「何っ!? 戦艦の主砲クラス……メガランチャーか!?」
レーダーの情報を読み取ったマイヨは、その正体を知って目を見開く。
部下のメタルアーマーを翻弄していた2機と、目の前にいた格闘戦仕様の機体以外に、一回り細身の機動兵器がDシリーズの方に向かっていたのは把握していたが、よもやその機体がこれほどの出力のビームを発射したとは思わなかったのだ。
そして、そのビーム……ハルバードランチャーを撃ったアカツキ当人も驚いていた。
「エステバリスよりは大きいとはいえ、モビルスーツ並みの機体がこれほどの出力を発揮するとは……。アナハイムのZプロジェクトやサナリィのフォーミュラプロジェクトよりも完成度は上ってことか」
下唇をなめながら、アカツキがアシュセイヴァーの武装を確認している。
ビームコートされた実体弾を連射することができる速射銃ガンレイピア。
接近戦闘用のプラズマソード。
加えて、背中に複数背負った精神感応制御型武器、ソードブレイカー。
ジェネレータと直結した1つのソードブレイカーを、大出力のビームランチャーとして使用するのが先ほどのハルバードランチャーである。
「シンプルかつ小型のフレームに、エネルギータンクを持つ必要がないエステバリスにも劣るどころか勝りかねない運動性。まったく、こんな技術がまだまだ存在するなんてねぇ」
軽口で調子を整えつつ、アカツキはこちらに向かってくるファルゲンをレーダーで確認していた。
「抜かれちゃったら、寝覚めが悪い。願わくば、ギガノスの蒼き鷹に対抗できるだけの性能を発揮して欲しいものだね」
そうはいうものの、相手は軍人。それも
才能がないとは言わないし、荒事も幸か不幸か立場上見ざるを得ないことが多い。
度胸はついているはずだが、戦闘経験は皆無に等しい。
アカツキ自身、それをよく分かっているので後方に下がっていたのだが。
「ま、やってみるさっ!」
アシュセイヴァーがまっすぐにファルゲンを目指す。
ファルゲンのレールガンがアシュセイヴァー目がけて飛ぶ。が、バレルロールの要領でアシュセイヴァーは軸線をずらし、ベクトルに逆らわない半円軌道をとってガンレイピアを一斉射する。
「いい腕だ。だが、押さえられないことはない」
ファルゲンのコクピットで、マイヨがつぶやく。
真正面からの直線軌道で敵機を落とせるほど甘いことを考えたりはしない。
空間戦闘では、円を描くように回避行動を取りつつポジションを確保するのが
だが、セオリーはあくまでセオリーであって、セオリーだけでは現実の戦いは成立しない。
セオリーを裏切るからこそ、
真の意味のエースとは、セオリーとイレギュラーを使い分けられる存在だと言えよう。
「直球勝負とは、なめられたものだねぇ!」
「組み立ては外していない。闘いの奥深さを見るがいい!!」
ガンレイピアの連射を最低限の挙動でかわし、ファルゲンが迫る。
アカツキはふと気づいた。
一直線に進んでいるように見えてその実、ファルゲンは小刻みな振幅をそれとなく使い、ガンレイピアの射線を外しているのだ。
「落ちろっ!!」
「冗談じゃない!」
左手保持のレールガンでファルゲンが攻撃するが、精度の低い射撃を食らうほどアカツキも鈍くはない。
が、右手で抜き払ったレーザーソードまでは予測していなかった。
とっさに背面のソードブレイカーを1つ切り離し、肩からファルゲンの目の前に割り込ませる。
一刀両断されたソードブレイカーの至近距離の爆発を受け、アシュセイヴァーも少なからずダメージを受けるが、致命傷は免れた。
「シールド、ではないな。ファンネルとかビットと呼ばれるものか……では、相手はニュータイプなのか?」
マイヨの疑問をしり目に、アカツキは態勢を立て直していた。
「ふぅ〜、危ない危ない。さすがはプロフェッショナルってところだね」
つぶやきながら、全周囲をカバーしているレーダーの情報を確認する。
「弱い方が不利になるハンディキャップマッチというのは厳しいねぇ」
アシュセイヴァーの背後には戦闘能力のない小型艦がいる。
ここを抜かせるわけにいかない以上、戦闘範囲が限られてしまうのだ。
「この距離ではハルバードランチャーは使えないし、まいったね、こりゃ」
一撃必殺のハルバードランチャーも、エネルギーチャージに時間がかかるという難点がある。
ドッグファイトの時にはそのわずかな時間が命運を分けてしまう。
「ソードブレイカー……やってみるか?」
先ほど1つ失ったとはいえ、まだ攻撃に使えるだけの数は残っている。
だが、精神感応兵器を使いこなせるのは、俗にニュータイプと呼ばれる、認識力の高い者のみだ。
IFSを使っているので、常人よりはましだろうが、自分にそんな才能があるとはアカツキもさすがに思っていない。
「テンカワ君は使えたと言っていたが、はたして……」
そうこう言っているうちに、ファルゲンが再び迫ってきた。
「ま、やるだけやってみよう。ソードブレイカー、射出!」
アカツキの右手のナノマシンパターンがまばゆく明滅する。
次の瞬間、背面に装着されたソードブレイカーが一斉に分離して、その矛先をファルゲンに向けた。
「くっ、やはりニュータイプか、厄介な」
多分に誤解なのだが、目の前に滞空している10機程度のソードブレイカーを見せられては、マイヨも警戒せざるを得ない。
「何機落とせるかが勝負……」
レーザーソードをしまい、レールガンを構え直す。
ファルゲンとアシュセイヴァーのカメラアイがその光を強める。
「行けっ!!」
「来いっ!!」
ソードブレイカーの
身をよじり。
独楽や錐のように回り。
縦横無尽にレールガンの弾をばらまき。
それを目まぐるしい勢いでファルゲンが叩き落としていく。
「1、2、3……4っ、次っ!」
これが、1年戦争やグリプス戦役を戦い抜いた歴戦のニュータイプ達だったら、マイヨもここまでさばくことはできなかっただろう。
だが、確実に全ての方位からの攻撃を1つ1つさばき、手数を減らしていっている。
二つ名を付けられるほどのエースパイロットならではと言えよう。
対するアカツキだが、
「右……左……下……右上……」
少しずつソードブレイカーの扱いに慣れ始めると、ナノマシンの発光量が加速度的に増えていく。
我知らずトリガーを握り締める両腕に力がこもり、わなわなと震え始めている。
「右、右、上、下、左下、上、前っ」
その間にも撃ち落とされてて数は減っていっているのだが、攻撃の密度が上がっていけば行くほど、アカツキから余裕がなくなっていく。
「右前右上下左上後右左左左上右右右みぎみぎみぎっ……」
口から漏れてくる言葉に意味がなくなってきた刹那、
「だああああああああああああああああああああっ!!!」
最後にアカツキの脳裏に映ったのは、真っ白な光だった。