アキトサイド

 

 ガキィィン!!

 

 火花を散らすルリの血桜と俺の鎖。

 跳び込んで来たルリを鎖で牽制しているのだ。

 

「行けっ!!」

 

 ヒュン!! ヒュン!!ヒュン!! ヒュン!!

 

 更に同時にメティが中距離から黒鍵を投射してくる。

 俺は開いていいる方の手の鎖で半分叩き落し、半分避ける。

 その瞬間。

 

「!!」

 

 ドックン!!

 

 俺は身の危険を感じ『神速』を発動させる。

 更に、昂気を足から放出し加速する。

 

 ズドンッ!!

 

 俺は床を凹ませる程の勢いでその場を離脱しメティの横を横切る。

 

「え?」

 

 そのあまりの速さにメティは全く反応できず、俺を素通りさせてしまう。

 かくいう俺も予想以上の速さにメティに攻撃をしかけられなかったが。

 普通ならこの速さで死ねるほどの殺人的加速で動いたのだ。

 昂気が無ければ内臓破裂と言ったところだろう。

 最も昂気が無ければこんな速度で動けないが。

 そして俺が振り返ってみると,予想通りさっきまで俺がいた場所、しかも首の位置に、

 カイトの『タルタロス』が通りすぎていた。

 

 流石にヤバかった、いくら昂気があってもあんな物の直撃を受けたら死は免れない。

 昂気があると言っても精々『誰が撃ったかもわからない銃弾』で死ぬことが無くなった、

 程度でしかないのだ。

 決して無敵、不死になったわけではない。

 

 ザザザザザザ!!

 

 俺はトレーニングルームの床を削りながらなんとか壁に激突する前に止まる。

 

「常識ハズレにも程があります。」

 

 ルリがこちらに振り向きながら言い放つ。

 

「全くだ、なんだ、今の速さは?」

 

 カイトもタルタロスを構えなおす。

 

「反応すら出来なかったよ。」

 

 口調は軽いが目は真剣なメティ。

 

 戦闘開始から5分。

 その相手の戦術はメティがイージスの盾で防御兼牽制をし、

 更にルリで最低俺は両腕を使わされる、

 そして気配をほぼ完全に殺したカイトの奇襲。

 ルリ牽制、メティ中距離支援となる事もあるが大体こんな感じのやり取りが続いている。

 相手は恐らく3人とも北斗以外では最強クラスの実力の持ち主。

 俺は始まってから今に至るまで逃げることしか出来ていない。

 

 だが、この5分の死線で昂気の使い方がだんだん解ってきた。

 死と隣り合わせの状況。

 やはり1段階先に進むにはこれが一番だ。

 

「まだ、これからだ。」

 

 俺から11時の方向7メートルに『ペガサス』は収め、『クリュサオル』を左手に構え、

 イージスの盾は右腕につけたメティ。

 1時の方向8メートルに『血桜』を構えたルリ。

 12時の方向9メートルの所に『タルタロス』を下段に構えたカイト。

 

 数秒の沈黙・・・

  

 そして

 

「・・・行くぞ。」

 

 ドックン!!

 

 今まで昂気があるからなんとか発動できた奥義の歩法『神速』。

 だが、この戦闘で自分の物として発動できるようになった。

 

 ドックン!!

 

 俺は脳も含める身体のリミッタ―を解除する。

 視界が白黒になり全てが動きがスローモーションになる。

 動体視力に処理を集中させた為色覚が失われる。

 更に、俺は俺は昂気を足から放出させる。

 

 ドォッ!!

 

 凹む床。

 俺はメティに向かって突進する。

 そう、突進だ。

 この速度のなかでは今は単純な行動しか取れない。

 だが、それで十分だ。

 

「!!」

 

 流石に1度見た行動だ、メティは反応し盾を構える。

 

 正しい行動だ。

 だが!!

 

 ドゴン!!

 

 俺はメティが構えたイージスの盾に神速+昂気の勢いのまま全力の左ストレートを放つ。

 

「くっ!!あ・・・」

 

 俺の攻撃の衝撃は盾を貫きメティ自身にも伝わる。

 そして

 

 ヒュゥゥン!!

 

 メティの軽い身体は俺の攻撃の衝撃を受けきれず吹っ飛んでしまう。

 そう、カイトに向けて。

 

「!!」

 

 カイトは急遽構えを解きメティを受け止める体勢にはいる。

 

 メティに衝撃を伝えたことで止まった俺にルリが神速で攻撃を仕掛けてくる。

 俺は右手の鎖を、まだある勢いに乗せてルリをなぎ払う。

 ルリはその鎖を受け流して俺の懐に入ろうとしている。

 が、俺の鎖さばきを舐めてもらっては困る!!

