機動戦艦ナデシコ
〜時の旅人〜
第二話 策謀の宙域(?)
「…………というわけで、テンカワさんの部屋はこちらになります」
「相部屋……ですか?」
「……そうですけど……それが何か……?」
(という事は、もしかしなくても……)
厭な予感が思考を遮り、やはりその厭な予感は当たるのだった。
ピッ
ウイーン(←ドアの開く音)
「おおぅ!良く来たな兄弟!!これから夜を徹してゲキガン……」
ピッ
プシュー
「……」
「………」
《…………》
「すいません」
「な、なんでしょう」
「個室、余ってます?」
「え、ええ。もちろんあまってますよ?」
「……変えてください」
一点の曇りの無い笑顔で云った。
「解りました」
(……一周目、よく耐えられたな。俺)
・
・
・
・
・。
「……改めて、テンカワさんのお部屋は此処になります」
「いや〜すみませんねぇ。無理云って部屋変えてもらっちゃって」
「いえいえ、良くある事ですから」
《良くある事なんですか?》
(まあ、ここの連中はアクの強い奴が多いしな)
「こちらが部屋のキーになります」
プロスはカードキーを差し出し、アキトはそれを受け取った。
「どうも」
「では、私はこれで……・あ、そうだ。食堂の方とハンガーの方に顔を出しといてください」
「はい」
「では……」
軽く挨拶してから足早にアキトの前から去っていった。
(……不慮の事故死をとげたテンカワ両博士の御子息ですか……この戦艦に乗り込んできたのは偶然でしょうか。それとも……どちらにしても彼の身の回りは要チェックですね)
「さて、部屋は確保した。後は荷物の方だが……」
《どうするんです?ボソンジャンプで取りに行くのは面倒ですし……》
「フフフ……まぁ見てろ」
そういうとアキトは手を前に出し、落下するものをキャッチするような体勢を取った。
《……?》
次の瞬間、
「よっと……さすがに重いな」
何時の間にかアキトは黒いバックを手に抱えていた。
比喩ではなく、本当に唐突に。
《え?》
「な?手間が省けたろ?」
《な、何をやったんですか!?何も無いところからモノを出現させるなんて……》
「モノをもと有った場所から手の上に移動させたんだ。
………超常能力。いわば超能力の一種だ」
……と、アキトは至極尤もな顔でいっているが、
科学が繁栄しているこの時代にそんな事言っても、まず信じる人はいない。
精々、高度なマジックだと思われるだけだろう。現に、
《すいません……》
「なんだ?」
《マスター人間ですか?》
「何故」
《だって超能力って……》
彼女でさえ半信半疑だ。
「お前ほんっっっっっっとに何も知らないんだな」
《はい?》
「皆が使わないから異常だと思うんだ」
《そう言ったって……》
「例えば……そうだな。100人中自分以外が異星人ならお前……如何思う?」
《そりゃあ、自分が何か可笑しい。と思いますけれども……》
「つまり……そういう事だ。」
何やら解るんだか解らないんだか良く分からない例を挙げる。
「……超能力というのは人が誰しも持っている――なんて事の無い能力なんだ」
《持っている?》
「尤も、今の人間は主義・思想・先入観に捕われて、使える奴は殆どいないけどな」
《……そんな便利な能力を自分達の手で使えなくしているなんて……》
「……認めたくないんだろ?『非科学的だ』とか行って」
《……》
確かに。彼女自体、自分の主人が言う事でもまだ信じきれていない。
『茶化しているのではないか?』と思っている。
「恐い。と云うのも一つの理由だろう。
人間は自分達とは違う『異能』の者を本能的に排除しようとする傾向があるからな。」
《…………》
「『異能』の者が受け入れられるのは容易な事ではない。何時の時代でも大抵は
異質なるモノとして、排除される」
「全く……進歩という文字を知らないのだろうか?人間は……」
呆れた口調で呟いた。
《……マスターは他にもできるんですか?》
「んー?できるけど?」
《例えば?》
「んー、第一印象が「半透明」な人とお友達になれる技術とか?」
《え?》
マルスには、アキトの言っている、『半透明』の意味が解らなかった。
……最も、『それ』の存在を信じてない奴には、頭をひねっても解らないだろうが。
「……こちらナデシコ製造途中で事故に遭って死んだ田中芳雄さん(49)だ」
そう、『それ』は基本的に『幽霊』といわれている人種(?)だ。
『……………………………』
何も無い空間を指差す。
……否、普通の人には見えない、そこにいる半透明の人を指差したのだ。
《いや、私には見えないんですけど……》
「なんだ、お前同じ様な存在なのに見えないのか……残念だな」
《……もしかして、私をおちょくってません?》
やはり彼は、『さっきの事と良い、本当は私をからかっているのだけではないか』
そう考え、口にした。
「そんな事無いって」
彼は否定しているが、どうもうそ臭い。それにアキトは何時も自分を騙し、遊んでいる。
(こういう事例を、人はオオカミ少年という)
其処で彼女は質問してみた。
《じゃあ、証拠見せてくださいよ》
「証拠だって、田中さん、見せられる?」
『……………』
何やらアキトは相手と会話しているようだが、
マルスには一人芝居しているようにしか見えない
「をを、見せられるって」
《本当ですかぁ?》
「まあ見てなって」
言い終わると、辺りが急に静かになる。
……まるでこの空間だけ時間が止まったように。
ガサガサ……
静寂が破られ、騒がしい物音が響く。
《ん?音?》
ゴロゴロ
ガタガタ
ドン
……など不審な音が鳴り、
《も、物が勝手に!?》
動き出している。見事なまでに。不規則に。
数分後には、
「をを、中華鍋が舞っているぞ」
《いすが浮いている!?》
立派なポルターガイスト状態になっていた。
「はははは、田中さんは意外とお茶目さんだなぁ」
……どうもアキトの感性は、他人の者の『それ』とは、完璧なまでにズれてしまっているらしい。
……『反動』だろうか?
