ナデシコ 食堂 アキトサイド

 

 イネスさんの説教を受けた俺達は、

 昨日から何も食べてないのでとりあえず、

 ケガを治すのにも栄養の摂取が必要だと言う事で、食堂に着た。

 

「ホウメイさ〜ん、いますか〜」

 

 今の時間は標準時間で13時29分、昼のピークも終り、食堂には誰もいなかった。

 とりあえず、いる筈のホウメイさんを厨房に向かって呼んでみる。

 

「おや、アキトかい?

 もうケガは良いのかい?」

 

 そう言って出てきたホウメイさん。

 昨日俺はケガで出れないことは言ってあるので事情は知っているのだ。

 因みに俺が連絡したのはユリカとホウメイさんだけだけど、

 まあ、もう皆に回っているだろう。

 

「はい、元々重症だったのはメティだけでしたから。

 あ、あとルリも重症だったことが判明しましたけどね。」

 

 俺が言うと、俺の後ろにいたメティとルリがホウメイさんの見える位置に移動する。

 因みにディア達は現在その姿を現してはいない。

 

「おや、まあ・・・

 メティちゃんは両手かい?

 大変だねぇ、じゃあ今栄養重視の料理を用意するからね。」

 

 そう言って厨房の奥に行くホウメイさん。

 

「ありがとうございます。」

 

 メティはその後姿にお礼を言う。 

 そしてホウメイさんはそれに手を振って答える。

 

「あ、俺も手伝います。」

 

 ホウメイさんに続き俺も厨房に入る。

 

「俺も。」

 

 カイトも厨房に入ろうとする。

 

「カイトはメティとルリを見ておいてくれ。」

 

 さすがに両手を使えないメティと足に異常があルリを放っておくのは心許ない。

 

「解った。」

 

 カイトとメティ、ルリはカウンター席に座る。

 席は右からカイト、ルリ、メティ。

 

「ところでホウメイさん、ホウメイガールズは?」

 

 俺はさっきから姿の見えない彼女達の所在を問う。

 

「ああ、あの子達ならメグミちゃんとバーチャルルームだよ。」

 

 バーチャルルーム?メグミちゃんと?

 

「最近空き時間はそろってバーチャルルームに行くことが多いねぇ。

 ステージで歌って踊ってるって言ってたけど。」

 

 なるほど、今からデビューの予行演習か。

 メグミちゃんはその指導ね。

 

「あ、アキト、そこはまず弱火で・・・」

 

 そして俺はホウメイさんの指導の元、調理を進めて行く。

 

 それから数分後。

 ある程度料理も出揃った頃。

 

「ホウメイさ〜ん、厨房を貸してくだ〜い。」

 

 間延びした声と共にアヤさんが食堂に入ってくる。

 

「あ、アヤさん、こんにちは。」

 

 カウンターに料理を並べていた俺と、

 席に座っていた3人はそれぞれアヤさんを見て軽く挨拶をする。 

 

「あら〜、メティちゃん両腕が使えないんですか?

 それは大変ですね。」

 

 心配そうにメティを見る。

 因みにルリも足にギブスを付けているのだが、

 ホウメイさんもアヤさんもルリの事に付いて何も言わないのは、

 席に座っている為に見えに、

 使っているのがイネス特製超薄型軽量ギブスなので、

 タイツにしか見えないと言う理由が挙げられるだろう。

 俺とカイトに至っては精々数カ所のテープのみ。

 ルリもわざわざ心配されるようなこと言わないし。

 因みに膝関節の負荷を軽減するという効果もあるらしい。

 メティが使っているのもイネス特製だが、こっちはほぼ完全に砕けているので、

 わかりやすくする為にも包帯巻いて吊っているのだ。

 

「とろこで、これから御食事なんですか〜?