 

 ヒュン!!

 

 俺は巧みな操作で鎖の軌道を変え、ルリが受け流そうとした方の腕を絡め取る。

 

「はっ!!」

 

 だがルリはそれも予想していたのか、あえて左腕を絡め取れれる様にし、

 右手で突きを放ってくる。

 

「甘い!!」

 

 シュン!!

 

 神速を習得した俺に最早そんな攻撃は通用しない!!

 

 俺は顔を狙ったその突きを紙一重で右に避け、

 横薙ぎが来る前に残りの鎖で完全に両腕を縛り付ける。

 今日の縛りは軽めだ。

 俺は腕に取り付けていた鎖を切り離し。

 

「破!!」

 

 ダンッ!!

 

 左手でルリに寸掌を撃ち、壁に叩きつける。

 

 そして俺は間髪入れずカイトの方に跳ぶ。

 カイトは今正面からメティを受け止めてその衝撃で動けなくなっている。

 俺は再度メティの構えている盾を全力の右ストレートで撃つ。

 

 ゴン!!

 ピキ・・・

 

「グ・・・」

「う・・・」 

 

 そしてメティ共々後ろに吹っ飛ぶカイト。

 

 俺がこの戦いが始まって初めて入れた有効打だ。

 

 カイトとメティ、ルリは壁に激突する。

 

 ツー・・・

 

「え?!」 

 

 俺は身体の計3箇所から液体が体を伝わる感触がした。

 見れば、右足、左腕、右の首筋から出血している。

 どれも深くは無い。

 かすった程度で、このまま放っておいても戦闘に支障は無いだろう。

 だが

 

「気付かなかった・・・

 元より油断などしていないが、やっぱり俺もタダじゃこの部屋から出れそうに無いな。」

 

 ルリ達に目を戻すと、3人は既に立ち上がり、俺に見ている。

 変わらぬ・・・いや、さっきより増した闘気を宿した目で。

 

 

 その頃、サブロウタサイド

 

 戦闘開始から5分くらい経ったかな?

 

「破ァァ!!」

 

 俺の棍の攻撃を紙一重で避け、俺の間合いに侵入してくる北斗。

 

「ちぃっ!!」

 

 カチッ!!カチッ!!  

 

 俺は咄嗟に棍を分割し、北斗の左腕を右手に持った分割した棍の二つ分を使い受ける。

 更に左手で分割した棍の一つを使い突き放つ。

 北斗はすぐに後退し、俺の突きは空振りに終る。

 俺は棍を半分の所だけを残し棒に戻し、鎖で繋がった2本の棍として両手に構える。

 

 開始から5分、俺達は攻防を繰り返してきたが、

 お互いまだ一撃も入れられていない。

 

 ん?武器持ちとは言え俺と北斗が互角なんておかしい?

 そりゃそうだ、北斗の奴『ハンデをくれてやる。』

 とか言ってわざわざ右腕の関節を外しているんだ。

 つまり俺は隻腕で丸腰の女に得意武器を持ているのに関わらず、

 さっきから一撃も入れられていないわけだ・・・

 いや、こいつは女じゃなかったな、うん。

 さて、そんなことよりどうするか・・・

 

 俺の前方約6mの距離に北斗は関節の外れた右腕をぶらつかせながらも、

 構えを取り、こちらを見据えている。

 俺は棍を真中で分割し、二刀流の様な形で構えている訳だが・・・

 因みに入って来た時に倒れていた優人部隊の3人は俺達の戦闘の余波(とばっちり)

 を受けて起き(よく死ななかったものだ)、各自自分の婚約者を抱えて隅に避難している。

 逃げ出さないで俺達を観察している様だ、俺達の戦いで見取り稽古か。

 

 さて、状況の整理を終えたところでどうするかな?

 一応俺はあらゆる武器の使用を認められている訳だが・・・

 そう言えば俺が立っている位置は入り口の前か。

 入り口の前・・・と言うことは。

 

 ヒュン!!カチッ!!

