< 時の流れに福音を伝えし者 >
僕は近くにあった河原の傍で火を起こして
ラミエルのパイロットの少女が起きるのを待っていた。
少女は火の傍で横に寝かせている。
一応L・C・Lを拭いて上げて風邪を引かないように。
「一応身体で見えてるところは何処にも異常はなかったし
気を失ってるだけならすぐに目を覚ますよね。」
でも起きてどんな反応をするか・・・
いきなり拒絶されて話ができなくならなければいいけど・・・
「う、ん・・・」
少女が呻き声を上げた。
気がついたかな?
「・・・ここは?」
少女の瞼が開かれる。
予想道理その瞳は紅い色をしていた。
「気がついたみたいだね。」
僕は少女に声を掛ける。
「あれ? え!? ファーストエンジェル!?」
「代名詞で呼ばれるのは好きじゃないんだ。
出来たら名前で呼んでほしい。」
「はい。 あの、すみません。」
なんだかかなり戸惑ってるみたい。
でもこの様子なら落ち着いてさえくれれば説得出来るかも。
「えっと・・・あの・・・」
「イカリ シンジ、自己紹介がまだだったね。
でも僕の名前聞いてなかった?」
「すみません。 えっと、イカリさんの事は顔写真と簡単な戦闘能力しか教えてもらってなかったので。」
戦わせるんだから簡単じゃなくって詳しく教えとかない、普通。
ゼーレの奴等やる気あるの?
「それで君の名前は?」
「イアナです。
雷を司る天使ラミエルの化身
フィフスエンジェルのイアナと言います。
あ!!」
イアナちゃんは自分の名前を伝え終わると
何かに気がついたように声を上げた。
「い、今何時です!?」
「えっと、今は・・・」
僕はイアナちゃんに現時刻を伝える。
「もうそんなに!!
は、早く離れて下さい!! 早く!!」
「どうしたの!?」
「あと数分で爆弾が爆発するんです!!
だからすぐにここから離れて下さい!!」
「何処に爆弾があるの!?」
「私の中にあるんです・・・
だから早く私から離れて下さい。」
とても辛そうにイアナちゃんは言う。
なんで・・・
「何で君の中にあるのさ!! 取り出す事は出来ないの!?
君達はどうか知らないけど、痛くてもコアさえ無事なら
無理矢理取り出しても死ぬ事はないんじゃないのか!?」
「駄目なんです!!
爆弾はコアの中に仕掛けられてて
絶対に取り出せないんです!!」
イアナちゃんは両手で身体を抱きながら涙を流す。
コアの中じゃ手の出しようが・・・
そうだ!! あれならコアの中でも!!
「イアナちゃん、聞いて!!
僕の能力なら爆弾を取り除くことが出来るかもしれない!!」
「え!! ほ、本当ですか!?」
「うん、さっきまで戦ってた相手だから無理な話かもしれないけど
僕の事を信じて身を任せてくれる?」
僕はイアナちゃんに向かってそう言う。
僕のやろうとしている事は直接コアに触れる事であり
命を預けるような事だ。
今さっき会ったばかりの僕に普通ならそんなこと任せられる筈が無い。
でもこの方法しか僕には思いつかなかった。
「・・・・・・はい、わかりました。」
イアナちゃんは僅かな沈黙のあと、決心してそう応えた。
「ありがとう。
じゃあそのプラグスーツを脱いでくれない。」
「え!?(//////)」
拍子抜けた顔を真っ赤にして驚く。
予想はしてたけど・・・
「べ、別に変な事をするつもりはないよ。
ただ爆弾を取り除くには邪魔なんだ。」
「あ、そうだったんですか。
私ったら・・・」
「いいから急いで、上だけ脱いでくれればいいから。
時間が無いんでしょ。」
「は、はい。」
プシュ!!