《ワ、私まで浮いているうぅぅぅぅ!!?》
……彼女はアキトに、おちょくられる運命にあるのだろうか?
だとしたら、こちら側からいえる言葉は一つだけである。
すなわち……
哀れ
と。
「な?なかなか貴重な体験だったろ?」
アキトの顔はまるで子供の『それ』の様に喜びに満ちている。
《ええ、もう恨めしいくらいに……ところで、田中さんは?》
「彼ならこの艦の中をさ迷っているんじゃないか?」
彼は、さも当たり前に言った。
それはもう、
これはこれでおもしろいじゃない!!
と言わんばかりに。
《良いんですか!?それで!?》
「他の人には見えないし、遇ったとしても少々寝苦しくなるだけだろ」
《それ、金縛り……》
《……ところでさっきの能力でなんでも移動できるんですか?》
「手で持てる重さなら、何でも……例えば」
《例えば?》
「どっかの誰かの部屋にある超合金ゲキガンガーとか」
そう言い終わったアキトの手に、やはり何時の間にかゲキガンガーが握られていた。
……何やら外で「ああ!!俺のゲキガンガーが!!?」という叫び声が聞こえるような気もするが気のせいだろう。
「何処かのお店で売ってる100円おにぎりとか」
《それって万……》
「(無視)何処かの整備班長が持っている食堂のタダ券とか」
……何やら外で「ああ!!俺のタダ券が!!?」という(略)
「……極め付けにランダムジャンプに巻き込まれて行方知れずになった
イネス・フレサンジュ博士とか?」
《…………はい?》
やはりいつの間にかイネスがアキトに抱かかえられていた。
とうのイネスさんは多少頬を赤らめている。
「……貴方……アキト………君?」
「取り敢えず……久しぶり。というべきなのかしらね?」
「貴方だけはやはりまともにジャンプできましたか……」
「まともじゃないわよ」
「……といいますと?」
「蜥蜴戦争だけを367回も繰り返してやっとこの身体と合流できたのよ?」
「ループ……ですか」
「そうらしいわね……」
重々しく頷く。
対してアキトの反応は……
「それは大変でしたねぇ」
底抜けに明るい物だった。
「……貴方、暫く見ないうち(367年)に性格……元に戻ったんじゃない?」
「そうですかね?」
「ええ、復讐のために罪亡き人を殺しまくっていた人物とは思えないわ」
さらっとトンでもない事を言う。
罪悪感はゼロのようだ。
「あの時はちょっとした病気にかかっていたからね」
世間話に突入。
マルスは口には出さないが(出したら何されるか解らない)
《騙されないで下さいイネスさん!!この人は『あの時』より質が悪くなっているんですよ!!
人を殺す事に何の『感慨』も持ってない人なんですよ!!戦う時だって……(以下エンドレス)》
と心の中で叫んでいる。
「……それで貴方はこれからどうするの?」
「俺はこれからナデシコに乗って歴史を『良い方向』へ持っていきます」
「そう……私はいったん火星の方へ戻るわ」
「なら……頼まれくれませんか?」
そういってバックの中を漁り、怪しげな道具を取り出す。
「イネスさん、これを(ゴニョゴニョ)で……下さい」
「成る程……アキト君、貴方も結構MADね」
「いえいえ、イネスさんにはかないませんよ」
なぜか『えちごやとあくだいかん』風味な会話をする二人。
「じゃあ私は火星に……」
「あ、ちょっと待ってくださいイネスさん!!」
そういってアキトはイネスを引き止める。
「なに?」
「イネスさんは蜥蜴戦争367回くり替えしたんですよね?」
「ええ、そうよ」
「てことは精神年齢が………」
バキッ!!
