機動戦艦ナデシコ
〜時の旅人〜
第六話 「夢」
？？？？？？？
？？？？？？？にて。
……赤い。
自分の視界が……
紅い。
……血？
自分の服にべったりとどす黒い『何か』が付着している。
何？
……見苦しいな。
…………いや、中々愉快…………かな？
誰かが自分の目の前でもがいている。
腕は片方千切り取られ、顔が半分しかない。
目玉も零れ落ちていて、内臓が飛び出てる。
それでも、『良い声で鳴き、助けを求めている』
………………最初はあれほどの殺意を自分に向けていたのに
……まあ、良いか。
どうせ数瞬後には単なる肉塊になるんだ。
これで何人目になるんだっけ？
１０人？
１００人？
１０００人？
それ以上？
……肉塊の数なんて数えても仕方ないか。
きりがなくなるし。
ズルッズルッ
ん？
何だ。まだ生きていたのか。
地を這ってまで…………自分に『復讐』を？
フフフ……
グシャ
さて……次は誰を………
……機動戦艦ナデシコ
火星付近にて
「……ああっ！！てめえどうやって反省房から抜け出したっ！？」
格納庫にウリバタケの怒鳴り声が響く。
その余りの声の大きさ（ウリバタケ印のスピーカー。勿論ＭＡＤ仕様）に整備班９割が気絶。
一割が昇天。
詰りは全滅。
だが、そんな馬鹿でかい声にびくともせず、逆にそれ以上の声ウリバタケに応える男がいた。
「んふふふふふふふははははははははは！！
知りたい？そんなに？でも企業秘密だしなー！！
どーしてもっつーんなら教えてやるぜ！？
ねえ！！ねえ！！」
キイイイイイイイイン
彼―――ヤマダジロウ―――の大声……と言うよりも音波兵器が
再びウリバタケ含む整備班に襲い掛かる。
「……がふっ！！･……どうせ俺らは………名も無き脇役さ。
でも脇役がいるからこそ主役が目立つもの……」
「主役はこの俺だあああああああああ！！」
キイイイイイイイイイイン
「ぐわぁああ！！パ、パト●ッシュ…………私を導いてく……がくん」
バッタバッタと倒れていく整備班達。
耳から血が出ている者までいる始末。
「くっ、なんであいつはスピーカーも使わずにこんな馬鹿でかい音量が出せるんだ！？」
ウリバタケも例外ではない。辛うじて正気を保っていた。
「取り敢えずエステは確保したぜっ！！
後は発進するだけだ！！」
「お前……声を……」
「多くの英霊達が無駄死にで無かった事の
証のためにっ！！」
「ボッ、ボリューム……」
「火星よ！！私は帰ってきた！！」
「それはどちらかと言うとテンカワのセリフ･……というよりお前……火星……生まれじゃねえだろ？」
「臥薪嘗胆！！無知蒙昧！！焼肉定食！！四捨五入！！」
意味を解っているのかどうか知らないが、四字熟語を連発するヤマダ。
「駄目………だ……ブリッチ………応答……ヤマダ……が…………応答……！！」
ピッ
「……こちらでも確認しました……というより、
数分前からオモイカネが格納庫の様子を映し出してくれています」
コミュニケに金色の瞳をもつ少女が表示される。
「じゃあ……なんで…………君はへいきな顔しているのか………な？」
「……ミュート、ですから」
「今も……？」
「はい」
「じゃあ……なんで俺が言っている言葉……理解しているの……かな？」
「･･……訓練次第でどうにでもなるものですよ」
「は……反則……だろ……がくん」
《ウリバタケセイヤ 享年……》
オモイカネがウリバタケの享年を･･……
「勝手に…………人を死なす……・なっつーの」
最後の力を振り絞り、オモイカネに突っ込む。
「うおおおおおおおおおおおお！！」
雄叫びらしき物を上げる。
その声の大きさは、さっきの物と比べ物にならない。
