< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 ・・・来ましたか。

 さて、どんな方なんでしょうね?

 上からの情報にはフォースの能力を使っていたそうじゃないですか。

 私の力も使えるのでしょうか。

 

 まあいいです。

 私の任務は彼の捕獲です。

 おそらく、私の力では彼の勝つことは無理でしょうが命令ですから仕方がありません。

 そうでなくても彼の力を調べることは出来るでしょう。

 駒も幾らか借りてますし、鎧の使用も降りてますからね。

 やるだけやってみましょう。

 

 

 

 

「なあ、なんで俺達、あんな餓鬼の命令に従わなきゃいけないんだ?」

 

「しかたねえだろ、命令なんだから。」

 

「だけどあの餓鬼変な感じがするぜ。

 なんかやばくねえか?」

 

「そうだな、俺もだ。

 だけど所詮、俺達は下っ端だ。

 言われた通りにするしかねえだろ?。」

 

「貧乏くじじゃなきゃいいけどな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいかねえな〜

 やっぱり誰かに教えてもらうか。

 ・・・だめだ、こんな小恥ずかしいこと誰かに言える訳ねえ。」

 

「こんな所で何やってるんですか?」

 

「うわっ!! なんだ、おめえか。

 びっくりするじゃねえか。」

 

「すみません、それで何をやってるんです。

 見たところ・・・・・・っているみたいですけど、まさか・・・

 昨夜の事件のこと知らないんですか?」

 

「知ってるよ!! だから俺も!!・・・」

 

「俺も?・・・」

 

「・・・・・・(//////)」

 

「なら、昨日の結果がどうなったか知ってますよね。」

 

「お、俺のは大丈夫だ・・・・・・多分。」

 

「・・・・・・まあ、あの二人よりは多少まともみたいですよ。

 あくまで多少ですけど。」

 

「あ、こら!! 勝手に見るな!!」

 

「それでどうするんです?

 アキトさんにとどめを刺す気ですか。」

 

「う、うるせ〜!! 今までやった事ねえんだ。

 上手く出来る訳ねえだろ!!」

 

「はぁ、わかりましたよ。

 アキトさんを死なせるわけにはいかないし

 僕が一肌脱ぎますよ。」

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ビーチ手前で着水。

 各自、上陸用意をさせて。」

 

 

「は〜〜〜〜い♪」(ブリッジ全員)

 

 

「ルリルリ、貴方肌が白いんだから日焼け止めはコレ使いなさい。」

 

「すみません。

 海、二回目なんです。」

 

「ふ〜ん、一回目は誰と行ったのかな?」

 

「・・・秘密です。」

 

 

 

 

 そして、ナデシコはテニシアン島に到着した。

 

「パラソル部隊急げ〜〜〜〜!!」

 

「お〜う!!」

 

 元気だね〜、リョーコちゃん達は。

 

「女子に負けるな〜〜〜!!」

 

「お〜う!!」

 

 ・・・アカツキ達も十分元気だな。

 

「ちょっと待ちなさい貴方達!!

 貴方達解ってるんでしょうね!!

 貴方達はネルガル重工に雇われているのよ!!

 だから・・・遊ぶ時間は時給から引くからね。」

 

 

「はぁ〜〜〜〜?」(全員)

 

 

 セコイぞ、エリナさん・・・

 

「はい、これ私が作ったシオリ。

 よく読んでよね。

 まず、海の深い所には・・・」

 

 誰も聞いて無いって・・・エリナさん。

 

「・・・解った? って誰もいないじゃない!!

 もう!! 私も遊ぶからね!!」

 

 バッ!!

 

 ・・・十分遊ぶつもりだったんでしょうが。

 制服の下に水着を着てるんだから。

 

 

 

 

 

「・・・ハァ、海か・・・

 嫌なところに来ちゃったな・・・」

 

 

 

 

 

 

「ふう・・・ユリカやメグミちゃん、それにリョーコちゃん達は海で遊んでる、と。」

 

「ちなみに私は隣で情報収集してますよ、アキトさん。」

 

 ・・・何時の間に俺の隣に。

 

「そ、そう。

 ルリちゃんも少し日に焼けたら?」

 

 俺の視線の先には日光浴をしている、イネスさん、ミナトさん、ホウメイさんがいた。

 

「・・・止めておきます。

 私はアキトさんを見張ってますから。」

 

 どう言う意味だ?