イアナちゃんは首もとのボタンを押してプラグスーツのを緩める。
そして少々手間取りながら腰まわりまで脱ぐ。
僕の着ていたプラグスーツも直接地肌に着る物であり
イリアちゃんの上半身は裸で、見た目の年相応の小ぶりな二つの胸の膨らみがあった。
「あの・・・あんまり見ないで下さい(//////)」
顔を更に赤くし胸を両手で隠しながら言う。
「ご、ごめん。 とにかく仰向けに横になって。
それとコアはどの辺りにある?」
「多分心臓の辺りです。」
イアナちゃんは仰向けに横になる。
「イリアちゃん、恥ずかしいだろうけど腕をどけてくれない。(//////)」
「は、はい・・・(//////)」
おずおずと胸を隠していた腕をどかす。
ここまで来ると僕もさすがに恥ずかしくなってきたよ。
僕は胸の中心の少し下の心臓があるあたりに右手をおく。
そして僕の持つもう一つのフィールド、ATフィールドの正反対のフィールド・・・
アンチ・ATフィールドを右手に展開した。
アンチ・ATフィールドは使徒のなかでリリスのみが使えるATフィールドを中和では無力化するフィールドだ。
このフィールドが僕の世界の地球を覆ってしまったから
全ての人間はL・C・Lになり赤い海に溶けてしまったのだ。
僕はアンチ・ATフィールドでイアナちゃんの体を形作るATフィールドを
すべて消してしまわないように弱く発生させる。
「うっ!!」
イアナちゃんが呻き声を上げる。
弱く展開されたアンチ・ATフィールドでイアナちゃんの身体を溶かしながら
右手がずぶずぶと心臓部に向かって沈んでいった。
そして心臓の下の方にイアナちゃんのコアがあった。
コアに触れ、コアを溶かしつつ右手で爆弾を探る。
「アッ・・・(//////)」
今度は何故か艶めかしい声を上げる。
おそらく僕が彼女の心に直接触れてしまったからだろう。
人は誰しも常に寂しさを持っている。
そして右手が心に触れた事で擬似的に僕と一つになったような感覚がしたのだろう。
綾波が昔言ってたように一つになることはとても気持ちのいい事だから。
コアの中を進みそのもっとも中心部でゴルフボールくらいの大きさの無機物があった。
これが爆弾だな。
僕はそれを握り取り右腕をゆっくりイアナちゃんの体から引き抜いた。
引き抜くと同時にアンチ・ATフィールドの効果が消えて
イアナちゃんを形作るATフィールドが溶かした部分を自動的に再構築し
引き抜ききった時には体に穴も無く元通りになっていた。
「おわったよ。」
「・・・あ、本当ですか?」
イアナちゃんは目が虚ろになっていてボーっとしている。
「うん、これがそうだよ。」
僕は右手の中の小型爆弾を見せる。
「だからもう服を着ていいよ。」
「え?・・・あ、きゃ!!」
イアナちゃんは再び両手で胸を隠し、いそいそとプラグスーツを着直す。
僕もさすがのこれ以上見ていてはまずいので背を向ける。
そして右手にある小型爆弾に再び目を向ける。
「(さてと・・・こんなもの!!)」
爆弾をATフィールドで包み込むとフィールドを収縮して
ただの鉄の固まりに潰し投げ捨てた。
「あの、服着ました。」
そう言われて再びイアナちゃんの方を向く。
「体の方は大丈夫?
何処かおかしなところはない?」
「は、はい特に変なところはありません。
ありがとうございます、助けていただいて。
でも、どうして私を助けてくれたんですか?
敵同士だったのに・・・」
「決着はもう着いてるから殺し合う必要はもうないからね。
それより君に聞きたい事があるんだ。
君達はどうしてゼーレに従っているのか教えてほしい。」
「・・・・・・」
僅かな沈黙のあと、イアナちゃんは口を開いた。
「・・・・・・私達がゼーレに従っている理由はそれぞれ違います。
好きで従っている者もいれば、私のように命を握られて従っている者も。」
「でもどうしてゼーレはそんなに簡単に君を始末出来るの?
君達の力は貴重な筈だろ?」
いくら十数人いるからって増える訳でもないのに。
「私達の魂は肉体が死んだらある場所に帰るんです。
そこで再び私達の魂は予備の肉体に入れられます。
だから逆らって殺してもすぐに新しい体で生き返らせられてしまうんです。」
ひどい・・・あんまりじゃないか。
だから操られることしか出来ない天使人形なのか。
「そのある場所って?」
「たしかリリスの体だそうです。
使徒としての魂の本能でリリスのもとに向かうそうです。」
使徒の帰巣本能か。
僕の世界で使徒が第三新東京市に向かっていたのもそれが原因だしな。
本当はアダムと間違えてだけど・・・
・・・待てよ、死んでも生き返らせられるとしたら。
「イアナちゃん、ミストって奴は知ってる?