…………が、格納庫にいた整備班が全員気絶しているので
被害はゼロだった（？）。
「ふるえぞハアアアアアアアアトゥ！！
燃え尽きるほどヒイイイイイイイイイト！！」
バシュウウウウウウウ
ヤマダ機、満を持して発進。
……因みに、彼の乗っていった機体は空戦フレーム。
ナデシコの現在位置及び戦闘宙域は宇宙。
「ヤマダ機、空戦フレームで出撃しました
例によってパイロットスーツは着ていません」
ルリは、ありのままの事実をブリッチクルーに伝えた。
「はあ、そうですか。困りましたねえ、ヤマダさんにも」
一見、動じていないプロスだが、手は神速のごとき速さで愛用の電卓を打っていた。
そして計算で出てきた数字を見、冷や汗をだらだら流している。
様子からすると、損害金額はトンでもない額のようだ。
「とっ、取り敢えずあ「アキト！？」」
『アヤカさんに連絡を』と、言おうとしたが『あ』の発音に反応したユリカの声に阻まれてしまった。
「アキト！？アキトに繋ぐんだよね！？
そうだよね〜。
この状況を乗り越えられるのは『漆黒の戦神』
って呼ばれているアキトだけだもんね！！
ルリちゃん、早く繋いで！！」
そしてユリカの暴走。
何やら訳の分からない事をほざいている。
（この作品の）アキトはそんなかっこいい渾名をもっているはずが無い。
現に、アキトの機体は敵機に追われててんてこ舞いである。
「テンカワ機の状況から見て、こちら側と通信している暇はないようですが………」
るりも、それを指摘するが
「艦長命令です！！直ちに通信をしなさ〜い！！」
……明らかに職権乱用だ。
この様子を見て、プロスが胃薬を買いに走ったのは言うまでもない。
「……了解しました」
仕方無しにアキトに通信を繋ぐ
ピッ
画面にでかでかとアキトの顔が映し出される。
その様子は勿論……
「グッ！！？なんだよ！？今こっちは大ピンチなんだぞ！？大画面で開かないでくれよ！！」
案の定、会話できる状態ではなかった。
「もう、アキトったら照れちゃって〜」
ユリカにはアキトが今、どのような状態なのか気付いてないのだろうか？
「……！！つまらない用事なら切るぞ！！こっちだって暇じゃないんだ！！」
確実にアキトは怒っている。
そりゃあそうだろう。
アキトは今、死地に立たされているのに、
ユリカが甘ったるい声でどうでも良い事を聞いてくるのだから。怒りたくもなる。
ピッ
通信は、激怒したアキトの方から一方的に（当たり前の事だが）切られた。
「……艦長、少しは状況を考えて行動して下さい。アキトさんが迷惑がっていたじゃないですか！！」
（意訳：このぉ〜、私のアキトさんを危険な目に合わせてないでよっ！！
この●●●●（適当な悪口をどうぞ）！！）
「あっ、ごめ〜ん。考えてみれば私とアキトは恋人同士だもんね。いつでも話す事は出来るもんね〜」
（意訳:ウフフフフフ……メグミちゃん、
貴方に入り込む隙間はないの。●●●●（上に同じ）はさっさと寝たら？）
「うふふふふ……」
「ほほほほほほ……」
バジジジジジ……
火花を灯ながら相手が「恋敵」である事を認識する二人。
……どうでも良いが、今は戦闘中だ。
ドゴォン！！
「ああ！空戦フレームがぁ！！」
「ヤマダ機、戦闘不能状態になりました。幸い、パイロットは無事ですが……」
そうこうしているうちに案の定、ヤマダが撃墜された。
「うふふふふ……」
「ほほほほほほ……」
それでもまだ火花を飛ばしあっている二人。
放っておいたらいつまでも睨み合っているんじゃないだろうか？
「艦長、指示を……」
「ウフフフフフ………」
ガチャ
「ホホホホホホ…………」
ジャキン
火花を飛ばしあうだけでは足りないのか、ブラスターに銃弾を装填するふたり。
