機動戦艦NADESICO
時空を越えて 集う者たち
《第0話:全てはボソンジャンプより始まる》
『火星の後継者』と名乗った男、草壁
春樹らとの闘いから、3ヶ月が経とうとしていた・・・
あの闘いで救い出されたユリカは、やはり遺跡との『人間翻訳機』として使われていた影響で病院への緊急入院となった。
その身体は、随分と長い間遺跡と融合させられていた為に著しい身体機能の低下に陥っていた為、まともに歩くこともできなくなっていた。そのためにユリカは病院でのリハビリ生活が余儀なくされた。
しかし、ユリカは再びアキトが戻ってくることを信じてリハビリをしたおかげで順調な回復ぶりを見せ、もう普通に歩けるようにもなり、退院も近くなってきている。
しかし、アキトはユリカが入院してからまだ一度もユリカ達の前に現れてはいなかった・・・
ホシノ ルリは暇なときがあったらできる限りユリカのもとへお見舞いに行くようにしていた。
大切な家族が来たという事で、ユリカは普段通りに明るく振舞おうとしていたみたいであったが、ルリにはそれが無理をしているようにしか見えなかった。
ルリは昔あった自分の『家族』を取り戻すために、自分の部屋に同じナデシコCの乗組員であるタカスギ サブロウタとマキビハリ(通称ハーリー君)、それにイネス フレサンジュ博士を呼んだ・・・
「はぁ〜。艦長ったら、一体僕に何の用事なんだろう?だけど僕だけを呼んでくれるなんて、なんて幸せなんだ!!!艦長が、艦長が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!」
ハーリーは艦長に自分だけ部屋に呼ばれたと思い、完全に自分の世界に入り込んでしまっている。
「よー、ハーリー。お前、何言ってるんだ?」
サブロウタから急に話しかけられたので、ハーリーは現実の世界へと引き戻された。そして、今自分が言っていた独り言を思い出し、顔を紅潮させながらサブロウタに言った。
「何でもありませんっっっ!!!!!ところでサブロウタさん、イネスさんと一緒に一体何処へ行くつもりなんですか?」
サブロウタの後ろには、イネスがカツッカツッと足音をさせながらついてきていた。
「んん?あぁ、艦長が私の部屋に来いって言うもんだからさ、艦長の部屋へ向かっている所だったんだ。イネスさんとは来る途中に出会ってさ、行き先も同じだって言うもんだから一緒来ていたってわけだ。」
ガァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!
サブロウタの言葉を聞いたハーリーはいきなり元気が無くなってしまった。そして頭を下げて、なにやらブツブツと言いながら再び歩き出した。
(おっ・・・もしかして・・・)
サブロウタはハーリーの隣にくると、ハーリーの肩に腕を廻し、ボソッと呟いた。
「ハーリー。お前、艦長からの愛の告白でも期待してたんだろう?」
「!!!な、な、何を言ってるんですか!そんなことを期待なんかしてはいません!」
ハーリーは否定をしたが、その顔は真っ赤になっていた。
(図星だったんだな・・・)
サブロウタはハーリーの反応から更に一言言った。
「俺達がいなかったら『ハーリー君、実はね・・・わたし・・・・ハーリー君のことが・・・・・・その・・・・・』てな感じで艦長から告白されて、展開次第じゃキスまでも・・・とか考えていたんだろ。いやぁ〜、青春だねぇ〜。」
「何を言うんですか、僕はそんなこと・・・そんなこと・・・」
「あなたたち。そろそろその話は止めたら?もうルリちゃんの部屋の前よ。まぁ、私としては続けてくれていたほうがおもしろくていいんだけどね。」
何時の間にかすぐ後ろまで追いついていたイネスに言われて、サブロウタはハーリーをからかうのをやめた。
(大抵の女性は好きなんだが、どうもイネスさんは苦手なんだよなぁ〜)
部屋にいる艦長を呼ぶ前に、なんとか気分を落ち着けたハーリーは自分の持っていた疑問をサブロウタ達に尋ねた。
「あの、サブロウタさんは艦長が何故僕達を呼んだのか、その理由を知っていますか。僕にはただ来てくださいとしかいってくれなかったのですが・・・」
「俺にも用件は艦長室でってことで教えてくれなかったぜ。」
「そうですか。」
結局どんな用事なのかは分からないまま、ハーリーが艦長を呼んだ。
「艦長。マキビハリ、タカスギ サブロウタ副長、イネス フレサンジュ博士と共に来ました。」