 ・・・いろいろと考えられるが。

 ま、今回は大人しくこの場所で待機しておこう。

 幾らなんでも、自分から進んで例の自殺願望少女に会いたいとは思わない。

 

でも、アキトさんですからね・・・

 

「何か言った? ルリちゃん?」

 

「いえ、別に。」

 

 

 

 

 アカツキ達がパイロット同士で、ビーチバレーを開始した。

 

「テンカワ君はやらないのかい?」

 

「残念ながらパートナーがいないよ。」

 

 

 ギンッ!!

 

 

 ・・・不用意な一言だったらしい。

 

「俺がパートナーになってやるぜ、テンカワ!!」

 

「私が一緒に組んであげるよ、アキト!!」

 

「私がアキトさんのパートナーになるんです!!」

 

「「「う〜〜〜〜〜〜!!」」」」

 

 

「・・・アキトさんの馬鹿。」

 

「はい・・・」

 

 こんな所に来てまで反省している俺って・・・

 

 

 

 

 

 ゴートさんとプロスさんは、ビーチパラソルの下で将棋。

 ウリバタケさんはマズイと自負している浜茶屋を出して、ジュンはそこでラーメンを食べている。

 他の皆もいろんなところで海水浴を満喫しているようだ。

 

 

 

 

「ねえ、テンカワ君。

 一つ聞いて良いかしら・・・君、火星から来たのよね?」

 

 エリナさん・・・もうそろそろだと思ってたが

 そうか、過去でもここからアプローチが始まったんだったな。

 

「ええ、そうですけど。」

 

「どうやって激戦下の火星から脱出してこれたの?」

 

 何処まで話そうかな?

 ま、今更隠す必要は無いんだけどな。

 ・・・過去での仕返しを兼ねて、焦らすのも面白いかもな。

 

 ルリちゃんがどうするんですか? と、目で聞いてくる。

 ここは一つ・・・

 

「それはですね・・・」

 

「アキト!!」

 

「テンカワ!!」

 

「アキトさん!!」

 

 

「誰とパートナーになるのかアキト(テンカワ)(さん)が決めて下さい!!!」

 

 

 ・・・まだ、その事で争ってたのか三人共。

 結局、エリナさんの追及はうやむやのうちに終わった。

 

 

 

 

「・・・本当、何やってんだか。」

 

「・・・返す言葉もありません。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、そう言えばあと一人・・・

 

「さっきからシンジくんの姿が見えないけど・・・」

 

「何ですか?」

 

 シンジくんは俺の後ろで座り込んでいた。

 なんで君達は俺の気づかないうちにいるんだ。

 

「シ、シンジくんはどうして服着たままなんだい?

 泳いだりしないのかい?」

 

「・・・・・・」

 

 シンジくんはなぜか影を落として黙り込む。

 なんか不味いこと言ったか?

 

「・・・僕、泳ぐの苦手なんで。」

 

「そうなのか。」

 

「意外ですね。 シンジさんが泳げないなんて。」

 

 ルリちゃんが俺の言葉に続いて言う。

 

「別に泳げない訳じゃないよ。

 ただ苦手なんですよ、水の中が・・・

 小さい頃の記憶がトラウマになってるみたいで。

 僕ってトラウマだらけだね。」

 

 シンジくんは苦笑して誤魔化しているが

 以前、断片的に見せてもらったシンジくんの記憶は酷いものばかりだった。

 たしかこれが最初のトラウマになったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、今回は本当に何事もなく・・・

 

「アキト君。」

 

「何ですかイネスさん?」

 

「う〜ん、アキト君だから言うけど・・・

 ヤマダさんが医療室から消えたのよ。」

 

 ・・・嘘、だろ?

 

「だって、全治一ヶ月の重症だった筈じゃあ?」

 

 あの入院劇から、一週間位しか経ってないはずだ。

 

「それがね、新薬の実験結果が凄くてね・・・全治しちゃったの彼。」

 

 ・・・新薬の実験って。

 シンジくんとルリちゃんも呆れている。

 ガイ、お前・・・本当に全治したのか?

