某所 秘密ドック



そこはけたたましい警報音が鳴り響いていた。

それまでちらほらとそこにいて作業をしていた者は、しばらく前に鳴り出したこの警報音を聞くなり、

今はドックを離れ安全地帯まで退避している。

もっとも、多くの人間は離れすぎると戻るのがめんどうくさい、これから起こる事を肉眼で見たい、

などと考えた為、ドック内を見渡すことのできる場所は結構な人数で溢れ返っている。

そして何の前触れも無く虹色に輝きだすドック内。

しばらくするとそこには2機の黒い機動兵器、ブラックサレナをチョコンと乗せた白亜の戦艦、ユーチャリスが現れる。

本来固定される場所に寸分違わず現れる巨大な船、その様を見ていた者達は驚きの声を上げる。


黒の魔王と闇に染まりし騎士



幕間



『ジャンプアウト完了。船体の固定、急げぇ!!』

スピーカーを通して作業開始の号令が下り、それと同時に作業員達は安全地帯を離れ作業に戻る。

2機のブラックサレナもユーチャリスを離れて地面に降り立つ。

もっともそのうちの1機は鎖に絡め取られたまま転がされる、といった感じだが。

ブラックサレナPはそのままブラックサレナKを引きずりながら格納庫のほうへ移動していく。

そのブラックサレナPを誘導する者の他に近寄ってくる作業員が数人。

荷物運搬用の台車をスケボーのように使い、ブラックサレナの周りを一回りしたかと思うと格納庫の隅にある休憩所に進路を変える。

「P・K共に被弾ゼロ。されどP、右ハンドカノン大破。K、頭部大破・その他装甲小破!!」

その報告を聞き壁に貼り付けてあった大きな紙に何か書き込む元締め。

周りにいた者は一部を除き悔しそうに「何故ハンドカノンが?」や「何やっとんだ?!K」などとつぶやきながら地団太を踏んでいる。

この場では金品は動かないのだろう、嬉しそうな表情をした者から作業道具を持ち、もうすぐ固定されるであろうブラックサレナのほうへ歩いていく。

その口からは「さらば、不本意なるB定食。お久しぶり、うな重。もちろん温かな味噌汁、君も忘れてないよ」などと聞こえてくる。





皆が「P・K被害状況」で賭けを行っているのではないので、ブラックサレナ2機が固定されるころには最低限の作業員は持ち場についていた。

高機動ユニットは捨ててきたとは言え、ハンドカノン以外に傷は見られないブラックサレナP。

固定されてしばらく経つと胸部装甲が動き、内部にあったエステバリスの胸部装甲も開く。

そこからキャットウォークに降り立ち、さっさとパイロットスーツを脱ぎ捨て黒シャツ姿に戻る男。

「よぉ、テンカワッ!!いろいろすっげーな。寸分違わぬジャンプアウトなんか特に。俺の思った通りだ」

「おまえの懐は温かくなったか?」

「おうっ!!ジュエリーショップに貢ぐ予定だがなっ」

皮肉を込めた質問に嬉しそうな表情での答え。思わずアキトも苦笑ながらも笑う。



そのままアキトが下まで降りると、黒いマントはまだつけていないが真っ黒な男がアキトに小走りでむかって行く。

そしてアキトの傍までやって来るとその拳を振るう。

「テンカワ、どういうつもりだっ!!何故動かなかった?いや、何故邪魔をした!!」

避けるでもなく、手で防ぐでもなく、その拳を右の頬で受け止めるアキト。

肩で息をしながら睨み付ける男にアキトは静かに言葉を返す。

「落ち着いたか?ジュン、何なら左の頬も出してやろうか?」

「質問に答えろ!何故邪魔をした!」

アキトの胸倉をつかみさらに詰め寄る。

「いい加減落ち着け、馬鹿。あのまま戦ってて勝てたか?8対1だぞ?」

「馬鹿はお前だ、勝つ必要は無い!!ユリカを助け出す。それだけで逃げればよかったんだ。

 それを散々邪魔ばかりして」

次第に格納庫の雰囲気が変わってくる。ただの好奇心ではなく、多くの人が手を止めて二人を見る。

もっともその内の一部は「P・K被害状況」の結果判定の抗議ネタを探す為のものであるが。

「そぉいえば、そんな考えで火星までのこのこ社会見学に来たお子様がいたっけか?