 

 俺は棍を1本の棒に戻しながら後方へ跳ぶ。

 そして落ちている俺のリュックを蹴り上げ中に入っているとある物を出すと同時に

 二枚蹴りで空のリュックを北斗目掛けて蹴りつける。

 このリュックは戦闘用の対刃性の強い素材で且つ重く作られている。

 

 その攻撃に一瞬、ほんの一瞬だけ注意が逸れる北斗。

 その隙に俺は取り出した物を展開する。

 

「喰らえ!!風魔手裏剣 操影車!!」

 

 俺は展開した風魔手裏剣を『二枚』、同時に投げる。

 一枚は初弾の死角に隠して投げる。

 勿論この程度で北斗を倒せるとは思っていない。

 俺は更に手裏剣に鋼線を付けている。

 

 俺の投げたリュックを避けた北斗に二枚重ね、鋼線付きの手裏剣が迫る。

 

「小賢しい。」

 

 北斗はあっさり俺の投げた二枚の手裏剣を避け、更に

 

「残念だったな、この手の武器は経験済みだ。」

 

 そう言って手に込めた昂気で避け際に手裏剣に付いている鋼線を断ち切る。

 

 普通素手で鋼線を切るか?

 

 そして俺を見据える北斗。

 だが

 

「!!」

 

 一瞬、驚愕する北斗。

 そう、俺はもう、そこには居ない。

 鋼線のリールは壁に打ちこんでいるだけだ。

 今俺がいるのは

 

「貰った!!」

 

 俺は今までの攻撃、全てを囮にして、北斗の死角。

 そして、最も防御の薄い点、腕の動かない右側に回りこんでいた。

 

 俺はそこから全力で棍を突き出す。

 

 ヒュン!!

 

「ちっ!!」

 

 咄嗟に身を翻し、攻撃を避けようとする北斗。

 

 俺の棍が北斗を捉えたと、思った。

 その時

 

 ゴォォン!!

 

 突然、俺を襲う紅い衝撃。

 

 バコォン!!

 

 次いで背中にも衝撃が来た。

 感触からして、恐らく壁に打付けられたのだろう・・・

 

「がはっ!!」

 

 何が起こった?!

 

 俺は朦朧とする意識の中、状況の確認を急ぐ。

 なんとか回復した視界。

 位置は多分俺がさっきまで向いていた方と反対側の壁。

 何とか立っているようだ・・・ 

 前方には・・・

 紅く輝く真紅の羅刹・・・

 俺の方向へ振りきられた左腕・・・

 

 殴り飛ばされたのか?

 あの体勢から、左手で?

 俺は棍のリーチを使ったんだぞ?

 ったく、これも昂気の力ってやつかよ!!

 

 戻ってきた感覚。

 それが今の俺が受けたダメージを教えてくれる。

 

 あと何分・・・いやあと何秒も戦えないな。

 

 それでも俺は再び構えを取る。

 

 ここで引き下がったら一生アキトにも北斗にも勝てなくなりそうだから・・・

 

 

 

 その頃、ナオサイド

 

 ドゴォン!!

                   ガシ!!

   ズバァァァン!!

 

 目の前で行われる人知を超えた戦闘。

 

「なあ、見えてるか?」

 

 俺は隣で同じ様に端に避難して目の前の戦闘を観察しているシキに話しかけた。

 

「・・・気配を追うのがやっとだ。」

 

「俺もだ。」

 

 そう、目の前で行われている、俺達より若い青年と、

 10歳ちょい、と16歳の少女が行っている戦闘。

 それは俺達、プロのガードが気配を追うのがやっとと言う激しい物だった。

 

 まあ、アキトと出会う前の俺達なら、そもそも『気配を追う』事すら出来なかっただろうがな。

 

 ヒュン!!

         ドン!!

      ズガガァァン!!

 

 ん?効果音だけじゃなく情景描写をしろって?

 無茶言うな。

 さっきも言った通り、目の前で行われているのは、

 俺達では『気配を追うのがやっと』の戦闘だ。

 誰が誰に攻撃したかは分かっても、どのような攻撃をしたかは解らないんだ。

 アキトとルリちゃんなんか完全に視界で捕らえられないし、

 カイトは視界から消えているわけではないが、気配が無いに等しいので、

 それを人と判別できない。

 カイトの場合、攻撃の瞬間、その一瞬の殺気を読むしか今の所対処法が見えない。

 メティちゃんは・・・まあ、この子だけだな、行動がちゃんと解るのは。

 最も、アキト達の記憶と天賦の才があるとはいえ、修行を始めて半年足らずだからな、 

 当たり前と言っちゃ当たり前だけど。

 むしろ強くなりすぎ・・・

 超えた死線が良質(?)で数が多かったからなかな?

 それに伊達にあの世は見てないと言うことか?

