日の出にはいまだ至らぬ早朝。
地表に広がるのは闇。遠くに見える戦火だけが、鮮やかに映える。
センサーにもなんら反応はない。
だが、それは闇の中から唐突に現れた。
「……6番機消失? ちいっ、伏兵かい!?」
レーダーから味方のマーカーが1つ唐突に消えたのを見て、シーマは直感的にドダイを上昇させた。
「包囲は中止だよ。高度をとって一度集結しな!」
シーマの指示に従って残りの4機が上昇しようとするが、比較的シーマのゲルググから遠い森の中から出てこようとしたザクキャノンが1機、胴を真っ二つにされる。
「目視できないって? 闇にまぎれたステルス機かい、やっかいだねえ……」
そういいながら、シーマは乗り手を失ったドダイをビームライフルで打ち抜く。
爆発四散する機体めがけて、さらに3斉射。
派手に爆発したドダイの破片が森を燃え上がらせる。
「各機警戒しな。炎にあぶられて、出てくるよ獲物が」
そう。シーマは光学迷彩を無効化するためにわざと森を焼いたのだ。
ミノフスキー粒子によって長距離レーダーが使い物にならない現在、光学センサーなどの情報を元に現在位置を割り出したり、敵の進路を予測したりする。これを妨害するのがジャマーだ。
通常のジャマーはアクティブセンサーをある程度無効化するぐらいしかできないのだが、シーマの部隊が対峙している機体は、あらゆるセンサーの情報を無効化している。
だが、その機能とて完璧ではない。光の少ない夜間や太陽光の影になる宇宙空間など、条件のいい場所でないと効果は発揮されない。
そう見越して、シーマは地上に篝火を炊いたのだ。
「……来たね。撃てぇっ!!」
シーマの号令と共に、炎の中から現れた黒い影に向かって生き残った4機が一斉に手持ちの武器を撃ち込む。
だが、黒い機影は大きくジャンプするとドダイに載っているシーマたちの頭上を取った。
月明かりに浮かぶ姿。
それは蝙蝠の羽を広げ、巨大な鎌を持ってあらゆる命の終焉を告げるもの。
「死神だって言うのかい、あんた!?」
ビームサイズを振り下ろし、ザクを一刀両断するとドダイを蹴り飛ばし、そのまま隣にいるもう1機のザクキャノンを切り裂いた。
「へへっ、死ぬぜぇ。俺の姿を見た奴は、みんな死んじまうぜぇ!」
漆黒の翼……アクティブクロークを展開した黒を基調としたガンダム。これこそ、デュオの相棒、ガンダムデスサイズである。
「こんなところにガンダムかいっ! ふざけんじゃないよ!!」
瞬く間に4機のモビルスーツを落とされ、さすがのシーマも頭に血が上っている。
だが、どんなに沸騰していてもシーマも一年戦争を生き抜いた戦士だ。彼我の戦力差を見て取り、退却すべきという結論は容易に導ける。ロザミアのギャプランが一定量以上の崩壊をもたらしていれば、作戦も成功といえよう。
「ケツまくって逃げるにしてもねえ……やられっぱなしってのは癪に障るねえ!」
「ゲルググでこのデスサイズを止められると思うなよ!」
ゲルググがビームライフルを連射する。デスサイズはそれをアクティブクロークで受ける。
ビームを弾き飛ばし、炎を背景にバーニアをふかして飛び上がってくるデスサイズは、本当に地獄の業火へと導く死神に見える。
「あたしゃ、まだ地獄に行く気はないんだよ!」
「これでとどめだぁっ!」
下からゲルググに斬りつけようとしたデスサイズだったが、ゲルググはとっさにドダイの機首を起こしてビームサイズを受けた。
刹那、ドダイは爆発したがゲルググはきわどいタイミングで生き残った最後のドダイに飛び移り、難を逃れた。
「ちっ、ガンダムがいるなんて聞いてないよ。ロバートめ、食わせもんだねえまったく」
侵攻をあきらめ、シーマはもう1機のゲルググと共にドダイを上昇させ、その空域から離脱を図る。
「さすがに、あそこまで上ったら届かないか、しゃーねえな」
飛び去るドダイを見送って、デュオはデスサイズを着地させた。
シーマが去り際に発光弾を打ち上げていく。
「退却おっけー、これで万丈さんたちもうまくやるでしょ」
退却の信号弾を確認すると、デュオは再びハイパージャマーを起動させてオーガスタ研に機体を向ける。
今まさに、夜が明けようとしていた。