 結果多くの同胞がハンバーグにされましたっと」

「いまさらそんな事言っても何にもならないだろうが。…まさか貴様、未だにその事を根に持ってユリカを…」

既にスバルリョーコがあの場にいたことは忘れているのであろうか?こいつ本気で頭に血が上ってるなぁなどと思い、

顔に出さずにうんざりしているアキト。その目付きが次の瞬間に変わる。

「何?お前ひょっとしてこっちがすべて綺麗さっぱり忘れてると思ってんの?

 おまえは仮にもあの戦艦で副長やってたんだろ、復讐者の標的に十分なり得るんだぞ」

先ほどの何を考えているか分からない男とは違う、突然現れた瞳に狂気を宿す復讐者に言葉を無くすジュン。

しばらくそのまま動きの無い二人。

話が終わったと思い仕事に戻る作業員達。

ジュンの手を解いて襟元を直すアキト。その目には既に狂気の色は無い。

「アキトー」

突如格納庫に響き渡る声。その声の方にアキトが振り返る。

アキトが振り返ったとき、其処には既に一人の女性が立っていた。

「んっ、ただいま、美月」

「お帰りっアキト。ねっ、これかわいい?」

そう言って美月は自分の髪を見せる。その長く黒い髪は時間をかけたのであろう、細かく編まれていた。

「んー…カワイイ、て言うよりキレイ、かな?うんそう、綺麗」

求めていた答えが返ってきたのが嬉しかったのだろう、満面の笑みを浮かべてアキトに抱きつく。

首に回される腕を気にせず、そのまま頭をなでるアキト。

なでられてさらに擦り寄る美月。

突如目の前に展開されたピンク色の空間に絶句するジュン。

気持ち良さそうに目を細めていた美月がそのジュンを見つける。

「ん?」

「……ん?」

美月の疑問の声を聞き、アキトも疑問の声を返すがすぐに背後にいるジュンの存在を思い出す。

美月を降ろし再度振り返りジュンを見るとジュンに紹介を始める。

「そういえば、こうやって直接会うのは初めてだったな。ほれ、よく話してやっただろ、美月だ。

 美月、ジュンだ」

「美月です」

今度は首に手を回しながらアキトの背中にくっつき、名前を名乗る美月。

しかし、ジュンは美月の顔を見つめたまま何かを考えている。

「私に惚れないでね。私の身も心もすべてアキトのモノだから」

そんな真顔で放たれるギャグにも反応できなかったジュンはポツリとつぶやく。

「……カザマ?…イツキ…カザ―」

突如ジュンの声が途切れる。目の前の美月がものすごい目で睨んでいるからだ。

その目を直視してしまい動けなくなるジュン。息苦しそうに口を半開きにする。

アキトのほうもジュンが突然黙った理由に気がつく。

何せ今の美月は表情こそ笑顔だが、その目は高エネルギーの粒子を放出しそうなぐらいギラギラしている。

「テンカワミツキです。ハジメマシテ」

「ハ、ハジメマシテ。アオイジュン、デス」

再度名乗る美月にそう返すしかできないジュン。

周りにいた人たちはそれだけでピラミッドの頂点が誰かを理解する。

「…ふん」

いじけた様な声を出す美月の頭をなで始めるアキト。しかし美月の表情は曇ったままである。





「ご苦労さん」

そこには何時からいたのか、背広を着込んだアカツキナガレがいた。

「今度はナガレか…お前も暇だなぁ」

「何言ってんの、コロニー襲撃開始からこっち、時間が無いと呟く日々を送ってるんだよ」

「呟く暇があるならまだましだろ。

 会って早々悪いが、こっちはそろそろ行くぞ」

「データはまだラピス君が一部持ってるから。彼女寂しがってたよ」

「ラピスちゃんは今も元気?」

アキトの肩に顎を乗せた美月が聞いてくる。

「今はエリナ君とシャワー室に行ってるよ。データはその後じゃないと貰えないよ」

「じゃあ、先に荷物でもまとめてくるか…」

その言葉に反応するジュン。

「ちょっと待てテンカワ、どこに行くつもりだ?」

「どこって……木星に帰るんだけど?」

歩き出しながら振り返りもせずに答えるアキトに、ジュンが走り寄ろうとする。

しかし次の瞬間ジュンの足は、あさっての方向に視線を送っていたアカツキの足に引っ掛けられる。

既にアキトは、美月を首に下げたまま格納庫を後にしている。

「何するんだアカツキ、こっちの話はまだ終わっていないんだ。

 あいつの行動の真意も聞いてない。あの女の事もだ!」

「だから落ち着きなっ!!て」

立ち上がり、出入り口に向かって走っていたジュンの足を後ろから払うアカツキ。

「あのままじゃスバル機が邪魔になって、思い通り戦えなかっただろう?