 それなら私がメティちゃんの食事を手伝ってあげますよ〜。」

 

 そう言ってメティの隣に座るアヤさん。

 

「あ・・・お願いします。」

 

 メティは一瞬断ろうとしたのか、躊躇したあと、申し出を受ける。

 だが、俺はメティの分の料理を持ち、

 

「あ、アヤさん、いいですよ、これは俺の管理不届きが原因ですし、

 それに、俺ならメティの意思がそのまま伝わってきますから、

 次ぎに何を食べたか、簡単にわかりますから。」

 

「そうですか、それならその方がいいですね。」

 

 少し残念そうなアヤさん。

 それとは対照的に嬉しそうなメティ。

 

 俺は料理を置き、メティを抱き上げ、メティの座っていた席に座る。

 そして、俺の膝の上にメティを置く。

 

 ん?何か?便宜上だぞ。

 

 因みにメティはこの上なく上機嫌だ。

 

「では、いただきます。」

 

「「「いただきます。」」」

 

 俺の言葉を合図にして皆で同時に食べ始める。

 なんか保育園か何かか?などと思われるだろうが、

 挨拶と言うのは大切だぞ。

 

 カチャカチャカチャ・・・

 

 料理を食べ進めて行く俺達。

 そんな中、俺とメティの隣に座り紅茶を飲んでいたアヤさんが

 

「アキトさん、アキトさんは食べないんですか?」

 

 と、俺を見て聞いてくる。

 

 確かに俺は今メティに両手を貸している為、

 自分の分の食事を出来ていない。

 

「ああ、いいんですよ、俺はメティが食べ終えてからで。」

 

 メティは両手が使えない、それは俺の管理不届きが原因だ。

 よって俺はメティを優先させる。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

 メティはいたから申し訳なさそうに見上げてくる。

 ルリとカイトも食事の手を止める。

 

「ああ、いいって、お前達は食事を続けてくれ。」

 

 これは仕方の無いことだ、なにせ手が足りていないのだ。

 俺はそう思っていた、だが、

 

「それなら私がアキトさんに食べさせてあげましょうか?」

 

 アヤさんはそんな事をのたもうた。

 

 ピキッ!!

 

 ん?今何か変な音がしたような?

 ま、いいか。

 

「え、悪いですよ。」

 

 俺は丁重に断ろうとしたが。

 

「良いんですよ、私は今暇なんですから。

 はい、どうぞ。」

 

 アヤさんはフォークとナイフで俺の分の食事を食べやすい大きさに切り、

 落ちない様に下に手を添えて俺の差し出してくる。

 

「あ〜ん。

 ・・・んぐ。

 すみません、アヤさん。」

 

 ピキッ!!!

 

「いえいえ、いいんですよ、好きでやっていることですから。」

 

 そう言って次ぎの料理を切り始めるアヤさん。

 俺はその間にもメティの手となる事は忘れてはいない。

 が、その時

 

 ヒュン!!

 

 俺の向いている方の後ろ、つまりルリのいる方から、

 何かが超高速で移動する音が聞こえた。

 そして、

 

「アキトさん、はい、あ〜ん☆」

 

 後ろからシチューを掬ったスプーンが差し出される。

 後ろ、つまりルリからだ。

 

「ルリ、お前は自分の食事を・・・」

 

 俺がルリの方を向くと。

 

「もう食べ終わりました。」

 

 ルリの前には空の皿が並んでいた。

 

「・・・いつも通り5人前くらいはあったと思うけど?」

 

 ここで断っておくが、俺達は普段から5人前くらいを食べている、

 だが、それは常人の何10倍という運動量をこなしている為、

 いくらエネルギーの変換効率が良かろうが、それくらい食べないと、

 この身体を維持できないから食べているのだ。

 

「アキトさん、神速を極めるとはこう言う事ですよ。」

 

 しれ、っと答えるルリ。

 

「・・・早食いは身体に悪いぞ。」

 

「ちゃんと20回は噛んでます。」

 

 変な所で極めた神速を使わんで欲しいな・・・

 

「それより、はやく食べください。

 まさか、アヤさんのは食べて私のは食べないなんて事は無いですよね?」

 

 ちょっと目が怖いぞ、ルリ。

 

「ああ、あ〜ん・・・」

 

 俺はルリの差し出したシチューを口にする。

 

