突如、それまでの苛烈な攻撃が止むと、さしものマイヨも一瞬戸惑う。
「なんだ? トラブル?」
だが、その致命的な一瞬を見逃すはずもない。瞬き1つの隙ですら見逃さないのがエースだ。
「不運だな。もらった!」
虚空に浮かぶアシュセイヴァーに向けて、ファルゲンがレールガンを構えた。
サイトインしてからトリガーが引かれるまでの刹那。
そこに割り込むものがあるとは、さすがのマイヨも予想していなかった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! やらせねえぇぇっ!!」
「何!?」
よもや、天頂方向からのレールガン一斉射と、その勢いのまま射線に割り込んで来るという暴挙を、自壊寸前のD−1がやってのけるとは思いもよらない。
レールガンごと左腕を吹き飛ばしたものの、ツインレーザーブレードを構えたD−1は、戦意を全く失うことなくファルゲンの前に立ちはだかった。
『ギガノスの蒼き鷹! あんた強いんだけどさぁ、時間かけすぎなんだよ今回は!!』
ケーンからのオープン回線の通信の次の瞬間、強力な火線がファルゲンの至近をかすめた。
「ぬおっ!?」
『レールガンはもらったぜ!』
その至近弾はファルゲン本体を狙ったものではなく、ファルゲンのハンドレールガンの銃口をかすめるように放たれていた。
弾道を解析してレーダーの情報と照合して、マイヨが目を見開く。
「D−2の至近にD−3……そうか! 電子戦機のレーダーを砲戦機に直結して精密射撃を行ったのか!!」
『……間に合ったな』
深く息をつく音と共にオープン回線から漏れ聞こえた一言。
それと同時に、モニターの左隅に突き出された実剣が見えた。
「赤いマントの、あの機体か……」
『部下を回収して撤退しろ。今ならまだ助かる』
ヴァイサーガの実剣をファルゲンの首筋に添えて、アキトが最後通牒をつきつける。
その時になってマイヨはようやく気づいた。
味方機の反応が0になっていることに。
「なぜ、逃がす? 今なら撃墜するも鹵獲するもそちらの自由だが?」
少なくとも声音は震えていない。
かなりの胆力の持ち主であることに、アキトは感心した。
『俺達はギガノスの戦争とやらに関わり合っているわけではない。だから捕虜を取る意味がない。それに』
「それに?」
『無駄な人死にを出す必要性はどこにもない』
ここまで言われて、マイヨはようやく息をついた。
「厚意に感謝する。できれば、名を聞きたい」
『テンカワアキトだ、プラート大尉』
「テンカワ、か。覚えておこう」
使い物にならなくなったレールガンをレーザーソードで切り捨て、ファルゲンがきびすを返した。