スーパーロボット大戦 exA

 

第13話 ライジングサン・フロム・ダークネス

「まったく、こんな予定じゃなかったんだけど」

 ぼやきながら、破嵐万丈は無数の銃弾から身を隠すべく物陰に隠れた。
 格納庫まで一気に駆け抜けたのはいいが、中身はほとんどもぬけの殻だったのだ。
 一瞬、この間先手を打たれた極東のムラサメ研究所の二の舞か、と危惧したのだが、それは杞憂だった。
 事前に入手した情報では、東洋的なアプローチ、すなわち『気』と呼ばれる精神的なものから人間を強化しようとしていたムラサメ研に対し、即物的に人体の能力向上を研究していたのがここ、オーガスタ研究所なのである。

「ムラサメ研のサイコガンダムに対する答えが、このモビルアーマーか……っと」

 駐機してあるモビルアーマーのランディングギアを、銃弾が掠める。
 鋭角的なバーニアスラスターは先端にメガ粒子砲を内蔵している。
 すべてのバーニアが後一方向に設置されているということはすなわち、推力が完全に1方向に集中する。
 完全な慣性制御はスーパーロボットと呼ばれる特機でも難しい。ほとんどが過酷な訓練で肉体的に克服しているに過ぎないのだ。
 通常のモビルアーマーよりも高推力のこの機体を操るにも、相当な負担がかかることは間違いない。
 それに対する回答こそが、オーガスタ研で開発されていた強化人間なのだ。

「ORX-005、ギャプランね。ロールアウトしてるのはこの1機……うわっと、だけなのかな?」

 至近弾の火花が鼻先を掠めて、万丈はあわてて飛びのいた。

「やれやれ、これならテンカワ君たちはうまくやれてるんだろうけど、なんで僕のところにばかり集まってくるのやら」

 弱音にも聞こえる万丈の台詞だが、表情にはまだまだ余裕がありそうだ。

「人気者はつらいね、まったく」

 そういいながら、万丈は懐から四角い板状のものを取り出し、ランディングギアのシャフトや整備用機材のコンソールなどに貼り付けていく。

「ネルガル特製の指向性爆薬、期待通りに使えますように」

 延べ板のような爆薬を設置すると、ギャプランの影から壁沿いに一気に出口へと走りぬける。
 マズルフラッシュの閃光で、万丈の走る姿が見え隠れする。

「じゃ、点火」

 出口際で万丈が起爆装置のスイッチを押す。
 次の瞬間。
 ……何の音もしない。

「何? ……はぁ、ネルガルの製品も大したことない……」

 ため息とともに吐き出された万丈の言葉は、ごきん、という鈍い金属音に打ち消された。
 よく見ると、さっきまで水平に駐機されていたギャプランがつんのめるように倒れている。
 どうしたんだろうと思う間もなく、壁際の整備用機材が連鎖的に爆発を起こした。

「……指向性強すぎだよアカツキ君。これじゃ爆薬じゃなくて成型炸薬弾じゃないか、それもロケット並み」

 どうやら、超小型のプラスチック爆弾は、常識からは考えられない収束率でその威力を一方に向けて発揮したようだ。
 万丈が立っている出口にようやく、油に引火して生じた熱気が伝わってきた。

「まぁ、目的は果たしたし、さっさと脱出するとしますか」

 爆発で右往左往している追っ手を尻目に、万丈は身を翻した。

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