「はい、アキトさん、次ぎは私ですよ〜」

 

 今度はアヤさんが食べ物を差し出してくる。

 

「あ〜ん・・・」

 

「アキトさん。」

 

 そして、次ぎはルリが。

 と、言う具合に俺は二人の給により食事を取る事となった。

 

 この場にホウメイさん以外の女性がいなかったのは幸いであっただろう。

 

 因みにその時のメティとカイトの心情はというと・・・

 

(いいもん、私はお兄ちゃんの手を意のままに動かして、

 食事をさせてもらえる事を堪能するから。)

 

(さて、今夜はどんな甘え方をしようかな?)

 

 と、まあこんな感じだったので騒ぎが起きなかったのである。

 

 

 食事終了後

 

「アキト〜〜〜☆」

 

 食事も終り、食後のお茶兼3時のお茶を5人で楽しんでいた所に、

 ラピスが何やら大きな金属の箱と袋を抱えて食堂に駆け込んでくる。

 

「ラピス、そんな物を持って走ると危ないぞ。」

 

 ラピスも俺達で鍛えているので大丈夫かとは思うが、

 一応注意はしておく。

 

「うん、アキト。

 でね、完成させたんだよ!!」

 

 ちょと興奮気味のラピス。

 ラピスはその直方体の箱と袋をテーブルに置く。 

 

「何を完成させたんだ?」

 

 何か作業をしているのは解ったが、

 何を作っているかまでは解らなかった。

 

「えへへ、これだよ。」

 

 そう言ってラピスは腕を胸の前に横に構える。

 ラピスの腕には機械が組み込まれているだろう腕輪が装着されていた。

 

「T-LINKコンタクト!!」

 

 ラピスがそう叫ぶと同時に腕が輝き、

 それに呼応するかのようにさっきラピスが持ってきた箱の蓋が開く。

 そして、

 

「ファミリア!!」

 

 ヒュン!!ヒュン!! ヒュン!!ヒュン!!  

 

 ラピスの声と共に箱から四機の小型ファミリアが射出される。

 射出されたファミリアはラピスの周りを、

 それぞれ違う角度、方向から各自一周した後、ラピスの周囲に停滞する。

 

「うわ〜凄いです〜、これ小型のファミリアですよね〜?」

 

 アヤさんは自分の前に停滞しているファミリアを突っつく。

 

「それにしてももう完成したの?

 確かかなりの問題点が残っていたと思うけど?」

 

 確かに前からこの小型ファミリアの案はあって、製作していたけど、

 問題が多々あったので、改良を重ねている最中だった筈だ。

 

「うん、これは今回の為に特別に作った試作型だよ。

 一番の問題点だった、重力下における浮遊は、

 このナデシコ艦内ではオモイカネの援護の元、

 重力制御をちょっといじって浮遊させているんだよ。」

 

 同時に、ファミリアの制御に欠かせないAIズもナデシコ艦内なら、

 何処ででも俺達の援護をできる、と言う訳だ。

 

「なるほど、それならナデシコ艦内なら使えますね。

 試作として、練習としては丁度いいでしょう。」  

 

「そうでしょう。

 はい、皆の分の発信装置。」

 

 そう言ってラピスは自分が付けているのと同型の腕輪を3つ差し出す。

 ん?3つ?

 

「あ、メティは手が使えないからこっちね。」

 

 そう言ってメティにはサークレットのような物を差しだし、

 意図を解してしゃがんだメティに被せる。

 ラピスはただ乗せるだけでなく、メティの髪の毛もちゃんと配慮している。

 

「ありがとう、ラピスちゃん。」

 

 うん、我が娘は優しい子に育ったものだ。

 俺は全然育てて無いけど。

 

「じゃあ、皆使ってみてよ、全員分のファミリはこの射出装置に入ってるから。」

 

 俺達はアヤさんとラピスが見守る中、それぞれ構え、

 

「ディア!!」「リリス!!」「フィリア!!」「クオン!!」

 

 己のパートナーを呼び出し、

 T-LINKの出力を上げていく。

 