 

「あ、多分全治してると思うのよ。

 でも一応、って事でベットに縛り付けていたんだけどね・・・

 今朝から姿が見えないのよ。」

 

 それ、十分大事ですよイネスさん。

 

「・・・後で探しに行ってきます。」

 

「お願いね、アキト君。」

 

 

 

 

 

「・・・本当に人間ですか? ヤマダさん?」

 

「・・・さあ? 多分人間だと思うよ(汗)」

 

「・・・これも人の持つ可能性なのかな? 綾波。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと!! アンタ達!! これはどうゆう事よ!!」

 

 ・・・て、言われてもな。

 遊んでるんだろ、全員で。

 

「新型チューリップの探索はどうなってるのよ!!」

 

 誰もその声に反応しない・・・

 

「ちょっと!! わたしの話しを聞きなさいよ!!」

 

 自由気ままに、それぞれの時間を過ごすクルー達・・・

 

「アンタ達・・・解ってるの!! この任務は・・・!!」

 

 

 ズボッ!!

 

 

 ・・・落とし穴に落ちたな。

 しかし、誰が作ったんだろう、あの落とし穴?

 まあ、だいたい犯人の予想は出来るが。

 

「それ〜!! 埋めろ埋めろ!!」

 

「ちょっと!! 嫌!! 止めて・・・」

 

 砂浜から頭だけを出した状態のムネタケ。

 その髪の毛の形から見ても・・・

 ・・・本当にキノコになっちまったな、ムネタケ。

 

 クルー全員のムネタケに関する意見は一致していた。

 

 

 チョロチョロ・・・

 

 

「ちょっと!! あんたなにしてんのよ!!!」

 

 見ると何時の間にかシンジくんがジョウロを使ってムネタケに水を掛けていた。

 ・・・何処から持ってきたんだ? そのジョウロ。

 

「・・・水を掛けてるんですけど。 いけませんか?」

 

「そんなものいらないから私を助けなさい!!!」

 

「シンジさん水ならたっぷりあるから十分ですよ。

 海の水が・・・」

 

 ルリちゃんまで・・・

 

「でも、海の水じゃ植物は枯れちゃうんじゃない?」

 

「それならなおさら後腐れが無くていいんじゃないですか?」

 

「それもそうだね。」

 

 考える素振りもせずシンジくんはジョウロを放り出してルリちゃんと戻ってきた。

 見事なコンビネーションだな、ムネタケが文字にならない罵声をあげてる。

 

 あ・・・波に飲まれた。

 

 

 

 

 

「やりますね。 シンジさん。」

 

「シンジくん、思いっきりからかってたろ。」

 

「はい、退屈でしたから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして・・・俺はゴートさんが消えている事に気が付いた。

 

「・・・動いたのか? ゴートさん。」

 

「どうしたんですか、アキトさん?」

 

 どうする・・・ゴートさん一人でも十分だと思うが。

 ・・・手助け位はいいだろう。

 

「御免二人とも、ちょっとゴートさんの手伝いに行ってくるよ。」

 

「???? はあ。」

 

「いってらっしゃい。 頑張って下さい。」

 

「!!」

 

 さすがだな、シンジくん。 気づいてたのか。

 俺はシンジくんに見送られて、水色のパーカーを羽織って森に入っていった。

 

 

 

 

 

 

「シンジさん、アキトさんは何処へ行ったんですか?」

 

「ここってクリムゾンって会社の土地なんでしょ。

 多分そこの警備員・・・いや、動きからしてSS(シークレットサービス)とゴートさんが交戦してるみたい。

 アキトさんはそれに気づいて、ゴートさんの手伝いに行ったんだよ。」

 

 ・・・言わない方がよかったかな?

 アキトさん、心配かけないように黙っていったから。

 

「え!? そうなんですか!!

 ・・・まあ、アキトさんなら大丈夫ですね。」

 

 あら・・・予想を裏切って大丈夫だと言い切っちゃったルリちゃん。

 

「ルリちゃん少し位は心配しないの?」

 

「心配ない訳ないじゃないですか。

 でも、それ以上にアキトさんなら安心ですよ。」

 

 まあ、アキトさんならよっぽどの事がないかぎりはねえ。

 

「さっさと終わらしてすぐ戻ってくるでしょうし

 もしものことがあったら、シンジさん行って下さいね。」

 

「え、ぼくが?」

 

「行って下さいね!!」

 

「ううぅ・・・」

 

 そんなに凄まないでよ。

 もしものことがあったら行くつもりだからさ。

 

 

 

 キュイイィイィィィィィイィン!!!