 ミスマルユリカを助ける為にスバルリョーコを見捨てたんじゃぁ本末転倒。

 木連とテンカワアキト、ネルガルとアカツキナガレ、そしてアオイジュン。

 これらすべての利害関係が一致するからミスマルユリカの救出に力を合わせた。

 救出が不可能になった時点で、テンカワアキトの目的は被害を最小限にする事になった。

 火星の後継者は名乗りを上げた。その為に動きは限定される。ミスマルユリカの救助はいまだ可能」

足を払われた結果頭部を床に打ちつけられたジュンは、悔しそうな顔をしながらも動けない為おとなしく話を聞く。

「あの女は誰だ。烏兎守の様にイツキカザマと外見・雰囲気が似ている、程度じゃすまない。

 どう見てもイツキカザマ本人だろう」

ひゅんっ、と小さな音を立てて飛来するフリスビー。それは寸分の違いも無く、ぐったりと倒れているジュンの頭に直撃する。

飛んできた方向は先ほどアキトたちの出て行った出入り口。

「あー………、大丈夫カイ?」

まだ下手な発言はできないと思いながら、言葉を選ぶアカツキ。

「何なんだ…あの女は」

その質問に答えるべきかしばらく悩んだ後、声を落として答える。

「………彼女は……遺伝子的には確実に、君の知る……『イツキカザマ』だ」

「カザマはあの時にいなくなったんじゃないのか?だいたい遺伝子的にって何だ」

「あの時」とは、大戦末期、ナデシコが遺跡の演算装置部分を載せてボソンジャンプをしたときである。

ボソンジャンプ後、「イツキカザマ」はナデシコ艦内から忽然と姿を消していた。

どこまで喋っていいものか悩むアカツキ。ジュンは壁際まで体を引きずりながら移動する。

「彼女は…木連軍のスパイでね、本名が「ミツキ」。あの時に木連にジャンプして帰還したんだ。

 彼女は今も木連軍の特殊部隊に所属して、今回の火星の後継者の件に対応している。

 遺伝子的にってのは…まあ物質的に同一人物だと言う事。『イツキカザマ』と呼ばれることを、極端に嫌っているんだと理解すれば問題ない」

それを聞いて変な顔になるジュン。

「『イツキ』と『ミツキ』、偽名にしては安直過ぎないか?」

「んー、この偽名は頭文字を変えたんじゃなくて、母音をそろえて作ったうちの一つ、らしいよ。

 『イツキカザマ』の親戚で連合軍所属になっていた人物に『風間伊吹』とか。

 軍に登録されてた中に結構いたよ、使われていないやつだったけど。そういうのは彼女が全部作ったらしいし」

「母音をそろえてってことは…じゃあ烏兎守『絹見』も!?」

「残念だがそれは違うよ、君に言われて調べていた『烏兎守絹見』についての結果が出たけど、

 確かに彼女のデータも偽造されたものだった。でも、作られたのは大戦直後の混乱期。当時の彼女は木連の集中治療室。彼女にはアリバイがある。

 あと、彼女に大戦の頃の事を聞いても、一切口を開いてくれないよ」

「だったら力ずくでも聞き出す!!」

立ち上がり、頭を振って意識をハッキリさせるジュン。その言葉を聞いてアカツキの目の色が変わる。



「何のつもりだ、アカツキ。あの女をかばう気か」

