夕食後のオオサキ家。ホウメイという思わぬ来客に、アキトはもちろんのこと、旧知の仲であるシュンも、顔がほころぶのを抑え切れない。
「それにしてもホウメイさん、相変わらずすごいバイクに乗ってますね」
「だろう? CV1300、ホウメイスペシャルさね」
自慢の愛車を褒められて、満更でもないと笑みを浮かべるホウメイ。
「いやあ、でも本当に懐かしいなぁ……ホント、入院中はお世話になりました!」
仰々しく頭を下げるアキト。その仕草に、その場の全員がまた笑う。
「あの、すいません。アキトさんって、入院してるときからこうだったんですか?」
「ん? そうさねえ、はじめのうちはさすがに落ち込んでたんだけれど、ある日突然、こうなった。まあ、切り替えが早いんだな」
ルリの質問に少し首を傾げてからホウメイが答える。
「だってさ、あんまりいい天気だったからさ」
「いい天気、ですか?」
「うん。ある日、目が覚めて空を見上げたら、吸い込まれるような青空でさ。それ見てたら、なんだか嬉しくなっちゃってね」
「まあ、一言で言えば、脳天気なんだな、テンカワは。それが、あたしの分析だよ」
「いやぁ、そんなに褒められると……」
「褒められてるのかなぁ……?」
笑いながら後ろ頭をかいているアキトに、聞こえないような小声でハーリーのツッコミが入る。声には出さないけれども、ルリも同じ思いだった。
「しかし久しぶりだなあ、よし、アキト。例の秘蔵のヤツ、持ってきてくれ」
「え? あ、あれですか……?」
いきなりアキトが冷や汗混じりの声を出す。ルリも、ハーリーも似たような表情だ。
「い、いや、いいよ、シュン。酒はさ」
ホウメイの表情も、心なしか青ざめている。
「何を言ってるんだ。久しぶりに会った友人と酒を酌み交わす、こんな機会、放っておけるわけがないだろう?」
「あ、あのシュンさん、あれ、どこに仕舞ってましたっけ?」
「なんだ、憶えてないのか。じゃあいい、俺が自分で探すよ」
「そ、そんな! そう! 俺がいまコーヒーでも淹れてきますから!」
「いいよいいよ、俺が好きで探すんだから。じゃあホウメイ、ちょっと待ってろ」
引き留めようとするアキトを振りきって、キッチンへと姿を消すシュン。その後ろ姿を、四人は複雑な面もちで見送っていた。
警視庁未確認生命体対策班、G3ユニットの詰め所となっているGトレーラー。もちろん専用の執務室などは用意されているのだが、非常時にすぐ行動に移れる点から、普段からメンバーはここに詰めていた。
そして先ほど辞令を受けたとき、その旨を聞かされた彼女も、執務室ではなく、ここへとやってきていた。
「失礼します」
声をかけて、中に入る。だが、人影はない。不在なのか、そう思って辺りを見回した彼女の目に、青い鎧が飛び込んできた。
「これがG3−X……」
資料では知っていたが、直に見るのはこれが初めてだった。吸い寄せられるようにシステムに近づき、その手で触れる。手の平に伝わる冷たい感触が、これが無機質な機械であることを強く思い起こさせる。
「これでガイは……」
呟いたとき、扉が開いて中に誰かが入ってくる。自分のしていることに気がついて、思わず気が動転してしまった彼女は、脇に抱えていた資料をその場に落としてしまった。
「あれ? メグちゃん?」