 

 

 

 !!!! 何、この感じ!!

 これは!! ATフィールド!!!

 この世界にATフィールドが使える存在が!!!

 

 僕はATフィールドの感じがする方を見る。

 どうやらアキトさんとは離れた森の中にいるみたいだ。

 

 それにだんだん気配が強くなってる。

 まるで僕を誘ってるかのように・・・

 

「ルリちゃん、僕も行ってくるよ。」

 

「アキトさんに何かあったんですか?」

 

「ううん、アキトさんの所とは別に気になる事があるんだ。

 もしかしたらエヴァを動かすかもしれない。」

 

 相手がまったく分からない以上、使徒みたいな奴かもしれない。

 

「そんなに危ないんですか?」

 

「場合によってはだけどね。 敵なのかも解らないから。

 とにかく行ってみるよ。」

 

「気をつけて下さいね。 アキトさんが戻ったら伝えておきますから。」

 

 僕はATフィールドの反応がある方向の森へ入っていった。

 

 

 

 

 

 僕は森の中を数分歩いてATフィールドの反応があった辺りに来た。

 既にATフィールドの反応は消えてしまっている。

 けれどまわりには五人ほどいる。

 それは気配でわかっていた。

 

「出てきたらどうなの、僕を誘ってたんでしょ。」

 

 

 ガサッ!!

 

 

 そう言うと草影から一人の武装した男が飛び出してきた。

 手にはナイフを持っている。

 

「襲ってくる・・・と見せかけて!!」

 

 僕は近くに落ちている石を拾い、振り向きざまに二十メートル位離れた高い木の中に石を投げた。

 ちょっぴりATフィールドを石に纏わせてみてね。

 

 

 ヒュン!!           ドサッ!!

 

 

 木の上からライフルを持った男が落ちて来た。

 飛び出して来た男は囮なのだ。

 と言っても今も襲い掛かってきているので見過ごせない。

 

「ハッ!!」

 

 僕は後ろを振り返った勢いでナイフを持った男に後ろ回し蹴りを放つ。

 蹴りはナイフを突き出してきた腕に命中しナイフを飛ばした。

 さらに反転して僕は相手の鳩尾に拳を叩き込み気絶させた。

 そしてすぐさま僕は横へ跳んだ。

 

 バン!! バン!! バン!!

 

 その数瞬後、僕のいた場所に銃弾が当たった。

 僕は一転しながら男が男が持っていたナイフを拾い構えた。

 

 ガサガサッ!!

 

 それと同時に二人の男が姿を現した。

 二人とも拳銃を構え、そして撃ってきた。

 

 

 バン!!       バン!!       バン!!       バン!!

 

 

      ガキン!!      ガキン!!      ガキン!!      ガキン!!

 

 

 僕はナイフの腹を盾にしてその銃弾を弾いた。

 僕の身体能力はATフィールドを活用しなければ普通の人間の限界を超える事はない。

 だが視覚や聴覚なのど知覚能力は桁外れになっており弾丸くらい目で捕らえる事は出来る。

 

「な!! 化け物か!!」

 

 驚いている隙を突いて僕は片方の男に向かって走った。

 でも、化け物ってちょっと傷ついたよ。

 そう思われるのは仕方ないけど。

 

「う、うわっ!!」

 

 男は拳銃を構え撃とうとする。

 僕はナイフを男の顔の真横に投げて牽制する。

 男は驚いて首を背け、その間に懐に飛び込み男の体を引き寄せながら膝蹴りを腹に打ち込んだ。

 

「ガハッ!!」

 

「コノヤロッ!!」

 

 今度はもう一人の男がこっちに拳銃を構える。

 僕は倒した男の腕を掴み、一本背負いの要領でもう一人の男に投げつけた。

 

「なにー!!」

 

 見事にぶつかりもう一人の男は体制を崩した。

 

「くそう!!」

 

 もう一人の男が体勢を立て直そうとしている間に

 僕は後ろに回り込んで首筋に手刀を放ち気絶させた。

 

 ドサッ!!