ジュンの前にはアカツキが立ちふさがっている。

「彼女の機嫌を損ねるとねぇ、アキト君が怒るんだよ」

そう言うアカツキの声は冗談じみているが、目は真剣である。

「君がアキト君から彼女を引き離すと言うのであるなら、『アカツキナガレ』及び『ネルガル』との利害関係の一致は無くなる」

それは、脅迫。騎士に与えられた鎧と武器を奪うという忠告。

アカツキの言葉と眼差しに眉を顰めながらも止まるジュン。

「なぜ、そこまであの二人をくっつける事に執着する?

 テンカワの力が欲しいのならエリナとくっつけるべきじゃないのか?」

アキトの力、かつて木連との戦争に使われていたネルガルの兵器、その内の幾つかの技術開発に係わっていた科学力と創造力。

学歴こそ飛び級入学した大学を中退であるが、その能力はナデシコ開発に携わるなど多岐にわたる。

「君ねぇ、僕の事を何だと思ってるんだい?僕はただ、彼のことを思ってやってるんだよ。

 僕は彼のことを、本当に親友だと思っている。いなくなってほしくないんだ。

 ……彼は…いや、今の彼らは、お互いの存在無しでは生きてはいけない。

 どちらかが欠けてしまったとき、残った方もいなくなる。

 共生関係と言えるかな?」

「…比翼の鳥ってやつか?」

その言葉に一瞬目を丸くして笑いをかみ殺すアカツキ。

「ククッ、ああ、あの片目・片翼を持った一対の鳥のことだろ。それとはちょっと違うよ。

 あの二人は翼が片方しかなくとも、そのまま一匹で元気に飛んで行っちゃうよ」

そのあんまりな言い種に気が抜けるジュン。

その脳裏には片目・片翼の鳥が、ギャアギャア喚きながら舞い上がって行く様子が浮かんだ。

「……だったらいいだろ」

「だから駄目、なんだよ」

アカツキの目に悲しみの色が浮かぶ。

「あの二人はお互いの事を思いやって、結果うまく飛べない。何処にも行けない。

 でも、それぞれ一人であったら何処までも飛んで行ってしまう。

 星を離れ、太陽にだって構わず進んで行く。

 自分の翼で飛ぶのだからイカロスの様に落ちてこない。

 僕の知らない所に行き、僕の知らないうちに死んでしまう。

 そんなのは、もう………ごめんだ」

アカツキは静かに、そして叫ぶように心から思いをこぼす。

「…………アカツキ?」

「まっ、そんなとこかな?知ってるだろ、僕は利害関係が一致しないと誰かの為に動かないって」

そう言って笑うアカツキ。その顔に先ほどまであった悲壮さはない。

「さって、ラピス君から残りのデータもらって検証始めなきゃ。

 君はどうする?そろそろミスマル大将に連絡取る?」

「言ったはずだ。戻るつもりはない、と」

そう言いながら格納庫から出て行こうとする。

「またまたそんな事言ってぇ、戻る気無いんだったらアキト君の持ってきた最新の戦略・戦術本読み耽ってる訳無いでしょ。

 ま、どちらにしても通信で喋ったんだから正体ばれたって考えた方がいいよ」

「関係ない、ユリカを助け出すのに他に力を借りるつもりは無い」

「初志貫徹はいいけど、もうちょっと柔軟な考えはできないのかなぁ?