聞こえてきた音に、ユリカは同僚の名前を呼ぶ。しかし呼んでから、もう彼女はとっくに帰っていることを思い出す。
不思議に思って音がした方に向かうと、そこでは自分と同じ青い制服に身を包んだ長身の女性が、床に散らばっている資料を必死になって集めていた。
「あ、え、えっと、その!」
ユリカに気付き、女性は気が動転してしまっている。その彼女の顔を見て、見覚えがあることに気付く。どこで見たのだろうかと記憶を探り、ついさっき渡された資料の中に、彼女の写真があったことを思い出した。
「確か……御剣、万葉さん?」
「は、はい! 本日付けでG3ユニットに配属となりました、御剣万葉です!」
ユリカに名前を呼ばれ、直立不動で敬礼してみせる万葉。その拍子に、せっかく集めた資料がまた床にばらまかれる。
「ああっ……」
「いいですよ、固くならなくても。ここは堅苦しくないのがモットーですから」
ニッコリと微笑むユリカに毒気を抜かれたのか、万葉は呆然と立ち尽くしている。その様子に小さく笑みをもらしてから、ユリカは散らばった資料を拾い集め始めた。それを見て、慌てて万葉も拾い始める。
資料をすべてまとめ、手渡されたときも、万葉はすっかり恐縮してしまっていて、頭を下げっぱなしだった。
「すみません、ミスマル管理官……」
「だからそんなに堅苦しくなくていいよ。気軽にユリカ、でいいから。私も万葉ちゃんって呼ばせてもらうね」
「は、はあ……」
しかし上司をそう呼ぶわけにはいかない。万葉の倫理観(というか常識)では、それは非常にはばかられる。
「他の人たちにも紹介したいんだけど、メグちゃんはもう帰っちゃってるしなぁ」
「あの、ガイ……ヤマダ主任は?」
「ヤマダさん? 報告書を提出してからだから、まだいるんじゃないかな? でもここには寄らずに、そのまま帰ると思うけど」
「そうですか……それではご挨拶はまた後日に」
「だから万葉ちゃん、そんなに固くならなくていいよ」
ニコニコと邪気のない笑みを浮かるユリカに、万葉は圧倒されてしまっていた。どうにも、彼女の苦手とするタイプの人間だ。もちろん悪い人じゃないのは直ぐに分かったし、好き、嫌いで言えば、嫌いではないのだけれど。
「私、これからちょっと資料をまとめなきゃならないんだけれど……万葉ちゃんは、今日はどうするの?」
「いえ、今日は挨拶に来ただけですので……」
「そっか。じゃあまた明日かな。お休み!」
「それにしても驚いたぜ。こっちに来るとは聞いてたけどよ、まさか配属先がウチだとはね」
「そう言われると、驚かせようと思って黙っていた甲斐があったな」
すっかり暗くなった街並みを、ガイと万葉の二人は連れだって歩いていた。
報告書を提出し、さて帰ろうかと思った矢先に電話がかかってきた。出てみると、昔の同僚の万葉で、こっちに来ているという。なら待ち合わせてメシでも食っていくか、という話になって、ここに至るわけだ。
しかし、その配属先がまさかG3ユニットだとは。ガイが驚いたのも無理はない。
「ところでどうする? この時間だと、ファミレスとかしか開いてないけどよ?」
「そうだな……この辺の店など知らないしな。行き付けの店でもあれば任せるんだが」
任せる。
そう言われて、ガイは首を捻ってしまう。確かに行き付けの店はあるけれど、万葉には抵抗がないだろうか?