確かサードエンジェルって言ってたけど、前に倒した事があるんだ。
もしかしたらそいつも。」
「名前までは知りませんでしたがサードエンジェルなら知っています。
私達の中でサードは最もゼーレへの忠誠心が高かったそうです。
おそらく彼も生き返らせられているでしょう。」
そっか、倒す方法があるとしたら魂自体を破壊するしかないのか。
「それできみはどうするの?
ゼーレのもとへ帰るつもり?」
そう答えるのなら僕はイアナちゃんの魂を破壊しなければならない。
ATフィールドの力を使えば魂を破壊する事も出来なくない。
「そのつもりはありません。
せっかく自由になれたのだから外の世界で生きるつもりです。
ゼーレに追われる事になるでしょうけど。」
そうか、それなら・・・
「僕と一緒に来る?」
「え?」
「僕のいるところの人達には僕の力のことは教えてないし
僕の事はゼーレに酷い実験を受けた特異体質の人間だって教えてある。
きみも僕と同じ体質でゼーレに無理矢理従わされてたって言えば
いろいろ聞かれるかも知れないけどたぶんナデシコに乗せてくれると思う。」
「い、いいんですか?・・・」
「僕は全然かまわないよ。
それに何処か行くあてがあるの?
それならかまわないんだけど。」
「いえ、ありません・・・
わたしはずっと眠らされていたので、外の世界に知り合いなんか一人もいません。」
「眠らされていた?」
「私は今までコールドスリープで眠らされていたんです。
ゼーレに反抗的な者はそうやって眠らされるんです。
今回起きたのも六年ぶりなんです。」
「じゃあ外見年齢で言うとどれくらいなの?」
僕と同じくらいに見えるから14歳くらいだと思うけど。
「成長が止まる前は13歳くらいでした。」
成長が止まったって事は僕と同じ不老不死ってことだよね。
あれ、てことはその前は成長していたって事だよね。
力に目覚めていなかったって事?
「気になったんだけど、君等はどうやって使徒の力を身につけたの?
生まれたときから?」
「違いますよ。
私達はもともと普通の人間で使徒と融合させられたんです。
イカリさんは違うんですか?」
イアナちゃんは疑問に思いながらそう答えた。
使徒との融合!! でもなんで人と融合させたんだ?
「僕は君達とはちょっと違うんだ。
それと名前で呼んでくれていいよ。
僕も名前で呼んでるし。」
「は、はい、シンジさん。(//////)」
イアナちゃんは少し頬を赤く染めて言う。
そこで恥ずかしがられると、言ったこっちも恥ずかしいんだけど。
「ありがとう、それでどうして人と使徒をゼーレは融合させたりしたんだ?」
「詳しいことは分かりませんが知識の実を得るためとか
何かの目的の為だと聞きました。
その目的のためにもアダムの力を持つシンジさんが必要だとも言ってました。」
確かミストが上は自分達のことを恐れてるって言ってたっけ。
だから重要な情報は渡してないのか。
ん、そう言えば何で僕がアダムになるんだ。
この世界にはアダムが存在しない?
「でも僕は確かにアダムの力は持っているけどアダム自身じゃないよ。」
「え?」
「実は何でゼーレが僕をアダムと認識しているのか解らないんだ。
ゼーレは今までアダムの所在を知らなかったの?」
「いえ、アダムはとうの昔に発見され保管され続けていたのですが
去年、突然アダムがロンギヌスの槍と一緒に消滅したらしいんです。」
「消滅?」
「はい、それはもう空気に溶けていくように。」
「それは去年の何時頃?」
「確か年の終わり頃だったそうです。」
年の終わり頃?