 ……ああ、後もう一つ、重要な事なんだけど」

突然のアカツキのまじめな声のトーンに、歩くのをやめて振り返るジュン。

「君………汗臭いから早くシャワー行かないと。かわいい君のラピス君に逃げられるよ」

ジュンの目に入ってきたアカツキの顔は楽しそうに笑顔を浮かべていた。





「……………………」

「つ………疲れた…」

そう言って廊下に前のめりに倒れ込むアキト。

その背中にはいまだに美月の姿が。

当然アキトの体は硬く冷たい廊下と柔らかく暖かい美月に挟まれる事となる。

「何よ、だらしない。ほらっ、もっとがんばれ〜」

そんなせりふが出るのだから、当然アキトの上から動く気は無い。

「……………………」

反応しないアキトに対し、その上で正座を始める事で答える美月。今にもお茶をすすりだしそうな落ち着きである。

それでも動こうとしないアキトを見て、ものすごく疲れているんだと気がつき、凝っていそうな筋肉をほぐし始める。

深いため息と共にアキトの体から力が抜けていく。

ついでにと、以前妹に教えてもらったツボっぽい所も刺激してみる美月。

「ぐぉふぇえ!」

そんな反応を返して、アキトはまた沈黙する。

「あ、ありゃりゃ?……ホントに疲れてたんだねぇ〜〜〜」

「……………………」

「あっ、喉渇いてるよね、ねっ?」

そう言ってアキトから離れながら手をパチンと合わせて、そのままテケテケ歩いて行く。





そこに残るは物言わぬただの屍が一つ。

「…………………」

「気を…利かせてくれたのですかね」

「よくできた嫁だろ」

何の前触れも気配も無く現れた人影に、当然のように返すアキト。

「正式に入籍していないでしょう?」

「いいんだよ。こっちもあっちもその気だ。だからたとえ世界中が、世界そのものが否定しようとも俺達は夫婦なんだよ」

そんな事当たり前だという感じで言いながら体を起こす。

「で、何の用だ?今こんな所にいるはずじゃないだろ」

「念の為にこれを。アマテラスに収められていた全データです」

そう言って小さなアタッシュケースを差し出す氷室京也。

「アマテラスのだったら、ネルガルのユーチャリスから打ち込んだ端末で、根こそぎ取ったぞ?」

「それでは遅すぎました。そちらが動き出す前、数時間で重要なデータに『烏兎守絹見』が手を加えています。特に実験に関して。

 重要な会議の場で顔写真の部分に入った『へのへのもへじ』や『へねへねしこし』を見せたり、

 『大正時代の庶民の遊び』についてレクチャーしたいのなら、どうぞそのままで。資料はそろってますから」

「ったくあんにゃろう、本当に手加減を知らんのか?」

「手加減はされてましたよ。データ加工の作業中も、相変わらずリミッター9つ、つけてましたから」

アキトは「全然関係無いだろ」と呟きながらアタッシュケースを受け取る。

「少女のほうに入っているデータはどうします?このままではネルガルに変なデータが渡りますよ」

「あーー、それはこっちで何とかするよ。………………抜け道は知ってるから」

「まあどんな道か、私は知らないでもかまわない様ですね。

 あと……あの『黒騎士』まだ使う気ですか?あの男はあれで結構頭が回ります。今切るべきなのでは?」

「これからは別行動、予定外の事態はいまだになし。つまり自主的に踊り続けてくれる黒騎士さんを舞台から降ろす理由も無い」

「烏兎守絹見の暴れっぷりは結構意外でしたよ。アマテラスも木っ端微塵。手加減の仕方を間違っているのでは?」

そう言ってなぜかアキトをにらむ氷室。

「まあこっちだって潮盈弾なんか持ち出したんだ。あいこだろ」

「そんな事であいこだ、とか言っても仕方ないでしょう。これから必要なことは結果です。

 その為にあなたに協力しているのです。あなたが約束を破るようであるなら…」

そこで言葉を切る男。そこより後は言わなくとも分かるだろうと言うがごとく。

「分かってるよ。こっちもすぐ木星に戻るから、そっちも配置場所に戻るんだな。いくら存在感が無いからってばれるぞ」

「……ふっ。舞歌様によろしく頼みますよ」