そんなことを気にするぐらいのことは、ガイにも出来た。
「行き付けか……あるにはあるがよ、焼き肉だぜ?」
「かまわんさ。下手に居酒屋に連れて行かれるよりは、私は好きだぞ?」
「んじゃ、行くか。ちょっと歩くけどよ」
万葉の快諾を得て、ガイの足は例の焼肉店へと向かった。
「それにしても北ちゃん、相変わらずよく食べるよね……」
焼肉店のテーブルで向かい合わせに座りながら、北斗と零夜は焼き肉に舌鼓を打っていた。もっとも食べているのはもっぱら北斗の方で、その食べっぷりたるや、テレビの大食い番組の出場者にも負けていない。
「力を使った後は、腹が減って仕方がないんでな」
そう言って食べ頃に焼けたカルビを箸でとった北斗だったが、零夜の表情が暗く沈んでいることに気付く。
「……どうした?」
「やっぱり、また、戦ってたの?」
「……ああ。そのために、俺の力はある。そう思えるようになったからな。俺が俺であるためにも、奴らと戦うさ」
答えてから、猛然と食べ始める。
零夜が自分の身を案じてくれているのは分かっている。昔の、変身するたびに肉体に大きなダメージを受けていた時のことを知っているだけに、零夜の不安も分からないではない。
だが、いま零夜に話したことが、彼女の答えのすべてだ。
どうして、何のために。自分の力に、そんな問いかけを続けていた彼女が見つけだした一つの答え。それが奴らと、アンノウンと戦うことだった。
「一人で戦っているわけでもないからな。警察の連中もいるし、零夜。お前だって、一緒に戦ってくれている」
北斗の言葉の意味が分からないのか、零夜はぽかんと北斗の顔を見つめていた。
「お前がこうして一緒にいてくれることで、どれだけ支えられてきたか。そんな日常があるから、それを守りたいと思うから、俺は戦うんだ」
言ってから、柄にもないセリフだったことに気恥ずかしくなり、さっきまでにも増して勢いよく肉をかっこんでいく。そんな北斗に零夜もようやく笑みを浮かべ、彼女もまた食べ始めた。
「お、北斗じゃねえか?」
声に顔を上げてみる。そこには見知ったというか、背中を預ける戦友の顔。この姿で会うことは滅多にないが。
「なんだ、あんたか」
もちろんそこにいたのは、ガイだった。後ろに初めてみる女性を連れている。もっとも、北斗はガイ以外のG3ユニットのメンバーを、誰一人として知らないのだけれども。
「さっきは助かったぜ。あんがとよ」
「……あのときアキトにも言ったが、別にお前を助けたわけじゃない。気にするな」
返ってきた北斗の答えが、自分の予想通りだったことに、ガイは思わず苦笑する。
「それじゃ、またな」
「ああ」
それだけ言うと、ガイは女性と共に別のテーブルに向かっていった。
「北ちゃん、今の人は?」
「さっき言っただろ? 戦友さ」
北斗の視線の先で、ガイと万葉の二人がやってきた店員に注文している。
精々、頼りにさせてもらってるんだからな。
心の中で呟いて、再び箸を口に運ぶ。
「ガイ、今の女性(ひと)は?」
そして一方、テーブルに着くなり、開口一番に万葉が尋ねたのはそれだった。
その視線に込められた、やけに強い光に、ガイは狼狽えてしまう。
「ん、ああ……ちょっとした知り合いだよ」
「それだけか?」
「それだけって……他に何かあるか?」
「……そうだよな、お前にこういうことを聞いた私が馬鹿だったな」
睨み付けていたかと思うと、急に吹き出してにこやかな笑みを浮かべる。そんな万葉の様子がさっぱり分からなかったが、まあそんなものかとガイは結論づける。
ダイゴウジ・ガイ(本名ヤマダ・ジロウ)。彼が女性の心の機微について少しでも理解できるのは、まだまだ遠い先の日のようである。
川縁のオープンカフェ。一日の営業を終え、店長だろうか、青年が食器などを片づけている。
その様子を窺う異形の影。ほど近い橋の上から、その彼を狙うそれは、紛れもなくアンノウンだった。
「すみません、止められなくって……」
「いや、いいさ。ああなったシュンが止まらないのは、あたしも良く知ってるからね」
笑いながら、テーブルに座るホウメイは、ピーマンを玩んでいる。
ちなみにシュンはソファーの上で、すっかり酔っぱらってしまい高いびきだ。
「どうだい、調子は?」
「調子ですか? まあまあですよ。それなりにやってます」
こちらも笑いながら、アキトはボウルに盛られたピーマンのサラダをホウメイの前に置く。
「お、ピーマンのサラダかい?」
