ナデシコブリッジ
「ねえ、アキト、私はとっても疑問。」
ユリカが『普段とは違う』、あえていうなら『お仕置きの時の笑顔』に近い笑顔で、
俺に微笑みかける。
「そうですね。
私は特に何故こんな行動が『できたか』が疑問です。」
ルリがあたかも昔に戻ったような感情の無い表情で俺を見る。
「嫁入り前の乙女の顔に傷が付いてしまいました。」
頬にバンドエイドを貼ったサラちゃんが俺を睨む。
「ファミリア全滅、アクティブクローク半壊、アフロディーテもぼろぼろだよ。」
メティが溜息をつく。
「身体はともかく、俺のハデス、アクティブクローク全壊でリリスも調子が悪いんだが。」
カイトまでもが俺に非難の視線を向ける。
「ジュン君とカズシはイネス先生の所で治療を受けているな。」
頭に包帯を巻いたシュンさんが俺を見る。
「因みにさっきの衝撃で昼の仕込みがほぼ全滅だよ。」
左手に包帯を巻いたホウメイさんもが俺を見る。
『ダメだわ、相転移エンジンの修理には3日はかかるわ。』
エリナさんからの通信が入る。
「ねえ、アキト、なんでフィールドを全開にして、
なおかつメティちゃんがフィールドを強化していたナデシコが
半壊で動けなくなってるのかな?」
(ついでに言うと私達も怪我人多数でシャクヤク、夢見月・改ともに動けなくなってるわ。)
さらには舞歌さんからもT−LINKで通信が入る。
「お、俺のせいですか?」
『そうだよ!!』<ナデシコ一同
即答だった・・・
俺が何したって言うんだ・・・
昼過ぎ
あの後俺はクルー全員への謝罪とそれに伴う行動(奉仕活動)、
昼食の調理をなんとか済ませ、やっと開放された。
俺はとりあえずブローディアの様子を見るべく、格納庫に向かった。
「あ〜あ〜あ〜〜、まったく滅茶苦茶に壊しやがって。」
ウリバタケさんが俺を見るなり愚痴る。
「申し訳ありません。」
今日は謝ってばかりだ。
「どうですか?」
来る途中に合流したユリカが修理状況を尋ねる。
「だめだ、徹夜でやっても2日はかかる。」
「そうですか。」
「因みに相転移エンジンの修理に人手を出してたらもっとかかるぞ。」
「そうですか・・・
とりあえずはエステの方を先に修理しちゃってください。
移動できない、エステは出せないではどうしようもありませんから。」
「解った。」
すぐに作業に戻るウリバタケさん。
俺達は邪魔にならないように、格納庫を後にした。
その後、俺はユリカと別れ、トレーニングルームに向かう。
プシュ!!
俺がトレーニングルームに入ると、そこのは先客がいた。
黒い法衣を着た漆黒の堕天使。
「ルリ、ここだったか。」
俺はあたりを見まわす。
血の匂いがすると思ったらナオさんとシキさんが倒れていた。
見た限りでは死にはしないだろう。
と言う訳で放っておこう。
今はそんな物よりも目の前のルリの方が気になる。
「アキト。」
物凄い闘気だ。
「さっき、サブロウタの戦闘を、これからって所で邪魔されたせいで、
もう、この二人が相手ではイクにイケなくなってしまいました。」
ルリが愛刀、血桜を構える。
「責任、とってください。」
「いいだろう。」
俺も戦闘態勢を取る。
プシュ!!