 

 これで四人。

 後は問題の一人・・・

 

「これでもういいでしょ。

 見学はそれくらいにして出てきてくれませんか?

 用心深く囮の部隊まで作って。」

 

 僕は最後の一人に向かって言った。

 囮とはアキトさん達が戦ってる相手の事だ。

 この人達の狙いが始めから僕なら・・・

 

「お見事ですね。 一人も殺さずに簡単に倒すとは。」

 

 そう言いながら茂みの中から一人の少年が現れた。

 見た目は十八歳くらいで髪は水色で落ち着いた物腰だ。

 ただ、一番気になるのは少年の瞳が紅かったという事だ。

 

「紅い・・・瞳!?」

 

「ええ、私はあなたと同じですよ。」

 

 驚いた。 まあこれくらい予想はしていたけどね。

 ATフィールドを使える人型なら瞳が紅いんだろうし。

 

「まずあなたの実力を測ろうと思いましたが

 こいつ等ごときでは本気の十分の一も出させられませんでしたか。

 まっ、所詮捨て駒ですしね。」

 

「・・・捨て駒ね。」

 

 少年は足元で気絶していた男を横に蹴り飛ばす。

 

「そう言えば自己紹介がまだでしたね。

 私の名はミスト、水を司る天使サキエルの化身

 マリオネットエンジェルの一人 サード・エンジェルです。」

 

 な!! サキエルだって!!

 この世界にもいたの!!

 

「化身というのは?」

 

「天使サキエルの力を持っているという事です。」

 

「僕に何のようなんですか?」

 

「ファースト・エンジェルの捕獲、それが私の任務です。

 あなたは最初の人アダムの力を宿している。

 そして私達はあなたの事をファースト・エンジェルと呼んでいます。

 ここまで話せばお解りでしょう。

 私と一緒に来ていただけませんか?」

 

 やっぱりそう来ますか。

 

「付いて行くと思う? 

 少なくとも人を駒呼ばわりする奴なんか信用出来ないよ。

 諦めてくれませんか?」

 

「私の使命はあなたの捕獲です。

 出来れば穏便に済ませたかったのですがねえ。」

 

 そう言い終えるとミストは腕を引いて構える。

 するとミストの両腕が光を纏い、

 次の瞬間、右腕を突き出されると手の平から光の槍が打ち出された。

 サキエルというのだから大体攻撃方法は予想していたので楽に避ける事が出来た。

 そしてミストの槍は腕を引くと同時に手の平に引き戻された。

 

「避けましたか。 まあ今のはほんの小手調べです。

 どんどんいきますよ。」

 

 そう言ってミストは高速で槍を突き放ってきた。

 

「ワッ!! ちょっと、殺す気ですか!!」

 

「何を言っているのです。

 私達はコアさえ無事なら生きられるじゃないですか。

 その方が捕獲しやすいですしね。」

 

「それでも痛いじゃないですか!!」

 

 

 ガキィィィィィン!!

 

 

 僕はそう叫びながらATフィールドを展開してパイルから防御した。

 

「それがあなたのATフィールドですか。 なかなか頑丈なようですね。

 でも防戦一方では勝てませんよ。」

 

 ミストは僕のフィールドを集中攻撃で破ろうと同じ個所を攻撃してくる。

 そして馬鹿にするかのようにほほくそ笑う。

 

「むかっ!! そういう下の人間をけなすよう笑い方、

 僕嫌いですよ。」

 

 僕はATフィールドの壁をそのまま押し出してミストにぶつける。

 

 ドンッ!!

 

 ミストは後方に飛ばされるが、特にダメージもなく着地した。

 

「ATフィールドをぶつけてくるとはあじな真似をしてくれますね。」

 

「別に驚く事ではないでしょう、こんな事くらいで。」

 

「それもそうですが、あなたは全然本気を出してくれませんしね。」

 

「どうしてわかるんです?」

 

「上からの情報ではあなたが鎧に乗った状態でフォースの力を使っていた事が確認されているのですよ。

 本体であるあなた自身が使えないはずがありません。」

 

 鎧?・・・・・・ああ、エヴァのことか。

 どうも僕の持ってる知識と向こうの知識が上手く噛み合ってなくてわかりづらいよ。

 

「まったく、その上というのが何なのかは、あなたを倒してからゆっくり聞かせてもらいますよ。

 アビリティ、『シャムシェル』!!」

 