「ハーリー君、そんなに硬くならなくてもいいですよ。ともかくよく来てくれました。部屋のキーは掛かっていないので、とりあえず入ってきてください。」
「はい。失礼します。」
ハーリーだけがきちんと返事をしたのに対して、サブロウタとイネスはまるで自分の部屋に入るかのように、
「失礼しまーす。」
「失礼するわね。」
と言い、部屋の中へと入ってきた。
(イネスさんはいいとしても、サブロウタさんはもう少しきちっとしてもらいたいな。ま、いつものことだからしょうがないんだけど・・・)
ハーリーはサブロウタの言葉にあきらめの感情を抱きながら、ルリのもとへと向かっていった。
「艦長、今度の任務は一体何なんですか?」
ルリの前に立って開口一番、サブロウタは尋ねた。
「サブロウタさんはなんとなく気づいているみたいですね。今回の任務は、ナデシコCのみでのユーチャリスの追跡です。」
「そして、そのユーチャリスに乗る天河 アキトを連れ戻すこと・・・ですね。」
「はい。そうです。」
今の会話により、ハーリーは今回の任務の内容は分かった。しかし、そこから新しい疑問が生まれていた。
「でも艦長、ユーチャリスの居場所が分からないのでは僕達は動きようがないんじゃないんですか?」
「そうですね。その為にイネスさんを呼んだというわけです。イネスさん、あなたなら今ユーチャリスが何処で何をしているのか知っているのでないですか?あなたは一度死んだことになっていた人ですからね。」
ルリが尋ねてから暫くすると、イネスはゆっくりと話し始めた。
「・・・絶対とはいえないけれど、知っているわ。エリナから以前聞いた話によれば、アキト君は現在火星宙域に時々出現する『火星の後継者』の残党の排除をしているみたいよ。これはアキト君自身がネルガルから出て行くときに言っていたそうだから、いる可能性は高いわ。」
「分かりました。」
「クルーはどうするんですか?艦長。もしかして今回もナデシコAの時のクルーを集めるんですか?」
「いえ、今回はわたし達3人とあと、イネスさんには今回もA級ジャンパーのナビゲーターとして乗ってもらいたいのですが、かまいませんか?」
「ええ、いいわよ。」
「それではナデシコCは明後日、ユーチャリスの追跡に火星宙域に向かいます。」
こうしてルリ達を乗せたナデシコCは宇宙へと飛び立っていった。
(あれからもう3ヶ月が過ぎたのか。ユリカやルリちゃんは元気にしているだろうか・・・)
北辰を倒して復讐を果たしたアキトは、一度月のネルガルの研究所に戻ってエリナやアカツキ達に別れを告げに行った後ネルガルを後にし、火星に時々やって来る『火星の後継者』の残党の排除と、遺跡の監視を行なっていた。
(ラピス。結局君には普通の生活を与えてやることができなかったな。)
アキトはラピスを月で降ろして行こうと考えていたのだが、ラピスは絶対についていくと言い、アキト自身もいてくれたほうが助かるため、まだアキトと行動を共にしていた。
アキト達は今宇宙に出ていた。
無限に広がるこの暗黒の世界の中で、アキト達を乗せるユーチャリスは、何処へ行くわけでもなく、ただ、漂っていた。
(・・・キト。アキト。来たよ。3時の方向。)
ラピスが感情を感じさせない単調な口調で、アキトの脳に直接話し掛けてきた。
(・・・分かった。俺はブラックサレナで出撃する。ラピス、何かあったら知らせてくれ。)
(分かった。)
ラピスに伝えた後、アキトは出撃した。
『火星の後継者』の残党の艦隊がバイザーを通して確認できるようになったときだった。
(アキト!アキトから見て9時の方向にボース反応増大!識別信号によると・・・連合宇宙軍所属、ナデシコCよ。)
(ナデシコCか・・・分かった。)
ナデシコCの出現に気にした素振りも見せず、アキトは残党の艦隊へとブラックサレナを向けた。
「艦長、10時の方向に謎の艦隊と、ブラックサレナの反応があります。どうしますか?」
「おそらくあの艦隊が『火星の後継者』の残党でしょう。サブロウタさん。エステバリスでブラックサレナの援護に向かって下さい。」
「了解。」
「ハーリー君、あなたはこの付近にユーチャリスがいるはずですから、見つかったらわたしにすぐに報告してください。」
「分かりました。」
ルリはコミュニケを通じて的確な指示をしていった。
(・・・アキトさん、今回は逃がしません!)
