純白のエステバリスを前にして、ルリと整備班員たちが言い争っていた。


「目一杯まで弾薬を積み込んでください。
 チューリップを破壊しに行きます」


「む、無茶だ!!」

「無茶でもやらなければ、私たちは殺されます」


「だが、持ち堪えていれば救援が――」

「来ないことは解っているはずです」


「くそっ!! ガッデム!!」




「全ての武器を積み、バッテリーをニ・三個持っていけば、この戦場から離れられる」


 整備班長を見上げるルリ。

「私が逃げると思いますか?」


「思わない…………が、君には逃げて欲しいと思ってる」


「私は逃げません。そして…………」

 ルリは蒼く深い蒼天を仰ぎ見る。


「私は死にません。ここで、死ぬわけにはいかないんです。
 だから…………お願いします」


 ルリは頭を下げた。


「解った。………………だが、危険なら君だけでも逃げてくれ」



 ルリは無言で小さく微笑した。




「嘘つき女!!」


 突然、ルリの背中に怒声が飛んだ。



「空軍なんかいないじゃないのさ!!」


「我々を騙したな!!」


「神を騙る悪魔め!!」


「滅びろ!! 魔女!!」


「神の名の許に、消え去れ!! 悪魔!!」




 教会からの避難民の罵声に、くすっと嗤ったルリは振り返って、優しく微笑んだ。



「そう。悪魔は誰よりも優しいものです。

 そして、人の希望に付け入るもの。

 気付くのが、遅すぎますよ」



 ぬけぬけと言い放つルリに、怒り心頭に発するあまり、信者たちは口も利けなくなった。



 彼らの憎悪の視線を遮るように、大男がルリの前に立ち塞がる。


「おう、小娘。
 助かったぜ」

 リーダーが、大きな掌でルリの肩を叩いた。


「あの、怪我をした方は?」

「この基地に、医療用パックがあったからな。
 痛み止めを注射して、輸血してる。
 化膿さえしなければ、命に別状はないだろう」

「そうですか。良かった」


「小僧っ子は、どうした?」

「収容が済んだので、もう基地に戻ったはずですが……」


「みてぇだな」


 こちらに、駆け寄ってくるアレクを見、リーダーは頷いた。



 目の前に立ったアレクは、リーダーなど眼もくれず、手の甲をルリに晒した。

「見てくれ!! ルリ!!」



「え?」と言ったまま、固まるルリ。




 アレクの手の甲にはIFSタトゥーが浮き上がっていた。


「………………アレク。あなた――」



「これで、俺もエステバリスに乗れる!!
 もう、ルリだけに負担をかけることはないんだ!!
 ルリだけを、危険に晒すことはないんだ!!」



 ゆっくりと首を横に振るルリ。



「なんで!?」


「アレク。あなたは、エステバリスの訓練を受けてません。
 たった一機しかないエステバリスを破壊するわけにはいかないんです」


「だ…………だけど!!


 ポンとアレクの肩に手を置くリーダー。

「小娘の言うとおりだ。
 俺たちの生命線は、この小娘と一機のエステバリスにかかっている。
 IFSを持ったばっかりの、今の小僧っ子じゃ、どうしようもねぇ」


「だ…………だけど………………だけどよっ!!




「エステバリス!! バッテリー交換と弾薬補給終わりました」


「こいつを!!」

 小型投影映像付無線機を投げ渡す整備員。


「ありがとうございます」


 無線機を受け取ったルリは、一度も後ろを振り返らず、エステバリスに乗り込んだ。







 白色のエステバリスが蒼い空に飛び立ち、天空に白雲を一筋、描いた。





 ただ、見送ることしか出来なかったアレクは、拳を握り締める。




「俺は、好きになった女も守れねぇのかよ!!

 傍で戦うことも、付いて行くことすらも出来ねぇのかよ!!」





 日差しに焼けるアスファルトに膝を着き、蒼穹の天を振り仰いだ。


チクショウ(DAMN)!! チクショウ(DAMN)!! チクショウ(DAMN)!!

