「クリムゾンのオーガスタ研究所、謎の爆発事故、ね」
北米大陸のシャイアン基地。
かつてアメリカの防衛拠点、NORADであったが今は連邦軍の所属となっている。
そこの兵員宿舎の最上階。
一流ホテルのスイートルームもかくや、という豪華な内装の士官用個室のリビングで、かつての一年戦争の英雄、アムロ・レイは新聞を広げていた。
「ここしばらく立て続けに起こっているニュータイプ研究所の事故か。何か起ころうとしているのかもしれないが……」
そんな独り言をつぶやきながら、アムロは無造作に新聞をソファーに放り投げ、キッチンに向かった。
「今の僕には、何の関係もないわけだ」
一年戦争終結からまる1年以上経った今、戦争開始当時はただの少年だったアムロも、激しい戦争を生き抜いてきてだいぶ大人びてきていた。
だが、それでもいまだ20歳に至らないはずのアムロは、ここ数ヶ月の地球の情勢をマスメディアでしか知ることができない。
類まれなるニュータイプとしての才能を見せ付けたアムロは、一年戦争終結後、表向きは戦功による叙勲ということで尉官待遇で連邦軍に迎え入れられた。
実際は違う。
ニュータイプの能力を過分に連邦軍上層部から恐れられたアムロは、事実上の軟禁状態を強いられることになったのだ。いわば、飼い殺しである。
現在のアムロの官職は連邦軍の技術士官。ニュータイプ用のモビルスーツの開発プロジェクトを任されている。実行力は限りなく0だが。
「そういえば、今日、月からシャトルが来るって言ってたっけ」
無造作にミルクだけを入れたコーヒーを飲みながら、昨日届いたメールの内容をアムロは思い出していた。
月面に拠点を持つ兵器開発会社のアナハイムエレクトロニクスから、技術者とテストパイロットがやってくる。
「一応、出迎えないとならないのか、責任者だし」
心底面倒くさそうに、アムロはコーヒーを飲み干した。