確かその頃は僕がこの世界に現れた頃じゃないか。
これって偶然・・・なわけないよな。
アダムは最初の人間って言われてる。
アダムを親としすべての使徒は生まれ、
リリンである人間はリリスによって生まれた。
つまりすべての人間と使徒が一つになった僕は
使徒を生み出す前のアダムととても似た存在という事。
世界に同じ存在は存在出来ない。
僕がこの世界に現れたためにアダムが消失したってことか。
ロンギヌスの槍が消失したのは槍がアダムのATフィールドで生み出されたAT物質で
アダムが消失した事でもともとアダムのATフィールドである槍が消失したのは自然な事だ。
「じゃあアダムも君達と同じ様に人間と融合してたの?」
「いえ、アダムは人と融合してはいませんでした。」
「どうして?」
「理由はわかりませんが何度やっても上手くいかなかったそうです。
他の使徒の時も上手くいかない事はあったそうですが
必ず何人目かで成功してましたがアダムだけはどんな人でも駄目だったそうです。」
他の使徒では成功してもアダムでは駄目か。
確かにアダムは他の使徒と違うし。
多分アダムの知識の実に合うほど人間がいないんだろうな。
「あの・・・」
「ん、何?」
「シンジさんは何者なんですか?
使徒はアダムを含めて十七体と聞いていますがシンジさんがアダムでないとすると
使徒は十八体いる事になってしまいます。」
「イアナちゃんは知らなかったんだ。
使徒はもともと十八体いるんだよ。
最も僕はもうの十八番目の使徒でも無くなってるけど。」
「シンジさんは十八番目の使徒だったんですか?」
「正確にはその一欠片だよ。
第十八使徒は事実上この地球を支配している存在だからね。
それにイアナちゃんも第十八使徒だったんだよ。」
「それって・・・」
ここまで言えば気づいたよね。
「人間が十八番目の使徒なんだよ。
第十八使徒リリン、これが人間と言う種族の本当の名前さ。」
「でも人間はATフィールドを使えませんよ!!」
イアナちゃんは大声で言う。
まあ突然そんな事言われたら普通は驚くよ。
僕がミサトさんから初めて聞いた時は、心がもう傷だらけだったから
理解しようと言う気にもなれなかったからな〜。
「人間はATフィールドを使っているよ。
自分のからだの形を維持するために・・・
でもそれが人間が使えるATフィールドの限界なんだ。
人間は他の使徒とは違い個体ではなく群体として進化した使徒で、
力を複数に分散したからATフィールドを物理領域で発生させるほどの力がいないんだ。
だけどその代わりに人間は他の使徒に無い物を手に入れた。
何だと思う?」
「・・・知識の実ですか?」
「そのとおり。
人間はその知識を使い力を手に入れた。
科学と言う名の力をね。
そして使徒の持っている実を生命の実と言う。
S2ドライブとも呼ばれているみたいだけど。」
「それなら知っています。
確か半永久機関で私のラミエルにもそれがついていると。」
「S2ドライブは間違いなく使徒の動力源だからね。
それがなかったら動く事もままならないよ。
そして知識の実と生命の実を両方持つ存在が神だと言われている。」
「神・・・ですか?」
「でも強欲にも知識の実だけでなく生命の実まで手に入れようとし、
神になろうとした人間達を僕は知っている・・・」
僕は重苦しい声で話す。
その雰囲気にイアナちゃんは息を呑んで聞いてくる。
「それで・・・どうなったんです、その人達は?」
「滅びたよ・・・あらゆる者を巻き込んで
彼等の計画はほぼ完璧だったかもしれないけど
一つだけ計算出来なかったものがあった。」
「なんだったんです?」
「人の心だったんだ。
その計画の最後の儀式には生け贄が必要だった。
その儀式には生け贄の心が大きく結果に作用した。」
「・・・・・・」
「皮肉にも生け贄にされた者だけが生き残り他の人間は全て滅んだ。
誰一人残さずに・・・」
「あの・・・シンジさんの言い方だとまるで
人間が本当に滅んだ様に聞こえるんですけど。」
そうだよ、だって・・・
「本当に滅んだんだよ、この世界とよく似た世界で。
僕が力を手に入れたのはその時生け贄にされたからなんだ。」
「じゃあシンジさんは別の世界の人?」
呆気に取られたように言うイアナちゃん。