「「「「T-LINKコンタクト!!」」」」

 

 それぞれの傍らに出現したAIズを介し、ファミリアにリンクする。

 因みにラピスが介したのはダッシュだ。

 

「「「「ファミリア、射出!!」」」」

 

 ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!!・・・・

 

 そして箱から飛び出す多数のファミリア。

 それらはそれぞれ使い手の周りを飛び回り、

 使い手を守護する様に止まる。

 

「わ〜いいですね〜。」

 

 アヤさんが感嘆の声をあげる。

 

「私にも出来たらいいんですが〜。」

 

 アヤさんは羨ましそうに止まっているファミリアを突っついたりして遊んでいる。

 

「それは大丈夫、今私がIFSとAIズの援護だけで出来るファミリアを開発中だから。」

 

 そんなアヤさんにラピスがまだ発案したばかりの計画の事を話す。

 

「本当ですか?

 じゃあ、出来たら私もファミリアが使えるんですね〜

 ラピスちゃん、がんばって作ってくださいね〜」

 

 嬉しそうなアヤさん。

 そんなにファミリアが使いたいのだろうか?

 

「まっかせといて。」

 

 胸を張って宣言するラピス。

 

「ところでラピス。

 このファミリアの機能は?」

 

 制御を試していたルリがラピスに問う。

 

「本来のファミリアの機能の縮小版だけど、

 同じ事ができる様にしてあるよ。」

 

 さらっと、答えるラピス。

 つまりは、このファミリアはちゃんとした武器なんだな?

 

「あ、本当だ。」

 

 カイトはファミリでさっき使っていたスプーンを切り裂いて見せた。

 

 ホウメイさんにはちゃんと謝っておくんだぞ?

 

「じゃあ、私のファミリアでフィールドを張ることも出来るの?」

 

「できるよ、浮遊の分の機能が簡略できたから、

 武器としての機能が充実できたんだよ。」

 

「そこまでできるなら、確かに何処ででも使えたら、

 かなり便利な物になるな。」

 

「そうでしょう。」

 

 確かに、味方になら頼もしいが、

 だが、これが敵に渡ったら・・・

 今まではT-LINKが無ければできなかったからその心配も無かったが、

 IFSとAIズだけでできるファミリアか・・・

 製作を中止させておくべきだろうか?

 いや、ここまで来ていれば相手に製作される可能性もあるから同じか・・・

 

「あ、そうだ、一番大切な物を忘れる所だった。」

 

 俺がちょっと思考を巡らしていると、

 ラピスは持ってきていた袋の方から何かを取り出す。

 

「はい、これ。」

 

 そして、それをメティに差し出す。

 

「「「「・・・」」」」

 

「・・・手?」

 

 今までの雰囲気を一気にぶち壊したそれは、

 まあ、見た目は白い手袋だ。

 中身の入った・・・

 

「これもファミリアと同じで、リンクで操作できるんだよ。」

 

 ラピスはそんなことお構いなしに説明をする。

 

「そ、そう、じゃあ、ちょっとやってみるね。」

 

 メティはちょっと躊躇したが、それをファミリアと同じ様に動かし始める。

 

「あ、ちゃんと指も動くからね。」

 

 ラピスにそう言われ、メティはその手を操作する。

 

 確かにその手はまるで人間の手の様にメティの意のままに動く。

 だけど・・・

 

「なんか嫌だな・・・」

 

 メティがそう呟いてしまうのも当然。

 想像してみよう、

 某スマブラ2のラスボスが(ちゃんと人間の手のサイズだけど)、

 自分の周りを飛び回ってワキワキ動いてる光景を・・・

 

「便利でしょう?