が、その時、トレーニングルームに人が二人入ってくる。
「アキト、ここだったか。」
「丁度良いや、お兄ちゃん。」
カイトとメティだ。
「俺も相手をして欲しい。」
「私も。」
と二人もそれぞれの武器を取り出す。
メティは双剣、『ペガサス』と『クリュサオル』。
アテナの持つ双剣も同じ名前だ。
更にメティはイージスの盾も装備している。
カイトは大鎌、『タルタロス』。
とても暗殺をするのに向いている武器とは言えない、だが、
この武器は敵に『恐怖』を与える事が目的だ、
最初俺はそのつもりでカイトに鎌を使わせた、
今は少し後悔しているがカイトはこの大鎌を使いこなしている。
余談だがカイトの四つのファミリアの名前は
『ケルベロス』,『ミノス』、『ラダマンテュス』、『アイアコス』である。
「良いだろう。」
俺はいつもの鎖を取りだし、昂気を発現させる。
その頃シャクヤク舞歌サイド
「ん〜困ったわね。」
現在シャクヤクと夢見月・改は修理の為連結して破損部分を補いつつ修理している。
「全然困った様に見えませんよ。
修理は優華、優人部隊の機体を修理した後になりますと計7日は航行不能です。
今敵が来たら終わりですよ。」
因みに今話しているのは千紗でも、氷室くんでもなく、
シャクヤク通信士神谷 千鶴、通称『ちーちゃん』(そう呼んでいるのは舞歌だけ)。
「手ひどくやられたからね〜。」
私もアヤちゃんとの戦闘中に衝撃波で飛ばされ時に機体を損傷し、
私自身身体に軽いケガをしている。
それは皆も同じだが。
「本国に連絡しましたが救援を待つより修理して帰った方が早そうですし。
とりあえずは機体の修理を優先させて敵に備えたほうがいいかと。」
「別に敵が来ることに困っているわけではないわ、
この時間までナデシコから音沙汰ないところお見ると向こうもこっち同様の
損傷を受けているんだと思うわ、多分2,3日は動けないはずよ。
それにナデシコと戦闘した場所は最前線と言える所だし、
他の敵がここまで3日以内にここまで来る可能性は極めて低いわ。」
実際さっきラピスちゃんに聞いたら敵はいないって言ってたし。
「では舞歌様、風紀の問題を何とかしてください、
この艦、シャクヤクは優華部隊、舞歌様が人選された女性が9割を占める艦です。
それが男性(しかも優人部隊、良い男揃い)ばかりの夢見月・改と連結され、
自由に行き来できる様になっているのですよ。」
「それが?何か問題があるの?」
「大有りです!!
見てください。」
ピッ!!
映し出されたのは艦内各部分の様子。
図書室で本の感想を語り合う男女、
食堂のカウンターで料理を誉めている男性とてれている女性、
廊下でありがちな衝突事故を起こしている男女、
格納庫で修理をしている男女が同じ工具をとろうとして手がぶつかって
『あっ!!』とか言ってすぐに手を引き、お互いに顔を赤らめたり・・・
見てて物凄くじれったいわ!!
「確かに問題ね。」
「そうでしょう、その上、千紗様も京子様も飛厘様も三姫様も殿方の所へ、
百華様は『シキ』と言う敵の男に夢中ですし、
万葉様まで会話に『ガイ』とい男の名前が出てくる始末。
零夜様は北斗殿に付きっきりですし・・・
最早舞歌様しかいないのです。」
「シャクヤクの女性クルーを集めて頂戴。」
「はい、皆の目を覚まさせるのですね。」
「ええ、私が男の捕まえ方を教えてあげます。」
ズルッ☆
また・・・コミカルな音を立ててこけるちーちゃん。
「どうしたの?こけたりして。」
「どうしたのか?かじゃありません!!」
立ちあがったと思ったらいきなり私に食って掛かって来る。
「今は戦争中なんですよ!!
こんな甘ったるい雰囲気でどうするんですか!!」
「あら、良いじゃない、恋愛は大切なことよ。
それに戦争だから恋愛も出来ないんじゃ私達は自滅するわよ、人がいなくなって。」
「それは、そうですけど・・・
だけど、ここは戦艦なんですよ!!」
「それだって、戦っている私達のような人の子供が今は必要なんじゃない?」
「うっ・・・」
返せなくなった様だ。
それにしてもこの子、真面目なのは良いんだけど固いのよね〜、誰かさんみたいに。
もっと柔らかくなれば可愛いんだけど・・・
やっぱりこの子にも誰か適当な人を付けようかしら?