そう言って緩やかな動きでアキトから離れる氷室。そのまま廊下の隅に置いてある人の背丈ほどの観葉植物の側まで行き、その陰に溶け込む。

人が隠れる事などできる筈の無いその場所に、すでに人影は無い。

「いつ見ても…何と言うか」

「かっこいいよね」

いつの間にか美月の姿がそこにあった。



「何?妬いちゃった?大丈夫、真実の見えてない滑稽な人に惚れたりしないよ」

「……氷室は真実をちゃんと見てるぞ。真実が一つしか無いってのは『セイギノミカタ』の戯言だ。

 真実ってのは人の数だけ存在する。だから人は自分を守る為、肯定する為に戦っちまうんだよ」

アキトは壁にもたれかかる様にして、そう呟く。

「それがあの戦争で見つけたアキトの戦う理由でしょ……相変わらずシビレルね!」

嬉しそうに親指を突き立てる美月。アキトは苦笑するしかない。

「…………まあいいけど。今『ボナパルト』持ってる?」

「あのウィルス?部屋に行けばあると思うけど……まさかラピスちゃんに使う気?そんな荒っぽい事に使うんなら渡さないよ。

 ま、そのアタッシュケース関連の事でしょ、だったらおねーさんにまっかせなさ〜い」

「出発は1時間半後。終わったらすぐにこれを木星に送っとけよ」

制限時間を指定してアタッシュケースを渡すアキト。美月は交換とばかりに自動販売機で買ってきたであろう缶コーヒーを渡す。

「ちょろいちょろい、10分で済ましちゃうから」

そう言ってタタタッと走り出す美月。アキトはそれを笑顔で見送る。







アキトはまだ動かない。胸ポケットに入れていたサングラスをかけ、渡された缶コーヒーのプルタブをあけ、一息つく。

「尤も………あいつが事実を読みきれてないのは確か、かな?

 だから……最後に生き残るのは………」

アキトは廊下を照らす照明に視線を送る。その視線には美月に送っていた様な優しさは既に無い。

缶の中身を飲み干す。その口元にはわずかな笑みが張り付いていた。

それを見る者は何処にもいない。



「俺の願いだ」










そうだ、あとがきにいこう。


今回あとがきは私こと倒立紳士と最後にマムシドリンクを飲まされたアキト君でお送りします!!

「ふはははは、って何ちゅーもんを飲ましとんじゃぁーー」

おお、意外と変なテンション。ますます君の性格が分かんなくなってきたね。

「出てくるたびに性格変わってたらやってられんぞ。1・2話冒頭、3話戦闘、幕間前・後半違いすぎ」

そんなあなたにアキト君その他の設定(一部)を公開!?
ジュン君のブラックサレナによるA級ジャンパーみたいなジャンプの秘密についても設定を見れば分かるかも?

「本文もだが、相変わらず無駄に長いな」

ホントはそれぞれのキャラの武器やら戦い方やらもあったんだけど、それは削りました。

「ちなみに削られたテンカワアキトの武器の欄にあった『鉄板』って何だ?」

そのまま。爪サイズの物を飛ばしたり、テレカサイズの物で切ったり、A4サイズの物で攻守一体の戦いしたり。銃弾ぐらい弾くぜ!!

「その程度を10行ぐらいに文章化されてれば削るしかないな」

その上この話で使う予定なし!はっはっはっ

ごずっ

「鉄板なんか無くとも、素人相手には負けないぐらい強いんで。では己の運命を悟っていたのか、すでに用意されたこちらへ」



そろそろ次回予告!

子猫に豊満な乳がついてた、といった感じかな?
――――――木連軍大佐 テンカワアキト(23)。その日の心境を尋ねられて。
彼は婚約者の他、同僚の複数の女性との関係について噂が絶えない。



「ってなんだよこれは!?次回予告じゃないだろう」

ふっ、「次回」について「予め告げ」ているぞ。これは次回のお話の雰囲気を、某週間ニュース風に伝えているんだ。
そういうわけで次回とうとうメインは木連へ。アキト君ファイトォー。君の願いのためガンバレェー。

ごす!めきゃ!ぶしっ!みゅん!(?)



ふっふっふっふっふっ

 

 

 

代理人の感想

う〜む、話が全然見えてきませんねぇ。

まぁ、最後にまとまればそれでいいんですけど(笑)。