いきなり別の世界なんて言われても信じられないからな〜。
「信じられないかも知れないけど本当だよ。
もし僕の過去が知りたいのならこの手を取って。」
僕は片手を差し出しながら言う。
「この手を取れば僕の能力の一つで僕の過去を見せてあげる。
でも決していいものじゃないよ。
どうする・・・?」
「・・・・・・」
イアナちゃんは重苦しい表情で口を閉じる。
出来たら見てほしくないけど、それでは僕の話を信じてもらえないかも知れない。
僕は手を差し出したまま待つ。
「・・・教えてください、シンジさんの過去を。」
そう言いイアナちゃんは僕の手を取った。
「わかった・・・そういうなら。
アビリティ『アラエル』・・・」
僕は記憶を相手に伝える力、アラエルの力を発動する。
数瞬の間に僕の記憶がイアナちゃんに伝わる。
そして・・・
・・・・
・・・
・・
・
イアナちゃんは泣いた。
「イアナちゃん、大丈夫?」
赤い海までの記憶を断片的にだが見終わったイアナちゃんは
その直後に涙を流し始めた。
「ヒグッ・・・ヒグッ・・・はい・・・
ご、ごめ・・・んなさい・・・わたし・・・」
「まずは落ち着いて、それから話して。」
イアナちゃんは使徒の力を持っているとはいえ、
心までは普通の女の子とそんなに変わらなかった。
僕の過去の記憶はかなりきつかったみたい。
そしてイアナちゃんが落ち着くのを待つ。
「ごめんなさい私、気軽に教えてほしいなんて言っちゃって。
こんなに辛い過去だったなんて。」
「気にしないで、僕が見たいか聞いたんだから。
やっぱり見ない方がよかったみたいだね。
そんなに辛かったんなら・・・」
「でも、シンジさんのほうがもっと辛かったんじゃないですか?
私に見せる為に思い出してしまって。」
「それは大丈夫だよ、全てが終わった後無意味に長い年月を過ごしたからね。
時間がその辛さを慣らしてくれた。
今思い出してもどうって事ないよ。」
最も慣れただけ・・・
ヒカルさんと話してやっと気がついた事なんだけどね。
ほんとに無意味に長く生きただけだったんだな。
こんな事にも気づかなかったんだから。
「そう言えばさっきの答えを聞いてなかったよね。」
「え?」
「僕と一緒にナデシコに来ないかって事。
僕は強制するつもりはないし、イアナちゃんがしたいようにすればいいよ。
どうする?」
「行きます、シンジさんは私を助けてくれた恩人です。
私に何が出来るのか分かりませんが、
シンジさんのお役に立たせて下さい。」
そう聞くと僕は立ち上がってしゃがんでいるイアナちゃんに手を差し出す。
「そう、それじゃあ一緒に行こうイアナちゃん。
これからよろしくね。」
「はい。」
そう言ってイアナちゃんが僕の手を取って立ち上がった。
ナデシコに行ったらいろいろあるかもしれないけど
ゼーレから使徒の力を持つ人を一人を助けることが出来た。
他にも助けられる人がいるだろうけど全てじゃないだろうな。
イアナちゃんみたいな人もいるだろうけど
ミストみたいに自分の意志で従っている人もいるはずだ。
今回は大丈夫だったけど次もそうとは限らない。
話して説得出来なければ二度と復活出来ないように魂を破壊しなければならない。
過去の僕なら一人殺す事でも恐くて自分を保てなかっただろう。
でも今は違う。
サードインパクトを体験した僕なら人を殺す事になっても
赤の他人、及び敵を殺したところで何の戸惑いもないと思う。
文字どおり心強い反面、そんな風に変わってしまった自分が恐く感じる。
アキトさんも僕と同じような事を言っていた。
戦いを望んでいないのに、力を振るう事を望んでいる自分がいると。
アキトさんは大事な人を守るために力を振るおうとしている。
でも僕には本当にかけがいのない人などいない。
アキトさん達は大事な仲間だけど、全てを共用出来ると思えない。
僕の存在は異質だ。 不死であり人間であるアキトさん達と何時までも共にあることは出来ない。
かけがえの無い存在のいない僕に最後まで正しく力を使う事が出来るのか?
「それにシンジさんには責任とって貰わないと。
見せたの初めてなんだから(//////)」
幸か不幸か、イアナちゃんの声は僕に届かなかった。
イアナちゃんが僕にとってどのような存在になるのかはまだ解らない。