 これで腕が治るまでの代わりにできるよ。」

 

 ラピスはかなり自慢気だ。

 

「う、うん、ありがとう。

 使わせてもらうね。」

 

 メティは外見が嫌だったろうが、その利用価値を認め使うことを決める。

 

「ん〜あれは流石に便利でもあまり使いたくありませんね〜・・・」

 

「そうですね・・・」

 

 横で正直な感想を漏らすアヤさんとルリ。

 

 まあ、確かにアレは嫌だけどね・・・

 

 

 その後 視点変更メティサイド

 

 食事も終り、お茶も飲んで、小型ファミリアの説明も受け終わった私達は、

 食堂前で別れ、それぞれの仕事に戻ることになった。

 

 ルリちゃんは元々オペレーター、カイトさんも忘れがちだが副通信士、

 まあ、今は通信士の座はサラさんに持って行かれてるから、

 カイトさんはパイロット扱いだけど。

 今はリリスちゃんと一緒にナデシコでハデスの整備をしている。

 アキトお兄ちゃんもコック兼パイロット兼ブローディアの整備の手伝い。

 今はカイトさん同様カオスの整備中。

 ラピスちゃんはオペレーター、アキラちゃんもオペレーター。

 でも今現在、ルリちゃんとアキラちゃんは、

 エステとブローディアシリーズのソフト面の整備中。

 オペレーターの仕事をしているのはラピスちゃんだけだ。

 

 皆自分の仕事をちゃんと持っている。

 

 でも、私は元より正規のナデシコ乗組員ではないし、

 できる仕事といったらソフト面の整備と戦闘のみ。

 今はこの腕のせいもあるけど、ルリちゃんとアキラちゃんがいる時点で、

 私がいる必要せいは無い。

 むしろ邪魔になるだけだろう。

 何時もやっている修行はできないし・・・

 

 あ、そっか、私、皆が仕事をしているときでも修行をしてたから、

 皆より身体に疲れが溜まってたんだ。

 

「は〜・・・今頃気付いたよ・・・遅いし、

 それは皆に追いつく為に仕方の無かったことだし・・・

 ・・・まあ、それは今は置いておくとして。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暇だよ〜〜〜。」

 

 私は一人寂しく廊下を歩いている。

 

「・・・メティ様、ゆっくりお身体を休ませてくださいね。」

 

 あ、ごめんクオン、貴方がいたわ。

 私の後ろに控え、一緒に歩いているクオン(巫女服バージョン)。 

 因みにファミリも出しっぱなし、飛ばしっぱんしにしてある。

 これもファミリの制御の訓練になるから。

 ・・・流石にあの『手』は腕の釣り布の中にしまってある、

 アレが私の周りを飛んでたら精神衛生上良くない。

 でも、使えることは使えるのですぐに出せる所にあるのだ。

 

「クオン〜、暇だよ〜〜・・・」

 

 とりあえず他にいないのでクオンに心の内をぶつけてみる。

 

「そんな事を申されましても・・・」

 

 あ、本当に困ってる。

 ん〜別に困らせたかったわけじゃないんだけどな・・・

 

「しょうがない、散歩でもしようか?」

 

「はい、お供させていただきます。」

 

 と言う訳で私とクオンはナデシコ艦内を散歩する事にした。

 

 

 一方その頃 食堂

 

「「「「「ホウメイさ〜ん、ただいま戻りました〜」」」」」

 

 アキト達とは入れ違いに食堂に戻ってくるホウメイガールズ。

 

「おかえり。

 さて、そろそろ夜の仕込みを始めちまおうかね。」

 

「「「「「は〜い」」」」」

 

 そしてそれぞれの配置に戻るホウメイガールズ。

 

「あら?」

 

 そんな中、ハルミがちょっとした異変に気付く。

 

「ホウメイさ〜ん、この大量の洗い終わっていない食器類は何ですか〜?」

 

 出ていく時、確かに全部片付けた筈の食器が流しに溜まっていた。

 

「ああ、それはさっきアキト達が来てたからだよ。」

 

 作業をしながら答えるホウメイさん。

 

「ホウメイさ〜ん、何か妙に食材が減ってますけど、

 何か作ったんですか〜?」

 

 今度は冷蔵庫の前からエリの声が聞こえる。

 

「ああ、アキト達、また派手にやったみたいでねぇ、

 とにかく栄養の補充を重点に置いた料理を20人前ほど作ったよ。」

 

 ピクッ!!