ヤマダの事は完全無視………と言うよりも、聞こえてないようだ。
「うぎゃアアアアア！？だ、誰か俺を助けろ〜！？」
ヤマダが大音量の悲鳴を出しても、二人には聞こえない。
「銃を抜いたからには死合いです。
死んだって文句はいいっこ無しですよ？艦長？」
「プロスさん、メグちゃんの葬式の用意をお願いします」
第一回テンカワアキト争奪戦の始まり。
……数秒後、メインブリッチは戦場と化した。
「……馬鹿ばっか」
ごもっとも。
地球。
ネルガル系列のマンション
田神の部屋にて。
「ん〜、コーヒーは良いねえ。リリンの生んだ文化の極みだよ。
そう思わないかい？イネス＝フレサンジュ」
「……一回、ヤマダ君辺りに首を切られてみたらどう？」
「あきと、コレ、ニガイ」
「ん？ラピスにはまだ早すぎたか。仕方が無い。今度カフェオレを作っておこう」
「かふぇおれ？」
「そう、カフェオレ」
「かふぇおれッテナニ？」
「カフェオレはカフェオレさ」
｢ドンナアジ？｣
｢カフェオレの味｣
｢ドンナニオイ？｣
｢カフェオレの匂い｣
「かふぇおれ？」
「そう、カフェオレ」
｢……不毛、ね｣
ピンポン
｢ベルの音……来たわよ、アキト君。｢商談相手｣が｣
｢……………詰りカフェオレと言うのは√３＝……｣
「るーと？」
｢……なんで｢カフェオレ｣の話題に数式が出てくるの？｣
再び機動戦艦ナデシコ
メインブリッチ
ドドドドドドドド……
｢か、艦長！！メグミさん！！こんな狭い空間で実弾を使わないで下さい！！｣
「………！！」
「…………！！」
二人は何か言葉を口に出しているが、
余りの銃声と爆音（？）のため、プロスには聞き取る事が出来なかった。
無論、プロスの声も二人には聞こえていない。完全に二人の世界に入ってしまっている。
「あ〜もう！！ルリ……！！取り敢えず………に連絡……！！」
騒音のため、ルリはプロスの言葉を完全に聞き取る事が出来なかった。
しかし、プロスが誰に連絡したいのかはすぐに分かった。
自分も指示されるまでも無く、その人物に連絡しようと思っていたからである。
「……わかりました」
ピッ
コミニュケに『その人物』が表示される。
「その人物」――――――タチバナアヤカは瞼を閉じたままぴくりとも動いていない。
彼女の搭乗しているエステバリスも微動だにしていなかった。
彼女は一体何をしているんだろう？
瞑想？
お祈り？
明鏡止水？
ユリカとメグミ以外のブリッチクルー全員がそう思った。
…………が、次のルリの言葉と共に、彼女が今どのような状況なのか理解した。
そして………………
「…………寝ていますね」
……その声ともに、ブリッチに更なる混乱が起こる。
ただでさえ約二名が銃撃戦を展開していると言うのに。
「終わった……何もかも……真っ白に……………」
一人、真っ白になりながら泣き崩れる（？）プロス。
「ヤマダさん………」
真っ白になりながらも声を振り絞り、コミニュケに写っているヤマダに視点を向ける。
何故だか一点の曇りの無い、澄んだ笑顔を浮かべている。
「葬式は豪華な物にしますので、安心して逝って下さい」
――――――このまま大した山場も迎えずに、物語は終わってしまうのだろうか？
タガミのマンションにて。
「いや〜驚いたね〜、まさか『あの』イネス＝フレサンジュ博士が地球にいるなんて」
「……私にも色々と込み入った事情があるのよ」
「ふーん、で？なんだい？『商談』って」
「商談……というより『お願い』ね」
「『お願い？』」
「そう………『私達』を雇って欲しいのよ」
「うん？それはおかしな話だな。君は元々ネルガルの社員だろ？
