全ての命あるものを阻むように存在する宇宙。
暗く何よりも暗く。
変わる事の無い世界を厳然と見せ付ける。
そんな世界を私は…嫌いだった。
何故ここに居るのだろう。
そう思う時がある。
英雄と呼ばれることとなった時以来思う。
英雄…その言葉がこれほどまでに虚しく哀しいものとは気づかなかった。
彼はこの言葉がどれほど虚しいものか知る事が出来るだろうか?
…あの恐怖を憶えるほどの力を持つ彼は…。
火星のコロニーが消えたのを知ったのは帰還したときだった。
そして自分が英雄扱いされているのを知ったのもそのときだった。
周りは騒がしく私を褒め称える。
それを聞くたびに突き刺さるような痛みを覚えていた。
英雄…それが何だというのだろうか。
護るべき者を殺した者が英雄なのか?
言葉の刃が突き立つ。
褒め称える言葉、その全てが言う。
殺戮者と。
その通りだろう。
護るべき者を殺したのだから。
突き立つ刃。
戻らない時。
いっそのこと……。
この罪科が眠る地へと戻り始めて知った。
恐怖を憶える力をもつ彼は私が消した地の生まれであることを。
復讐…ふとそんな言葉がよぎる。
彼はそのために力を得たのかと。
ならばそれは叶えられるべきものだろう。
ただただ虚しく過ごすこの時を終わらせる者が現われたのだと思った。
終わり。
それを待ち望む事は許されるだろうか?
この私が……。
皆で集まっているとき発せられた真実。
英雄の虚像が消えていく。
それを感じたとき随分と心が軽くなったと思う。
だが彼はそのことを知っていた。
冷たい声でもう良い事だと言った。
もう…いいことなのだろうか?。
終わりが…遠のく。
誰も私を責めなかった。
私は責められる事を望むというのに。
彼の地に生き残っている者達はここには居ない。
居れば彼らは私を責めただろうか?
英雄と呼ばれている私を。
真実を知るものとして弾劾するだろうか?
そうなればその言葉は何よりも私を貫く刃となろう。
虚像を作り無為に過ごす私を貫く刃と…。
罪は無く、咎も無い。
あるのは英雄の虚像。
罪は有る、咎も有る。
無いのは英雄の虚像。
褒め称える言葉が私を弾劾する言葉だった。
言葉が聞こえる度に私の裡で囁かれる。
護るべき者達を殺した者、と。
その通りだ。
だが彼は責めない。
何故?
彼は責めない。
ならば彼に付き添う少年は?
彼と並ぶように、彼の後ろに控えるように居る少年は?
気づくものは居ない。
あの少年が時折する目の輝きに。
昏く、何よりも昏い目の輝き。
あの少年は責めるだろうか?
慕う者の故郷を潰した私を。
終わりが無い。
ならば終わりを目指そう。
終わりが有る。
ならば終わりを目指そう。
英雄でない、という汚名を被ったまま。
私は終わりを目指そう。
漆黒を纏う彼はなにを思うだろうか?
昏い世界を背負う少年はなにを思うだろうか?
彼以上に黒く、暗く、昏い、少年はなにを思うだろうか?
この世界になにを思うだろうか?
この世界に在る人々になにを思うだろうか?
そして…。
英雄の真似事はこれで終わる。
遠かった世界が近づく。
英雄でない私が存在する。
私はその自分に想い馳せる……。