 
神よ!! 俺を断罪しろぉぉぉぉぉっ!!」








*






 ルリの空戦フレームは、残弾に限りがあり、しかも、左手まで壊れている。


 雲霞のごとく群がっているバッタの大群。



 ルリは純白のバイザーを外し、敵を睨みつけた。


「やるしか……ありませんね」




 純白のエステバリスは、群虫に斬り込んだ。


 爆華。 炸華。 連爆。 舞い踊り。 破壊。 避けて舞う。 銃弾が切り裂く。 爆華。 止まる事なく。 静止する事なく。

 火炎。 蒼い空。 舞い。 斬り裂き。 舞い撃つ。 優雅に。 苛烈に。 無慈悲に。 白雲。 舞う。 螺旋。 火の軌跡。

 緋の色。 空の蒼。 斬り裂く白。 死の舞。 破壊の舞。 殺戮の舞。 舞い踊る。 地の緑。 湖の青。 炸裂。

 烈火。 火華。 炎竜巻。 銃弾の風雨。 爆音。 誘爆。 轟音。 空気を震わす。




 轟音に合わせて、純白のエステバリスはバッタ群から、距離を取った。



 しばし、ラピッド・ライフルを見つめていたルリは、弾切れになった銃を宙に捨てた。


 純白の空戦エステバリスは、右手でイミディエット・ナイフを抜刀する。




 武器はナイフ一本。


 左腕は動かない。


 敵は数百。




 だが、ルリの顔に絶望は見えなかった。

 こんな所で、絶望している暇などないのだから。




 ナイフを構え、再び、バッタ群に特攻もうと――――


 数多の銃声。爆音。連爆。



 上空からの銃弾が、バッタを撃ち落としていく。



「ははは〜〜。助っ人だよ〜〜」

「なんとか、間に合いましたね」

「やれやれ。んな、ボロボロのエステで戦おうなんて、無茶するぜ」

「ハッハ〜〜。イッツ・スタート」


 四機の0G型エステバリスが、滑空してきた。



 通信機から、やけに明るい声が響く。


 ルリのコクピット内に括り付けた画像表示付携帯通信機に、童顔の金髪の青年が映り、子供ようなはしゃぎ声を上げる。

「ほら、ボクの言ったとおり、女の子じゃないか!!
 ボクって天才!!」


「あるんですねぇ。そういう、偶然て。
 と、紹介が遅れました。

 連合宇宙軍(・・・)第13遊撃部隊の者です。
 あなたの救難信号を拾い、救援に駆けつけました」

 紫の髪の女性パイロットが敬礼をする。



「同じく、通称、愚連隊の副隊長でっす。
 よっろしく〜〜。

 で、ボクの隣にいるのが、二次元美少女大好き変態親友の隊長だよ」


「ははは。女なら見境無しに口説きまくる鬼畜相棒から紹介された、
 第13遊撃部隊の隊長だ。

 この副隊長で鬼畜相棒には、お嬢ちゃんも気をつけるんだな」


 染めているのか、青く短い髪を逆立てている大柄の青年に、ルリは返答する。

「大丈夫です。私は、18〜52歳までのユウさんの守備範囲に入ってませんから」


「おや、ボクの守備範囲を何故に知ってるの?」

「あんた、広すぎ」



 まじまじとルリを凝視していた青い髪の隊長が、心底残念そうに、深々と溜息を吐く。


「それにしても残念だ。

 銀の髪、金の瞳、秀麗な美貌。
 全てが、完璧な美少女なのに。

 ただ一点だけ、君には致命的な欠点がある」


「…………欠点?」




「惜しくらむは君が、『三次元』の美少女だってことだ」




「は?」




「君が二次元の美少女だったなら、マイ(my)聖典に載っている、
あの伝説の美少女『テンカワ・アキ(天河明姫)』にも匹敵する逸材になっただろうに。


 
クッ!! 神は、なんて残酷なんだ!!」

「…………テンカワ?」

「おまえなぁ。そういうの、やめとけよ」




「バカヤロウ!! 萌えをバカにするな!!
 いいかっ!!