 僕はシャムシェルの力の形である光の鞭を両手に生み出した。

 

「それがあなたの力の一つですか。

 私の力が及ぶかどうか試してみましょう。」

 

 そう言ってミストは先ほどよりも更に早い連続突きを放ってきた。

 今度はATフィールドで防御はせず全てのパイルの動きを見極め最小限の動きで避けた。

 

「これをATフィールドで防御せず避けますか。

 先ほどはまったく本気ではなかったという事ですか。」

 

 ミストは落ち着いた喋りかたをしているが口調がやや速く、顔に多少焦りが見えていた。

 

「今度はこっちの番だよ。」

 

 僕は右腕を振り下ろして鞭をミストに放った。

 だがミストはそれを避けようとはせず、光を纏っている左腕に巻き付けて応戦した。

 光を纏っている腕はシャムシェルの鞭でも切れる事はなかった。

 

「この腕がパイルを打ち出すだけでなく

 手甲のかわりになるのは解りませんでしたか?」

 

「いや、解ってたよ。

 あなたこそこちらの武器の認識が見余っていたみたいですね。」

 

 それを言い終わるのと同時に巻き付いた鞭が生きているかのように動き出した。

 鞭は巻き付いた時の回転とは逆に回転し、ほどけたと同時にミストの左腕を方から切り落とした。

 

「ぐっ!!! やられましたか・・・」

 

 ミストは奥歯をかみ締めて痛みをこらえている。

 

「油断大敵だね。 この鞭はあなたの仲間と同じ能力のはずだよ。

 意志の力で動く事くらい知っていたのでは?」

 

「いえ、残念ながら知りませんでしたよ。

 フォースとは一度も会ったことがありませんから。」

 

「会ったことがない?」

 

「ええ、上は私達の力を恐れているようでしてね

 エンジェルの者が2人以上接触して叛乱を起こされるのでも恐れているのでしょう。

 そういう訳で人などより長く生きているのですが、会った事があるのは任務で協力した三・四人くらいですよ。

 そういう訳で仲間の情報すらほとんど持っていませんよ。

 おっと、口が滑り過ぎましたね。

 戦いはまだ終わってませんよ。」

 

 ミストは懐から円柱の物体を取り出し地面に打ち付けた。

 次の瞬間物体が閃光を放ち、僕の視界を光が覆った。

 

「わっ!!」

 

 そのうえ桁外れの視覚が仇になって、刺激が強く隙をつくってしまった。

 僕はすぐに視力を回復させるために視神経にATフィールドを作用させた。

 

 数秒で視力を回復させると僕のまわりにミストはいなかった。

 

「逃げた・・・」

 

 僕は桁外れの視力で遠くまで見渡すと既に三百メートル位先の位置にミストの姿が見えた。

 幸いルリちゃん達のいるビーチやアキトさん達の方向とは違う。

 

 ATフィールドをセンサーにして調べてもよかったが

 相手もまたATフィールドを使う者なので、ミストに気づかれずと言うのは絶対に不可能だ。

 

 とにかく深追い早めよう。 

 破壊力のある技を持っていたとしたら、僅かでも皆を巻き込むかもしれない。

 

 それに隙を突いた時に攻撃しなかったのは勝てないとわかったのか、

 傷が致命傷でないのは確かだが、戦闘が無理だと思ったからだと思う。

 予想に過ぎないが普通の使徒なら、集中しても腕の再生に一時間は掛かる筈だ。

 

 以前、エヴァが二度怪我をした腕を一瞬で再生させたが

 代用出来る肉片があったり、骨が折れた程度だったからだし、

 暴走時で異常な状態でもあったからだ。

 今のエヴァだって通常時でその時の再現は簡単には出来そうもない。

 

 

 ・・・とにかく、他にも聞きたい事があったけど今回は諦める事にする。

 どうせ、あいつらの狙いは僕なんだからまた現れるだろうし・・・

 

 僕は一応ミストの残された左腕をアンチATフィールドで溶かして皆のいるビーチに戻った。

 アキトさんも事を済ませてビーチの方に向かっている。

 

 

 

 

 

 

 そう言えばガイさんの気配があの建物から感じたけど何やってるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十話 その3 へ続く