 

 ホウメイさんのこの言葉に動きを止めるホウメイガールズ。

 

「「「「「・・・アキトさんは栄養万点の料理を求めている!!」」」」」

 

 こう解釈した彼女達の行動は早かった。

 

 まず一人が同盟規約に基づき、同盟メンバーに連絡をいれる。

 

「五花より同盟メンバーへ、緊急連絡、Aは栄養のある料理を求めている模様。」

 

 そう来れば

 

『了解!!』<同盟メンバー

 

 そして、その後どうなるか・・・想像に硬くないだろう。

 

 その横では

  

「・・・失敗したねぇ、今夜はどうしようか?

 あれじゃあ暫く厨房は使えないし・・・

 終った後も『処理』がねぇ・・・

 しょうがない、皆カレーで我慢してもらうしかないね。」

 

 ホウメイさんは一人、巨大な鍋にカレーを作り始めるのだった。

 

 

 戻ってメティサイド シュミレーションルーム

 

 プシュ!!

 

 私が特に目的も無く歩いていて最初に着たのはシュミレーションルームだった。

 とりあえづ、人の気配がしたので入ってみると、

 

 ズガガガガガガンン!!

 

 予想通り中ではシュミレーションが行われていた。

 今シュミレーターに入っているのはガイさんとヒカルさんだ

 

 ステージは月面。

 二人が対戦している相手はお兄ちゃんの戦術を模したAI、

 機体はブラックサレナのエステだ。

 試作型ガイアはついていない。

 ヒカルさんの援護射撃をバックにガイさんはライガーのドリルでDFSを捌いている。

 

 一旦ブラックサレナから離れ、ヒカルさんの所まで退くガイさん。

 そして、ヒカルさんは今、月面に立っているブラックサレナに対し、

 ガイさんが退く為の援護なのか手持ちの武器を乱射する。

 巻きあがる爆炎と砂煙、それらが三機を包み込み視界から消える。

 しかし、この程度の攻撃ではブラックサレナのフィールドで防がれてしまう。

 

 そして、煙が晴れ・・・

 

 ライガーがいない!!

 動くのが得策では無いと判断したブラックサレナは地上に、

 ヒカルさんもさっきと変わらぬ位置にいるが、

 ガイさんのライガーが姿を消している。

 

 何処に・・・

 

 そう思ったその時。

 画面内の地面が僅かに振動する。

 

 ああ、そうか・・・ガイさん達の勝ちだ。

 

 ズガァァァァァァン!!

 

 突如、ブラックサレナの真下から、地面を突き破りライガーが現れる。

 

「ライガー ドリルスマッシャァァァ!!」

 

 ガイさんは声と共にブラックサレナを貫かんとする。

 ブラックサレナは間一髪、反応でき、空中に逃れられた、

 しかし

 

 ズガガガガンン!!

 

 上空からのヒカルさんの集中射撃により、上方に逃げることを封じられる。

 そして、そこにライガーのドリルが直撃する。

 

 ドゴォォォォォォンン!!

 

 爆発するブラックサレナ、その爆炎から飛び出し、着地するライガー。

 

『WIN』

 

 画面に大きく表示された勝利の文字。

 

 プシュー!!

 

おっしゃぁぁぁ!!

 AIとは言えアキトのブラックサレナを討ち取ったぜ!!」

「勝った〜〜!!」

 

 シュミレーターから出た二人は歓喜の声をあげる。

 

「これでアキトにまた1歩近づいたぜ。」

 

「そうだね〜、でもまだテンカワ君には遠いけどね。」

 

「ああ、そうだな、それにしても悪かったな。

 俺の修行につき合わせて。」

 

「別にいいよ、私の修行でもあるんだから。」

 

 笑顔で互いを見ているガイさんとヒカルさん。

 

 さっきのコンビネーションといい、なかなかいい雰囲気だと思う。

 ガイさんも隅におけないね。

 

 などと私が思っていると・・・

 

「しかし、アキトの前に倒さねばならん奴がいるな。」

 

「え?誰?」

 

万葉だ。」

 

 ピキッ!!