「では何を困ってたのですか?」
「ん?それはね、次はどう対処したものかなぁと。」
「次、とは?」
「・・・次の北斗とアキトの戦闘の余波。」
暫しの沈黙。
「・・・・・・・・・どうしましょう?」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜だから悩んでるんじゃない。」
機動兵器のみを先行させると本気で宇宙の藻屑となる人がでそうだし、
戦艦ごと行ってまた同じ様な目に逢うのもバカバカしいし、
防御は夢見月と複合の時空湾曲場で今回の被害だし・・・・・・
最大の難点は北斗が某風の魔○機神の操者なみに方向音痴って事よね。
それがなければアキト君と一騎撃ちをしてもらいに行けば言い訳だし・・・
ん〜〜〜〜一般教養って重要よね〜・・・
その頃シャクヤク廊下 サブロウタサイド
「・・・何故だ?」
俺はあの衝撃波で連れていた四人と一緒に危うく宇宙の藻屑となりかけたが、
なんとか気を失わずに済んだ俺は四人を引き連れ無事生還した。
優華部隊4人の命を救ったのだ、良いことをしたはずだ。
なのに・・・
「あっ・・・」
前方から歩いて来ていたシャクヤク女性クルーが俺に気付く。
すると
「・・・」
クルッ タッタッタッタッタ・・・
すぐに元来た道を走って行ってしまう。
怯えた顔で・・・
「何故だ・・・」
理由は思いつく、日頃から結構ナンパで通ってるし、
実は既に数名を落とす寸前だ。
さっきの戦闘中、ルリちゃんとの会話を聞かれたという可能性がある。
あれは冗談だ、その場ののりだ!!まあ確かに三姫みたいな強気な女や純真なアキラを縛ってみたい気もするが・・・
でもやっぱその冗談を解ってくれないかな?木連の人、固いし・・・
後は・・・助けた四人の機体を九節棍の鎖で縛って運んだのも原因かな・・・
だってそうするしか方法なかったんだぞ。
4人の機体を他にどうやって一気に運べると言うのだ!!
それをシャクヤクの格納庫に運んだらクルーにひそひそ何か言われるし・・・
極めつけはアレだな、衝撃波で飛ばされたせいもあって俺達の機体はぼろぼろになった。
特に損傷の酷かったのは零夜ちゃんの機体、このままではマズイと判断し、
俺は気絶している零夜ちゃんを自分の機体に収容した。
他の3人も気を失ってたし、それが一番安全だと判断したからだ。
それなのにシャクヤクに着いて気付いた零夜ちゃんの第一声はなんだと思う?
『え・・・い、いやぁぁぁぁ!!』
だぞ。
しかもその後
『北ちゃん・・・汚されちゃったよ・・・』
とか言って優華部隊に泣き付くし・・・腰に手を回していたくらいでそれはないだろう?
その後は言うまでも無く誤解を受けた俺は優華部隊と鬼ごっこする羽目となった・・・
なんとか説得できたのはつい1時間前だ。
本気で死ぬかと思ったぞ・・・
しかし・・・そのせいで俺の信用は今や地に落ちているわけだ・・・
本気で犯してやろうか?あの女・・・
そうだ、その気になれば一人一人なら十分犯れる・・・
はっ!!
何を考えている、俺?!
このままではいかん!!早くトレーニングルームに行って鍛練で気を晴らさなくては!!
既にその為の用意は持っているし。
第一俺にはもう三姫という存在が・・・三姫が・・・・・・そう、もう・・・
あれ?俺はまだ引きずっているのか?
俺ってこんな男だったっけ?
決着、着けないといけないな。
まあ、その時の為にも日頃の鍛練は大切だな。
プシュ!!
「!!」
俺はトレーニングルームに入った瞬間、咄嗟に身構えた。
何故なら、部屋に充満する血の匂い、この身を貫くような殺気、
そして、真紅に輝く羅刹。
「サブロウタか、丁度良い、相手が不足していたんだ。」
そう言って俺に入る事を促す北斗。
俺は部屋に入り回りを確認する。
倒れているのは計6人、優人三羽烏とその婚約者だ。
流石は木連男児、ちゃんと女性を庇うように倒れている。
恐らく倒された理由がそうなのであろう、はっきり言って北斗を相手にするには、
優華部隊のメンバーでは足手にしかならなかっただろう。
まあ見た所死ぬような怪我はしていないようだし、放っておこう。
「武装してもよろしいですか?」
俺は持ってきた入れ物から自分の武器を取り出す。
勿論九節棍だ。
「ああ、勿論だ。」
言って拳を構える北斗。
そして輝きを増す昂気。
ヒュン!!カチ カチ カチ カチ!!
折りたたんで仕舞っていた九節棍を棒に戻す。
「手加減は・・・して欲しくないです。」
「よかろう。」
いい機会だ、俺はもっと強くなってやる。