一方そのころ。
 サセボシティの港湾部を、1台のパトカーが走り抜けていた。
 最新モデルのスポーティなボディは、高速機動隊のものかと思いたくなる。
 だが、運転しているのはごく普通の警察官だ。
 傍らを通り過ぎたなら、ほとんどの人が気にも留めないだろう。ちょっと派手な車だが、パトカーに警察官が乗り込んでいるのだ。それが当たり前だと思い込む。

『巡回警邏、A地区からB地区へ移動。A地区異常反応なし』

 精巧な立体映像(ホログラフ)が投影された窓ガラスの内側には、人は乗り込んでいない。
 この合成音声の主は、人工知能(AI)だ。
 自律型コンピュータ制御のパトカーなど、普通の警察には1台たりとも配備されていない。
 その正体が知れ渡るのは、実はそんなに時間はかからない。

『……センサーに反応あり。これは……Z反応。ボソン反応と共に現れるということは……やはり、気づかれていたようです』

 まるでその目ではるか水平線のかなたから何かがやってくるのが見えているかのように、パトカーは防波堤の際に静かに止まった。

『これは、予定を早めなければなりません。直接迎えに行ったほうが時間のロスを最小限にできます』

 荒波が一つ、テトラポットにぶつかる。
 その波しぶきをよけるようにパトカーは猛スピードでバックしてスピンターンで向きを変えた。

『参りましょう……おっと、連絡は入れておきましょうか』

 ロケットスタートのように派手なホイルスピンをかけ、一気に走り出すと同時にパトカーの表面に虹色のきらめきが輝く。
 刹那の光の後には、地面にタイヤの跡が残るだけで、走り去る車の姿などどこにも見えてはいなかった。

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