 
萌えは世界を救う!!」




「「救うかっ!!」」



「なっ!? 俺は、こいつで宗教でも造ろうかと思ってるんだぞ」


 半眼になる紫の女性パイロット。

「うわー。信者がわらわら湧いて出てきそうですね」





 呑気に喋っている彼らを見ながら、ルリは賭けに勝った事を実感していた。



 ルリが、通信機を吹っ飛ばしながらも送った救難信号は、地上軍に向けたものではない。


 エステバリスの通信能力では、地球の他方面軍まで届かせることは難しいし、届いたとしても、見捨てた地に救援に来ることはないだろう。

 もしくは、世間の風評のために、救難信号自体、握り潰される可能性が高い。


 だが、電波通信は横に広がるだけではなく、縦にも届くのだ。

 高度1万メートルまで上昇し、電力設定を弄って4倍の通信範囲にしたことで、宇宙軍までギリギリ届かせる事が出来た。


 だが、普通の宇宙軍はSOS通信を受けても助けに来ないだろう。

 一度、戦艦で大気園突入をしなければならないし、しかも、管轄が違うため、助けに入れば地上軍上層部の面子を潰すことにもなりかねない。



 だが、ルリは知っていたのだ。


 ちょうど、北欧の真上には悪名高き『連合宇宙軍第13艦隊』が布陣していることを。

 最強最低の掃き溜め。一流の腕を持つ問題兵の寄せ集め。最凶の戦闘狂集団『第13愚連隊』が存在していることを。



 だから、ルリは賭けた。


 通信機を吹っ飛ばしてでも、彼らに救難信号を送ることを。

 ほとんど0に等しい確率でも、彼らが救援に来てくれることを。




 そして、その勝算の低い賭けに勝った、はずなのだが――――


 彼らの能天気な会話を聞いていると、何故か思いっきり失敗した気分になってくるルリだった。




 心の底から疲れた溜息を吐き出したルリは、気力を奮い起こす。


「聞いてください。作戦があるんです」




*




「無茶だ」

 ルリの作戦を聞いた直後、隊長は即答断言した。


「本気かい? お嬢ちゃん?
 機動兵器でチューリップを墜とした人間なんていないんだよ」


「わたしも同感です。
 チューリップを破壊するには、ナデシコ級戦艦のグラビティ・ブラストか、スサノオ級の粒子砲か、ゼフィランサス級のマスドライバーが必須です」



「はい。知ってます。
 だからといって、このままバッタの駆除を続けてても事態は好転しません。
 バッテリーは空軍基地からの重力波エネルギーで何とかなりますが、弾薬は切れれば終わりです。

 他に取るべき手段が無いのなら、試してみる価値はあると思います。
 どうしますか?」


 ルリの問いに、3人の顔に不敵な笑みが浮かんだ。

 残りの一人は音楽に夢中で、ルリの話など、これっぽっちも聞いてない。



「まあ、それでチューリップを落とせるとは思えないけど、他にやりようが無いから乗ってみるさ。

 それにボクは、こういう博奕が大好きだっ!!


「無茶は嫌いじゃありません」


「美少女の頼みだからな。
 断わる訳にはいかないさ」




「私が切り裂く役をやります」

 当然のことのように言うルリに、紫の髪の少女が、さらりと長髪を靡かせる。

「なら、わたしがその銃撃役を請け負いましょう」



「『パープル・ブレード』ちゃん。
 本気かい?」

「勿論です」



「んじゃ、俺らは護衛だな」


「ははっ。きっちりかっちり躍らせてやるよ」




 護衛の3機を先陣にして、バッタ群を切り裂いて行く。



 青・グレー・濃緑の3機が踊るようにバッタを破壊し、3機が撃ち漏らしたバッタを紫のエステバリスが確実に撃ち落とす。

 宇宙軍最強部隊の名に恥じない戦闘だった。



 一機のバッタが、グレーの0G型エステバリスの右脇を擦り抜けて、純白のエステバリスに迫る。


「しまった!!」

 紫のパイロットが援護をする前に、純白のエステバリスが、イミディエット・ナイフを一閃。バッタを切り裂いた。


 緋の爆炎が青空に咲く。



 安堵の溜息を吐いた女性パイロットは、前の三人を怒鳴りつける。

「隊長!! 副隊長!! バゼット!!
 きっちりと護衛して下さい!!」


「いや〜。ゴメン。ゴメン。
 『パープル・ブレード』ちゃん。
 ちょっち、こっちで手間取った。
 これから先は、一匹たりとも近寄らせないよ」


「お願いします」



「任せなさい!! だから、デートしよう


「なにが、だから(・・・)ですかっ!!
 話に全然、脈絡がありません!!

