スーパーロボット大戦 exA
第10話 アウェイクン・イン・ザ・ダークネス
クリムゾンコーポレート。
一年戦争からグリプス動乱にかけて、戦争特需で業績を順調に拡大させて来たコングロマリットである。
おおよそありとあらゆる製造業種に食い込み、ちり紙からミサイルまで、何でも造って誰にでも売りつけるという商魂たくましい会社だ。
その、あまりに大きな影響力のため、見え隠れする黒い噂についてどんな組織もメスが入れられない。
本来ならば率先して正すべきである地球連邦は高官レベルで買収されて、骨抜きの状態だ。これでは歯止めになるものは誰もいないことになる。
創業から100年程度を数えるこの企業にすれば、異星人の侵略ですら金儲けの道具になってしまう。
「それでどうするんだい? あたしらモビルスーツ乗りに、今更地球を守るために立ち上がれなんて言ってくれるわけかい」
美女、というにはいささかトウのたった艶やかで長い緑がかった黒髪の女性が、ソファーに腰を下ろして上座にある大きな執務机の主に声をかける。
クリムゾンの最高執務室の主。
見かけはあまり大きくはない細身の老人だが、刃物のように怜悧な眼光と野心に満ち満ちた覇気は、実年齢以上に若く見せる要因となっている。
彼こそ、クリムゾンコーポレートの取締役、ロバート・クリムゾンである。
「ほほぉ。お前から『地球を守る』などという言葉が聞けるとは思っても見なかった。スペースノイドはすべからく地球が憎いものではないのかな、シーマ・ガラハウ?」
シーマ、と呼ばれた熟女は、ロバートの皮肉まじりの言葉に少しだけ眉をひそめた。
「あたしは地球が嫌いなんじゃなくて、そこにいる人間が嫌いなだけさね。ま、地球にしがみついていてもコロニーにいても、人間ってのはさほど変わらないけどねぇ」
「人間の本質は、欲だ」
ロバートがかみしめるようにつぶやく。
「人間に欲があるからこそ、地球を食いつぶし、月に手を伸ばし、宇宙に人工の大地を築きそして、火星や木星へたどり着こうとする。どんなに高尚なことを言ったところで、その人間をつき動かすのは欲望に他ならない」
「そこにつけ込んで稼いでいるのがあんた達かい、ロバート?」
「……その通りだ」
シーマからの切り返しを涼しげに受け流し、ロバートが一つうなずいた。
「ビジネスの話をしようじゃないか、良きパートナーとして」
「はん、いいか悪いかは知ったこっちゃないね。食うための金が稼げるなら、そんなことにこだわってる必要はないさ」
「その割り切り方は美徳だな」
「あんたにとって、だろ?」
底意地が悪く、瞳が全く笑っていない笑みを互いに浮かべつつ、ロバートとシーマが具体的な打ち合わせに入る。
時間にして、アキト達と万丈が空港で顔を合わせる直前ぐらいのことであった。