「はい。炒飯とこのサラダが、俺の料理人としてのスタートですからね」
「まだまだ半人前のくせに、セリフだけは一人前なんだからね」
口では咎めつつも、ホウメイの顔は綻んでいる。アキトも照れくさそうに笑うと、フォークと箸の両方を出して並べる。
「どれ……へえ、腕上げたねぇ。このドレッシング、なかなかいけるよ」
「ホウメイさんがそう言ってくれるなら、安心です。どこにでも出せます」
「あたしゃ毒味役かい?」
「弟子の料理の味を見るのも、師匠の役目じゃないんですか?」
「まったく、本当に口は一人前だね」
呆れたように、アキトの頭を小突く。叩かれたところを抑えながら、アキトは流しに洗い物を片づけに戻る。
「本当に……相変わらずだね……」
「ホウメイさん? 何か、あったんですか?」
いきなり黙り込んでしまったホウメイに、アキトは戸惑ってしまう。どこか、背中が小さく見える。こんなホウメイの姿を見るのは、初めてだった。
「いや、ちょっとね……」
「…………」
やっぱり、変だ。何か言わなきゃ、そう思って一歩踏み出そうとしたアキトの脳裏に、映像が浮かぶ。
深夜の川縁。歩みを進めるアンノウンの姿。反射的に、アキトは駆け出していた。
「テンカワ?」
「……すいません、ホウメイさん。俺、行かなきゃいけないんで!」
「テンカワ!?」
ホウメイが呼び止める声も聞かず、アキトはオオサキ家を文字通り飛び出していった。
「うあああああぁっ!?」
にじり寄る異形の姿。甲虫のようなその怪人に、青年は腰を抜かしていた。
甲高い音を立てて、アキトのバイクが急停止する。すぐさまバイクから飛び降りると、アキトはアンノウンに飛びかかっていく。
「逃げて!」
アキトの声に、青年が顔を上げる。そして這うようにしながら背を向けると、一目散に逃げ出していく。
「ムン!」
アンノウンの額から、光る針が打ち出される。それは逃げる青年の盆の窪の辺りに命中するが、青年に変わった様子はない。だがアンノウンはそれ以上、青年を追おうとするのをやめた。
そしてアキトを振り解く。投げられて、体勢を崩しながらもアキトはアンノウンに相対する。
ホウメイが、その現場に到着したのはまさにそのときだった。ヘルメットを取り、アンノウンと向かい合うアキトの姿を見つけ、息を呑む。
アキトが左の腰で両腕を重ね、そして左右に広げる。
ゆっくりと右手を前に翳し、叫ぶと同時に腰に現れたベルトの左右を両腕で叩く。
「変身!」
瞬間、アキトの身体は金色の戦士へと変貌する。
「アキト!?」
ホウメイの驚く声が、夜の闇に吸い込まれていく。その間にも、アキトとアンノウンの戦いは始まっていた。
だが、明らかにアキトが劣勢だった。先日の戦いでも、アキトの必殺のライダーキックは、このアンノウンに効かなかった。自身の最強の攻撃が効かない以上、アキトに勝ち目は薄い。
もちろんそれはアキトも良く心得ている。対抗するには、あの力しかない。
胸板を蹴り付け、その反動で宙を舞う。そうして距離を取ると、アキトは両手を前に翳し、ゆっくりと左右に広げて見せた。
ベルトのバックルの、形状が変わる。赤い輝きを発するベルトの、左右を叩く。全身の筋肉が盛り上がり、そして赤い光に包まれていく。
アキトの生存本能がもたらした、生き抜くために得た力。それがアキトの新たな力、バーニングフォームだ。
「ウアアアアアアッ!」
雄叫びと共に、アンノウンに殴りかかる。ライダーキックさえ効かなかったその外皮に、渾身のパンチが振り下ろされる。
一発、二発、三発……。
本能のままに繰り出される攻撃は、確実にダメージを与えていた。
それでもアンノウンの力は強大だった。他のアンノウンであれば、一撃で粉砕せしめるバーニングフォームのパンチを、これだけ受けてもまだ立っている。
それだけでも、その計り知れない力は、容易に想像できた。
「はあ、はあ、はあ……」
アンノウンの手から逃れ、必死に走り続ける。どこへ逃げればいいかなど分からない、ただ、逃げなければ殺される。
それだけははっきりしている。
だから、死に物狂いで逃げていた。対岸へ渡ろうと、橋の中程まで走ってきたところで……急にバランスを崩し、慌てて欄干にしがみつく。
何かにつまずいたのかと振り返ってみると、そこには転がっているスニーカーと、その中に山のように詰まっている灰。
そのスニーカーには、見覚えがある。他でもない、自分がたったいま履いているスニーカーだ。
え?