「え〜。雰囲気を読んだんだけどなぁ」


「ど・こ・が・ですかっ!! ユウ!!
 戦闘中の、しかもバッタに取り囲まれている中で、どこの、どのような、雰囲気を読んだと言うのですか!!


「ボクの熱い恋心」

「あなたが、厚いのは面の皮です。
 それに、それは恋心ではなく、欲望満載の下心です」

「え〜〜。それは、誤解だよ」

「いいえ。まったくきっちりきっぱり、誤って理解してるつもりはありません。
 これは、正しい理解。正解です」

「私も正解だと思います」

「俺も賛同」



 金髪童顔の副隊長が、拗ねたように上目使いで、唇を尖らす。

酷いやぁ。ミンナが苛めるぅ

「…………ハッ!!」

「相棒。可愛く言っても、気持ち悪いだけだぞ」

「ああ。次の作品の主人公の決め台詞が決まったわ」

「そうかな?
 結構、女の子に人気あるんだよ? 今の言い方」

「あの弟キャラくんに言わせて、それに耐え切れず兄が押し倒して……」

「ま、兎に角、戦闘中は止めとけ。
 心の琴線にぶち当たったイツキが、身悶えてる」

「ウフフフフ。今度のコスミケの小説で……」

「…………ありゃま」


 駄弁りながらも、5機は凄まじい速度でバッタ群を切り裂き、チューリップに迫っている。



「…………ふう」


 会話と戦闘のあまりの落差に、ルリは心底疲れた溜息を吐き出した。


「お喋りはそこまで。本番です」


「了解」

「パープル・ブレードちゃん。
 そろそろ、眼を醒まさないと、永遠に覚めなくなるよ」

「…………わかってます」




 流れるような機動で、2機と3機のペアに別れる。


「幸運を!!」


「萌えの前に敵無し!!」


「きっちり、かっちり踊らせてやるぜ」


「宇宙軍の名において締めさせて頂きます」


「イッッッヤァァァァァァァッ!!」




 純白の空戦エステバリスと、紫の0Gエステバリスは急降下した。



 チューリップの根元まで急接近した白のエステバリスは、チューリップにナイフを突き立てた。


 そのまま真上へ、縦に切り裂いて行く。


 その出来た裂け目へ、紫のエステバリスが近距離射撃で、ラピッド・ライフルを撃ち込んでいった。


 護衛の3機はチューリップを攻撃する2機に、一匹たりともバッタを近づけさせない。



 亀裂が走るように、チューリップの表層が斬り裂かれ、ライフル弾で捲れ上がった。



 チューリップを3分の2程度まで、斬り裂いた時――――



 噛破音。


 応力が集中していた空戦エステバリスの右手首が応力破断した。


 右手首の部分で折れ曲がり、ボルトが弾け飛ぶ。



 突然、負荷が消えた純白のエステバリスは、右手首のコードを引き千切って、宙に投げ出された。




 空戦エステバリスは勢いを殺し切れず、コントロール(制御)を失い、青い空の中でスパイラル(螺旋回転)する。





*





 基地の片隅では、教会から逃げ延びて来た避難民たちが、身を寄せ合って不満を洩らしていた。


「無茶だ。あんなガキに何ができる?」

「そうだ。もう助からないんだ。
 俺達は、もう終わりだ」

「ああ、神よ。ここまで来て、何故、我々を見捨てたもうか」

「それもこれも、あのガキが……いや、『銀の魔女(The witch of silver)』のせいだ」

「そうだ。あの悪魔に魂を売った淫売魔女の奸計だ。
 アレが、魔女だったことにもっと早く気づけば……」

「そうとも、俺らが匿ってやったのに、恩を仇で返しやがって」

「銀の魔女は、俺達が苦しんでるのを横目に、とっとと一人で逃げ出したのさ。
 今、ここに居ないのが何よりもの証拠だ」

「そうとも、チューリップを落とすなんて口からの出任せだ」


「魔女は生来の淫売だ。整備員の男を籠絡させたのさ。
 姦淫と堕落と騙しは魔女の専門だからな」


「ビッチ!! あのクソ魔女め!!
 散々嬲ってから、火炙りにしてやる」


「そうとも、神に仇なす異教の魔女め!!」


「火炙りだ!! 火炙りだ!! 火炙りだ!!」






 負の熱狂が渦巻く彼らに、冷水の如く冷たい口調で冷罵が投げられる。


「なあ、あんたら馬鹿か?」




 彼らの眼が、ライフルを担いで壁に寄りかかっているアレクに集まった。


「今更、何を喚いても現実は変わらないよ」




「黙れ、ガキ!!
 俺達は騙されて連れて来られたんだっ!!」

「そうとも!!
 俺らは騙されたんだ!!」



「だから、何だ。同情でも欲しいか?

 哀れなほど間抜けな自分たちへの言い訳か?