……それに『私達』って……冗談だろ？」
軽い男――――――アカツキはイネスの隣にちょこんと座っている、
年端もいかない『薄色の美少女』（アカツキ命名。理由:色が薄いから。安直）に目を移す。
……どう考えたって極々普通の少女だ。
何か特殊な能力をもっているとも思えない。
まあ、外見や雰囲気は自分の所の『マシンチャイルド』、『ホシノルリ』に似てなくも無い………
……『マシンチャイルド』？
アカツキは『まさか』と思い、イネスに聞いてみた。
「……もしかして、この可愛い美少女（文法が変）マシンチャイルドだったりとか……？」
まさかそんな事はないだろうと思いながら、自分が言った言葉の返答を待つ。
「……あら、良く分かったわね。この子が『マシンチャイルド』だって」
イネスはそっけなくアカツキに返した。
「冗談だろ？いま、『一番年齢が高い』マシンチャイルドは、ホシノルリのはずだ。
あの子と同じ年齢のマシンチャイルドなんている訳が無い」
『一番年齢が高い』と言っても、当の『ホシノルリ』はまだ１１〜１２歳だ。
それ以上の年齢のマシンチャイルドは、まだ「存在」していない。
なのに『ホシノルリ』と年齢が同じか、
少し上くらいの目の前にいる『その子』がマシンチャイルどだと言う。
アカツキには出来の悪いジョークにしか聞こえなかった。
「言ったでしょう？「訳アリ」だって。
単に『雇ってくれ』ってだけの理由で貴方を呼び出したりしないわよ」
「へえ、ずいぶんな『訳』が有りそうじゃないか？」
「そうね……ラピス、ちょっと外で遊んでいてくれないかしら？」
「ウン、わかッタ」
「…………人払いは済んだのかい？」
アカツキが冷めた紅茶を飲みながら、イネスに確認する。
「ええ、じゃあ、まず私達の「正体」から話しましょうか」
「しょうたい？」
「そう･……………『私』は貴方が知っているイネス＝フレサンジュではないの」
『自分が知っているイネス博士ではない？』
アカツキには目の前にいる人物の言っている言葉の意味が分からなかった。
「………じゃあ、君は一体………？」
「『イネス＝フレサンジュ』よ」
……更に解らなくなってしまった。
最早自分にはさっぱり解らない。
……ドッペルゲンガー？
「……わからないの？ま、良いわ。『ボソンジャンプ』って知っているでしょう？
『それ』のちょっとした事故で『過去』に飛んできちゃったのよ」
『ちょっとした』どころではないと思うのだが。
「………『過去』？」
「知らなかったの？『あれ』は『時空間転移法』『みたいな物』よ？」
……アカツキには『時空間転移法』と言う言葉よりも「みたいな物」の方がきになった。
｢どういう意味だい？｣
｢そうね……例えば貴方が『ボソンジャンプ』を使ってまだ『自分の生れていない』時代へいき、
両親の片方を殺したら……どうなると思う？｣
｢どうなるって……そりゃ両親が出会わなかった事になって『自分』が消えてしまうんじゃ……｣
｢『消えない』のよ。貴方は。いたって無事、精々殺人罪問われる程度よ｣
「？？？？？？？？？？？」
｢ボソンジャンプで行き着く世界は『過去に似た現在』
……若しくは「未来のような現在」…………詰り「平行宇宙」の何処か、と言う事になるわね」
「？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？？」
「つまり……・・」
５時間経過……
「という事になるわね
まっ、ようするに『過去を変える事はできない』
って事よ。いくら頑張った所でたどり着くのは、
『過去に酷似した現在』『未来に酷似した現在』なわけだから」
……アカツキは既に３時間前に倒れてしまっている。