 まあ、ともかく、今のところ一対一で勝てそうなのはメティちゃんだけだな。

 メティちゃんは強いと言ってもまだアキトのサポート役だし。

 今、特化しているのは防御だけだからな。

 二人掛かりならカイトかルリちゃんでも・・・

 って俺達はさっきそのルリちゃんに二人掛かりで負けたんだったな・・・

 

 聞いてくれ、酷いんだぞ!

 トレーニングルームに入ったらルリちゃんがいて、

 『相手をしてください。』って言った次ぎの瞬間、

 そう、次ぎの瞬間だ。

 こっちが構える暇も無く神速で攻撃してきたんだぜ?

 いくら実戦形式でいつもやっているからって、それは無いんじゃない?

 まあ、一撃目は何とか避けたけど。

 でも、一撃目で見事に二分された俺達は本気の神速、最高装備のルリちゃんに、

 僅か二分(一人1分)で敗北したわけだ・・・

 で、その後入ってきただろうアキトも俺達を放置するし・・・

 手当てをしろとは言わないがせめて端に寄せとくしてくれよ、

 起きた時死ぬかと思ったぞ・・・黒鍵が飛んできて刺さってたし・・・

 

「おい、ナオ。」

 

 俺が物思いに耽っているとシキが神妙な声で話しかけてくる。

 

「ん?」

 

「メティちゃん、動きが鈍くなってきてないか?」

 

 シキの言葉にあらためてメティちゃんの様子を伺うと・・・

 

 ん〜少し鈍くなったかな?

 常人にはわからない程度だけど。

 

「流石にメティちゃんがあの3人について行くのは無理だったのか・・・」

 

 俺はそう思った。

 メティちゃんは顔には出していないが少し辛そうだ。

 実際は凄く辛いんだろう。

 あの中でそんなそぶりを見せたら死ぬけど・・・

 

「止めなくて・・・と言っても止まんないだろうけど。

 いいのか?ミリアさんにメティちゃんの事も頼まれてるんだろう?」

 

 確かにミリアにはメティちゃんの事は頼まれているが・・・

 

「ここで止めたら・・・

 ここで止めたらメティの為にはならないだろう。」

 

「・・・そうだな。」

 

 メティはアキトに付いて行こうとしているんだ、

 これくらいで止まるわけには行かないだろう。

 

 俺はそう思った。

 今までそう思ってきたからあの子に戦い方を教えてきたんだ。

 でも今回は・・・

 

「・・・?

 なあ、なんかアキト以外の3人も輝いて見えないか?」

 

「・・・ああ、何か光を帯びているような・・・」

 

 ルリ、カイト、メティの3人の身体に淡い輝きが帯びてきた。

 と、思ったその時

 

 ドゴン!!

 

「ぁ・・くぅ・・・」

 ゴキ・・・

 

 もう何度目か、メティのイージスの盾がアキトの攻撃を受ける。

 そしてメティは壁際まで飛ばされ、受身を取り、すぐに戦線復帰を・・・

 

 ガンッ!!

 

 が、メティは受身も取らず壁に叩きつけられる。

 

「メティちゃん?」

 

 メティの様子がおかしい。

 立ち上がろうとしているのだろうか?

 身体が動いているのは見えるが・・・立ちあがれていない・・・

 まさか!!

 

「メティ?!

 止まれルリ!!カイト!!」

 

 異変に気付いたアキトは二人に止める。

 二人は構えを崩さずに一旦立ち止まり、状況の確認しすぐに武器を収める。

 そして俺達はメティに駆け寄る。

 

「メティ・・・!!」

 

 メティを抱き起こしたアキトが驚愕する。

 メティの身体は・・・戦っている最中は解らなかったがかなりの損傷だ。

 特に腕なんかあからさまに異常だ。

 

「くぅ・・・お兄ちゃん・・・止めないでよ・・・

 やっと・・やっと何か掴めそうなの・・・」

 

 メティが弱々しい声で訴えかけるが

 

「何を言っている!!

 こんなになるまで、何で黙ってた!!」

 

 アキトが怒りと悲しみが入り混じった声で怒鳴る。

 

「でも・・・私は・・・」

 

「メティ・・・昔はともかく、今は生きの残る事を最優先にしてくれ。

 こんなになるまで戦わなくていいんだ。」

 

「でも・・・」

 

「ナオさん、すぐにイネスさんに連絡を!!」

 

 まだ何か言おうとしていたメティを無視し、俺に連絡を要請する。

 

 俺達はすぐにイネスさんに連絡し、医務室に移動した。

 

 

 

 

 

 

その5へ