 何の確証も無く、ほいほいと甘言に乗せられたのは、お前らだろ。


 あんたらが、今しておくことは、泣き喚くことじゃない」



 金の髪を揺らし、アレクはエメラルドのような緑の眼を避難民に向けた。


「覚悟を決めな」



 ギョロリとリーダーがアレクを睨む。

「諦めろってか。小僧っ子」



「ふざけんな。
 たとえ、足をもがれようが、腕が消し飛ぼうが、俺は生き残るために最後の最後まで戦う。

 その覚悟だ」



 リーダーは、にぃと嗤った。

「判ってるじゃねぇか。小僧っ子。

 地獄はさんざん見てきた。
 あっちも地獄なら、こっちも地獄。同じ地獄ならジタバタしたって仕様がねぇ。


 
てめぇらも、腹ぁ、くくれや!!」




*




 徐々にロールする速度を弱めていく純白のエステバリス。


 紫の少女は制御を失った機体に手を出さず、バッタを近づけないようにしていた。


 無闇に手を貸すと、一緒に巻き込まれてしまい、2機分の推進力で力の方向が定まらず、2機とも墜落してしまう。

 新人パイロットで一番多い事故が、水難事故のように仲間を助けようとして一緒に『溺れて(墜落)』しまう、この事故だった。


 機体の制御を取り戻し、回転を止めたルリは、開口一番に尋ねる。

「チューリップは?」


「駄目ですね。先程と変わりません」


「一端、離脱しましょう」

「ええ。バッタ群の真っ只中で作戦会議はできませんから」




 両手が壊れた純白のエステバリスを庇いながら、紫のエステバリスはバッタ群を突破する。




 バッタ群を抜けた5機は、一同に会した。


「やっぱり、ラピッド・ライフルでは無理ですか。

 『前』にノーマルエステバリス用のレールカノンで、小型チューリップを破壊したことがあったので、初期型チューリップならば……と思ったのですが」


「甘かったようですね」

 紫のパイロットに、ルリは素直に頷く。

「はい」


 銀の柳眉をひそめるルリ。

「正直言って、困りました」



「まあ、流石にちょいと無理があったね〜〜」


「ですが、手持ちの武器ではこの方法しか無いのも事実です。隊長」


「で、どうする?
 尻尾巻いて、逃げ出すか?」

 隊長の悪戯っぽい笑みに、副隊長が笑みを返す。

「冗談!!」



「ならば、もう一度やるしかありませんね。
 今度は、わたしが先頭を張らせて頂きます」


 紫の少女に、ルリが首を振った。

「待ってください。
 もう一度やって、破壊できる保証は一切ありません。
 いえ、今の攻撃で破壊できなかったので、この攻略法は失敗と断定した方が適切です」



「わたしが、イヤなんです。
 ただ、指を咥えて見てることが。

 火星では、わたしは見てることしか出来なかったから。
 地上で、ミカズチ隊長達が死闘を繰り広げているのを、わたしは宇宙から見ていることしか出来なかったんです。

 
あんな思いは、もう二度としたくない!!」



「パープル・ブレードちゃんは止めても、止まりそうにないねぇ。
 ボクたちは、どうする? 親友」

「決まってるだろ。相棒」



「バゼット。君はどうするのさ?」


 ドレッドヘアーの黒人は、ノリにノッて、音楽(自分の世界)にどっぷりと浸っている。



 眉間に指を当てるユウ。

「…………………バゼット!!」


「オウッ!!」

 大画面で表示された副隊長に驚き、眼を丸くしたバゼットは、ヘッドフォンを外した。


「で、バゼットは、どうすんだよ?」