視線を落とすと、ジーンズから出ているはずの、足首から下がない。
そんな馬鹿な。だが、事実として、ジーンズの中に、彼の足はない。
じゃあ、どこに?
それを疑問に思う間もなく、彼の全身は、灰となって崩れ落ちた。
「ウオォォォォッ!!」
アキトとアンノウンはもつれ合いながら、互いにノーガードで殴り合う。相手の攻撃を防ぐことよりも、ただ、叩きのめすことしか考えていない。
アキトのパンチが胸板に入る。それに怯むことなく、アキトの首筋にアンノウンは肘を落とす。続けて繰り出された蹴りをアキトは受け止め、一本背負いの要領で投げ飛ばす。
川岸の歩道に落とされたアンノウンを追ってアキトが飛びかかる。それをかわし、膝が叩き込まれる。転がったアキトに追撃をかけようとするが、今度は逆にアキトがカウンターで蹴りを見舞う。そして起き上がり様に回し蹴り。
再び距離を取って睨み合う両者。相手に向かっていったのは、またしても同時だった。
鈍い音と共に、互いの一撃がカウンターで胸板に決まる。次の一撃はアキトがボディへのアッパー、アンノウンが顔面への肘打ち。決まったのは同じタイミングだったが、アキトの方が打ち負ける。
体勢を崩したアキトの喉元に、アンノウンの横蹴りが決まる。宙を舞い、鉄柵をなぎ倒していくアキト。立ち上がってすぐさま反撃に移ろうとしたとき、その視界からはもう、アンノウンは消え去っていた。
それでもまだ、アキトは周囲を探し続ける。そしてその目に、彼を追ってきたホウメイの姿が飛び込んでくる。
ゆっくりと向かってくるアキトの姿に、ホウメイは言いしれぬ不安を覚えた。何かが、『テンカワアキト』とは違う。それが何か、理解するより早く、アキトの拳がホウメイに迫っていた。
慌てて飛び退くホウメイ。アキトの拳は彼女を外れ、その後ろにあったモニュメントを粉々に粉砕する。
何が起こったのか、ホウメイはまだ理解できない。だが彼女が理解しようとするよりも早く、再びアキトが彼女へと襲いかかる。
身体ごと飛び込む、強烈なまでのタックル。それはホウメイを掠め、植えられていた街路樹を苦もなくなぎ倒す。それでもまだ、アキトの暴走は治まらない。
「テンカワ?」
ホウメイの声も、届いているのか。ゆっくりと肩を上下させながら、アキトが立ち上がる。そして、その右の拳が高々と掲げられ……。
「テンカワ!!」
ホウメイの、怒鳴り声。初めて、アキトの動きが、ゼンマイの切れた玩具のようにぴたりと止まる。そしてその姿が『仮面ライダーアキト』から『テンカワアキト』へと変わってゆき……。
「ホウメイ……さん?」
「気付いたんだね、テンカワ……」
刹那、アキトの脳裏に、たったいま自分がしたことのすべてが、映像を伴って蘇る。自らの両手を見つめ、自らが破壊した残骸を見つめ……。
「テンカワ!?」
アキトは、意識を失ってその場に崩れるように倒れ込んだ。