ブラックサレナはもの凄いスピードで戦艦などを打ち落としていく。
「こりゃあ、俺の援護なんて全く必要無さそうだな。」
サブロウタが呟いている間にも、敵の反応はレーダーから瞬く間に消えていっている。
「そのようですね。サブロウタさん、もう結構ですからナデシコに戻って来て下さい。」
ルリはコミュニケでサブロウタに伝えた。
「・・・了解。」
アキトの乗るブラックサレナの鬼神の如き強さを暫らく見た後、ナデシコへと帰還した。
「・・・ジャンプ。」
ブラックサレナはサブロウタのエステバリスには興味が無かったらしく、敵を全て倒すと共にその場から消えてしまった。
ユーチャリスに戻ったアキトにラピスが言ってきた。
「アキト、ナデシコCから通信が来ているよ。開く?」
「・・・開いてくれ。」
現れたコミュニケには、ルリの姿が映し出された。
「・・・お久しぶりです、アキトさん。今日はあなたを連れ戻すために来ました。」
「・・・だめだよ、ルリちゃん。もうあの天河 アキトは死んだんだ。今の俺は、昔の俺にはもう戻れない。もうルリちゃんたちに、ラーメンを作ってやることもできないしな・・・」
「いいえ。アキトさんは何も変わってはいません。アキトさんは自分から逃げているだけです。ユリカさんやわたしの気持ちを考えているんですか?わたしは昔の『家族』を取り戻したい。ただ、それだけなのに・・・」
ルリは目に涙を浮かべながら、アキトを説得しようとした。
「もう無理だよ、ルリちゃん・・・」
(・・・ラピス、ジャンプの準備をしてくれ・・・)
アキトはボソンジャンプでこの場を離れようとする。
「ルリちゃん、これでお別れだ。もう会う事も無いだろう。ユリカや皆と幸せになってくれ。ラピス!」
「逃がしませんよ!!アキトさん!!」
ズドォォォ〜〜〜ン
「!!!どうしたんだ、ラピス。」
「ナデシコCから何かが打ち込まれたみたい。」
(ルリちゃん、そこまでして俺を行かせたくないのか・・・)
「アキト、大変!ジャンプフィールドが暴走しちゃてる!このままだと何処へ飛ばされちゃうか分かんないよ!」
いつもは冷静なラピスも動揺しているようだった。
「ルリちゃん、逃げるんだ!このままだとナデシコCまでランダムジャンプに巻き込まれるぞ!!」
「嫌です。そんな事をしたらもうアキトさんとは会えないかもしれない。逃げるんならアキトさん達も一緒です!ナデシコCにジャンプで跳んできて下さい。」
ルリは逃げようとはせず、必死にアキトを説得しようとしていた。
「そんな暇なんて無いよ。アキト、ジャンプが始まっちゃう!!」
「すまない、ラピス。ナデシコの皆!!」
ユーチャリスとナデシコCは、広がる漆黒の闇の中へと消えていった・・・
次回予告:
ジャンプフィールドの暴走によるランダムジャンプにより何処かへと跳ばされてしまったアキト達。
はたしてアキト達は無事なのか?
そして、一体何処へ跳ばされたというのか?
次回、
《第1話:『「男らしく」で行こう!』・歴史はここから始まった》
を皆で見よう!!
*
訂正と変更のお詫び*
機動戦艦NADESICO 『時空を越えて 集う者たち』:第1話を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。
作者のシゲです。
何とか1話を完成させることができました。
この1話では、《予告編》のときには『火星の後継者』の事件から2週間後という設定になっていましたが、3ヶ月後に変更しました。
すいません。シゲにもいろいろと事情があるわけです。
また、《予告編》では題が機動戦艦NADESICOなのに、機動戦艦NADESIKOになってしまっていました。ホントにゴメンナサイ。
誤字・脱字が無い様、気をつけて書きますので許してください。
さて、次回よりいよいよ本編へと入っていきます。
どんな展開が待っているのか、期待して待っていてください。
それではっ・・・Good
Bye!
管理人の感想
シゲさんから続編の投稿です!!
いや〜、時間が掛かってますね〜
しかし、イネスさんを連れて行きますか?
Benはユリカだと思ってたんですけどね?
・・・じゃあ、イネスさんはアイちゃんと合体するのかな?
それとも、火星の研究所にいるイネスさんか?
う〜ん、これは続編が楽しみにですね〜
それでは、シゲさん投稿有難うございました!!
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