イネスの右ストレートがアキトの顔に奇麗にキまった
「で、伝説の右……」
イネスは怒りながらアキトから奪ったCCを使い火星に帰っていった。
《マ、マスタぁ?》
………………………………。
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
……教訓。女性にうかつに年を聞く物ではない
6時間後。
「う……世界狙えるんじゃないか?あの人」
アキトはやっと復活した。
……頬がはれている。
《何で……イネスさんに嘘ついたんですか?》
「ん?」
《歴史を『良い方向』へ持っていく気など無いんでしょう?》
「フフフフフ……さぁてね」
含みある笑い方をし、顔に邪悪な笑みを浮かべている。
《地球、木星を相手に、大戦争でも起こす気ですか?》
「(無視)さて食堂の方へ顔見せに行くとするか……」
《ま、まさか本とにやる気なんですか?》
「(さらに無視)きちっと給料分位は働かないとなぁ?」
と、食堂の方へ行こうと部屋を出ようとするアキト。
だが……
「あ〜き〜と〜」
ドンドンドン!!
「居るんでしょ〜?」
ガンガンガン!!
「恥かしがらないでさぁ〜」
ガキンガキンガキン!!
「出てきてよ〜」
心なしか音がドンドン大きくなっていくような気がする。
「……ユリカか」
《どうします?》
「……面倒だから逃げる」
即答。
《でも、この状態でどうやって?……それにあの人、
マスターキー持っているんじゃないんですか?》
「それは如何かな?」
そう言いながら邪悪な笑みを浮かべるアキト。
「あ、そうだ!私、艦長だからマスターキー持っているんだあ〜」
《気付きましたよ!?》
「なあ」
《はい?》
「これ……なんだと思う?」
何やらアキトの右手に薄っぺらいカードみたいなものが握られている。
「あれぇ〜マスターキーがな〜い!?」
《そ、それって……もしかして》
にやりと笑いながら
「……やってて良かった超能力」
どこに向かってかブイサインをしている
《……………………》
「さあ!!今のうちに亡者の魔の手から脱出するぞ!!」
ユリカ、酷い言われ方。
《……でも、ボース粒子とか監視カメラからの映像でジャンプしたのがばれませんか?》
「……大丈夫だ。半年前に細工した。そういう事は」
……コイツに罪悪感というものは存在しないのだろうか?
「さあ、そんな訳でとっとと行こう!」
《はぁ》
アキトの身体に幾何学的な模様が浮かび出す。
「……ジャンプ」
「コ、この位何だって言うのよ!!こんな小さな障害、私たちの愛の力の前には無力だわ!!!!」
やたらと熱血しているユリカ。
……しかし、彼女の努力は無駄に終わる・
ドンドンドン
ガリガリガリ
メキメキメキ
・
・
・
・
・
・。
ピッ
「おーい、山田―」
何を思ったか山田を呼び出す。
……その顔には笑みがほころびているが。
『何だ!!俺は今大切なものを探しているんだ!!邪魔をするな!!!』
必死になって何かを探している。
そんなヤマダの耳に悪魔の囁きが……
「その大切なものとやらが俺の部屋に転がってたぞー」
『何ぃ!?善し!!今すぐ行く!!』
ピッ
うおおおおおおおおおおおおおおお……(←擬音)
縮地ばりの速さでアキトの部屋の前に迫る。
(余談だが、彼はまだ足の骨折が直っていない)
そして……
「てぇりゃあ!!!!!!!!(ドモン調に)」
……山田二郎、勢い良く(ユリカごと)ドアを蹴破る。(しかも骨折している方の足で)
「うっきゃああああああああああああ!!!!!??」
バキグシャドガアッ!!
「どこだ!?俺のゲキガンガーは!!?」
「……ウ……ぅ」<山田に踏まれている。
………………………。
ピッ
「あのー、プロスさん?」
『なんでしょう?』
「艦長と山田がいきなりドアを蹴破って、俺の部屋に侵入してきました」
『……不法侵入に器物損壊ですか。はぁ、減給……ですね』
「宜しくお願いします」
ぴっ
アキトはこれ以上無いほどの極上の笑みを顔に浮かべながら、コミニュケを切った。
《オ、鬼……》