「何がだい?」


「だから、今の話だよ」

「ハハハハ。
 ミュージック、ガンガンで、な〜〜んも聞いてなかったぜ」


「うわっ、ぶっ殺してぇ!!」



「で、どうなったんだ?」




 副隊長から経緯を聞いたバゼットは、口笛を鳴らす。

「まあ。クールにいこうぜ。クールによ。
 ホットはいけねぇよ」


「じゃ、反対か?」


 嗤みを浮かべるバゼット。

「だがよ、ノリってのは大事だぜ。
 オ〜〜ケ〜〜。踊ってやろうじゃねぇか」




「では、私が囮を努めます」


 右手首から先が無くなり、左手の全指が捩げ折れ曲がっている純白の空戦エステバリスを見、副隊長が呆れた笑みを見せる。


「まあまあ。お手て外れちゃった『ホワイト・ヴァルキリー』ちゃんは、そこで見てなよ」


「ホワイト・ヴァルキリー?」


「君の字名さ。ぴったりだろう」

「…………はあ」


「ホワイト・ヴァルキリーさん。
 気を許しちゃ、ダメです。
 そうやって、女性を褒めて付け入るのが、彼の得意技なんですから。

 わたしに『パープル・ブレード』なんて字名を付けたのも彼なんです」

「その字名は決定なんですね」

「良いじゃないか。
 
男は卑しめ蹴墜とすもの、美女は褒めて愛しむもの!!」



「で、その心は?」




 副隊長は、親指を人差し指と中指の間に挟んだ握り拳を掲げる。

()らせて貰えりゃ、チョー・ラッキーッ!!」




「バゼット。録画()ったか?」

「ヘイヘイヘイッ。パーフェクツゥ」


「後で、宇宙軍全部隊に流しておけ」

「大賛成です」


 二人の冷たい視線に、

「ああ〜〜〜っ!!ゴメンナサナイ。ゴメンナサイ。
 嘘です。冗談です。本心じゃありません。


 
だから、流さないでぇ!!」

 コンソールにヘッドバッドしながら、副隊長は涙目で謝っていた。



「ま。そんな、自業自得の自爆なことは、すっきりさっぱり流しまして――」


「流すな!! 僕の人性の性活がかかってるんだ」



「勝算はありませんよ」


 真剣な表情のルリに、副隊長はその童顔に似合わない獰猛凶悪な()みを浮かべる。


勝算? いらね〜よ。そんなもの。

 ボクらに必要なのは、戦う為の大儀だよ。
 どんな言葉で飾ろうが、軍人の本質は戦争屋さ。
 守るべき者が、戦う理由があるのに逃げ出すのは、賢い人間の選択だけど、軍人の資格はないね。

 愚連隊のボクらにも、戦争屋のプライドくらいはあるさ。

 
さ〜〜て、征こうか!! 変態親友の隊長さん」


「同感だ、鬼畜相棒の副隊長」



 4機は奇麗なダイヤモンド陣形を組む。


「きっちりかっちり躍らせてやるぜ」


「ホワイト・ヴァルキリー嬢であんなことやこんな姿など、脳内妄想を爆萌えさせた今の俺に、敵などない。
 
萌えは世界を救う!!」

「…………なんか、イヤ」

「第13愚連隊の名において、締めさせて頂きます」


「ハッハ〜〜!!
 レッツ!! ダンシング!!」



 四機がバッタ群に特攻をかける。


 寸前――――。


 突如、彼らの前にコミュニケ画面が開いた。






 長髪の優男が、キラリと白い歯を光らせる。


「はい。連合軍の諸君、ご苦労様。
 後はボクたちに、任せておいてくれたまえ」




「え?」



 ルリの声に重なるように、幾重もの漆黒の閃光がチューリップを消し飛ばした。




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