いんじゃないかい?」
ホウメイの冷たい言葉がプロスとゴートに突き刺さる。
しかし、その言葉を吐くと同時にプロスとゴートの時が止まり、石になってしまった。
さて、彼等が知っている遺跡のイメージは、もっと大きいクレーターのようなものだ。
その中枢ユニットというなら有り得ない話でもないのだが、急に現れて言われても信じられる筈が無い。
…ついでにくまが取った行動もその不信感の原因とも言える。
カツ丼目一杯食べて、腹を叩きながらシーハーシーハーやったんじゃ誰も信じたくない。
そんな疑惑の目線をプロスとゴートが送っていると、
この異様な雰囲気についていけないホウメイが口を聞いた。
というのもホウメイは、遺跡を知らないのだから当たり前である。
「ね、ちょっと?遺跡ってなんなのさ?
知ってるから固まってるんだろ?教えてくれよ」
そう、言われてもプロスとゴートは、答えられる筈が無かった。
ネルガルの最高機密と言っても良い情報である。
それを漏らしたら会社の不利益がどれだけ生じるかわかったものではない。
何より彼は、一応現時点では、優秀な社員だったので口が裂けても言えなかった。
そこでプロスは、嘘を付いた。
嘘と言ってもただの説明であったが…。
「はははっ、ホウメイさん。遺跡というのはですね?
地球にもあるようにピラミッドや古代の人間が遺したもののことですよ」
「あさっての方向向いて何言ってんのさ?」
言えないから困ってるンでしょうが…などと心の内で愚痴りつつも困る。
だけどまあ、嘘は一応言ってないので(確かにな)どうにかごまかせれるだろうと思った。
だが、意外でも何でも無いが、ホウメイの疑問に答えてくれる者がいる。
しかも自分の話題だということが余計に口出ししたくなった要因であろう。
とても嬉しそうに縛られていた筈なのに何時の間にか抜け出して喋り出した。
『なあ?お嬢ちゃん?わしはなあ、そんじょそこらの遺跡とはー訳が違う!
火星に1つしかない、いや、この銀河に1つしかない跳躍専用演算装置なんじゃ。
…じゃから、わしのさっき食べた飯代は、タダで良いぞ?
うん、疑問に答えたら何かしてくれるのが普通じゃよな?
まあ、なんて言ったっておぬし等人類の間で今一番ホットな話題じゃから…。
うん、こりゃ、やっぱりさっき食べたカツ丼とかぐらいじゃあ…足りないぐらいかなあ』
などと一方的に喋りながら馴れ馴れしくホウメイの肩に手を置いている。
もう片方の手の動きがさらにそのむかつき具合に腹を立たせるがどうでも良い。
そんなことよりもホウメイは、自分に向かって言われた言葉の意味を考えこんでいた。
(遺跡…こんなん昔の人が作ったのかい?
そりゃあ…オモチャとして作ったものかもねぇ。
よくぺらぺらいらんことを喋るし、おまけに大飯食らいときたもんだ)
『―――――ほんで、お嬢ちゃん』
ホウメイが考えこんでいる間にもくまは、喋り続けていたらしい。
その言葉にふと考えを中断させてくまの次の言葉を待つ。
するとくまは、自分の腹(人間で言ったら)の部分をさすりつつ妙な声を出す。
ゴートに固く縄で縛られているにも関わらず妙な芸当を見せるくまである。
ホウメイは、その動作に食べ過ぎで腹を壊したのかと思ったが、次の言葉で直ぐにその考えを消した。
『注文した親子丼は、まだか?』
(……まあ、このふざけたくまの言ったことは、
後で考えよう…その方が、一番のような気がするよ)
そう、判断したホウメイだったが、このくまが何気に高性能で多機能な奴だとは、思えなかった。
だから判断を保留したのだが、こいつがガツガツ食料を食べるのがエネルギー補充だとは、知らなかった。
あとがき
新キャラ=遺跡くま
他の御方の作品だともっと良い言葉遣いに器を用意しているというのに何故かこんな奴になりました。
『影(シャドウ)』に登場している他のオリキャラ、キタウラ ミユキと一緒に生温かい目で見てやって下さい。
代理人の感想
さすが!
さすが!
さっっっっすがSakanaさんっ!
一体誰が予想したろうか。
遺跡が人語を喋るくまのヌイグルミだなどとっ!
あまつさえカツ丼食うわ精密機械だという割に首締められると真っ赤になるわ。
ナイスです(グッ!)。
>余計な言葉を喋らなくても良いし、うっかり言った発言で窮地に立たされることもない!!
ひょっとしてSakanaさんも大蒲鉾症候群の気がおありで(爆)?