 

 ヒカルさんの笑顔が凍りつく。

 

万葉は強い、女にして置くが勿体無い。

 いや、男では万葉の様な繊細な攻撃はできんだろうが、

 万葉の攻撃は格闘術を使った接近戦、これだけなら勝てる、

 だが万葉は接近に特化してある訳では無い、

 あの正確な射撃、俺の機体は近距離が主体だからな、

 離れられると痛い。

 万葉は強い、俺にとって好敵手とはまさに万葉の事だろう。

 本来なら万葉は女だから好敵手と呼ぶのは男として情けないのだが・・・

 いや、あのアキトの好敵手も女だったな。

 とにかく、万葉は今の俺の壁だ。

 俺は万葉を超えねばならん!!」

 

 力説するガイさん。

 そして笑顔が凍ったままのヒカルさん。

 

「・・・自殺願望でもあるのかな?ガイさん。」

 

『この場でライバルとも言える女性の名前を連呼して誉めるなんて・・・

 アキト様以上の愚鈍はいないと思っていましたが・・・』

 

 因みに二人は私達の事に気付いていない。

 

「ねえ、ヤマダ君、私と勝負してみない?」

 

 座った笑顔で問いかけるヒカルさん。

 

「あ、ああ。」

 

 その表情に少し違和感でも感じられたのか、

 一瞬躊躇して承諾するガイさん。

 

 プシュー!!

 

 そして二人はまたシュミレーターに入っていく。

 

 結局二人は私達に気づくことはなかった。

 

 私達は爆音を背にその場を後にする。

 

 

  休憩所前

 

 通りかかった休憩所の中から人の気配がしたので中を覗いてみる。

 すると中ではシュンさん、カズシさんペアとプロスさんアカツキさんペアが、

 ダブルスで卓球をしていた。

 

 なんか珍しい取り合わせだなあ。

 

 その時、私には4人の会話の内容が聞こえてきた。

 

「・・・で、どう思う?この和平、ちゃんと成立すると思うか?」

 

 シュンさんが直球を撃つ。

 

「相手の出方次第だね、取り合えず、いろいろ用意はあるし。」

 

 それをまずは無難に返すアカツキさん。

 

「だが、問題はアキト君の言う草壁だ、草壁がどんな要求をしてくるか・・・」

 

 カーブで返すカズシさん。

 

「そうですね、金、土地、地位なら用意はありますが、

 問題は、ほぼ確実に要求されるであろう・・・」

 

 ちょっと上がったボールを打つプロスさん。

 

「テンカワ アキトの身柄。」

 

 シュッパン!!

 

 スマッシュで決めるシュンさん。

 

 パシッ!!

 

 台に跳ねたボールを左手でキャッチするアカツキさん。

 

「そう、例え木連が要求しなくても軍が黙ってはいないだろ。

 だが、僕とて仮にもテンカワ君の友人を名乗って人間だ。

 一番の功労者が幸せになれないなどと言う事態は認めない。

 彼もいろいろ悩んでいる様だが、僕の方でも幾つか考えがある、

 彼がそれを受け入れるかは別だが、彼を不幸にはさせないさ。」

 

 珍しくと言ったら失礼だけど、

 真剣な顔のアカツキさん。

 緊迫した雰囲気・・・

 

「そう、彼には我が愛娘アヤと幸せになるという義務があるからな!!」

 

「そう通りです!!アヤちゃんとは絶対に幸せになってもらわねばならない!!」

 

 を一気に打ち壊す親バカとオジバカ(とでも言うのだろうか?)の二人。

 更に

 

「個人的には舞歌嬢や北斗嬢をどの様に対処するかが見物ですな。」

 

「僕はこれから最終的に何人になるかが気になるところだね。」

 

 さっきの緊迫はどこへやら、場が笑いに包まれる。

 

 でも、4人が真剣にアキトお兄ちゃんの事を考えていることは確かだ。

 やはり、このナデシコは良い所だ。

 

 私は4人に気付かれない様にその場を後にする。

 

 

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