テンカワアキトの日記(もしくは一つの終わり方)

注意。

これは意味不明系不条理型クロスオーバー短編SSです。

そして微妙に(infinityの)ネタバレです。

読んだ後に意味が解らなくてもウイルスは送らないで下さい。

批評メールは構いませんが。

 あの、忌々しい戦争が和平という奇跡の幕を閉じ。

 激戦を戦い抜いたナデシコの面々も、今は平和な世界へと溶け込もうとしていた。

 

 しかし、その平和を享受できぬ不幸な男が一人・・・

 

 これは、その男の愛と戦いの話・・・ではなく、ただ心の平和を求めた末の物語である。

3月5日

地球が木連と和平を結び、俺が『漆黒の戦神』と呼ばれて約二年。

それに伴い、日常の事柄を日記に書き記し始めてからも二年。

・・・中身が殆ど女性陣からの逃亡の詳細と言うのは如何なものか。

ちなみに、今日はウリバタケさんから紹介してもらった、逃亡場所の一つ、アキハバラシティのアニメビルの一室に入居。

明日からはそこでバイトで働きながら寝泊りして、彼女らをやり過ごそうと言う計画だ。

ウリバタケさん曰く、「まさかアニメの店で漆黒の戦神が働いてるなんて夢にも思わないだろうしな!」と言っていた。

事前に話が伝わっていたのも、有り難い事だ。メガネの店長さんは、おおらかな人らしく、いい人そうだ。

ネコ耳とウサギ耳の先輩(と言うべきか・・・子供だし)も、快く迎えてくれた。

空飛ぶ風船みたいな黄色の物体と目からビームが激しく気になったところではありますが。

3月12日

――――偶然だった。俺は悪くない、と言いたい。

それは昨日、いつも通りにカウンターでレジ打ちをしているときだった。

珍しく見かける小さな子供が店に入ってきて、俺の運命は死んだ。

「いらっしゃいませ!」

「・・・アキト、何してるの?」

迂闊だった。

よく考えれば、ラピスはアニメマニアだった。

もしかしたらこういう店に寄ることも、考慮すべき事柄だったではないか!

「って、アキト見つけた!早く知らせなきゃ!」

目の前の小さな少女の姿をした悪魔は、俺に着々と第13階段を昇れと強要してくる。

それも間接的に。コミュニケを目の前で使う事で。時折見せる横目の視線を混ぜつつ。

「・・・ジャンプ。」

既に残りのCCも少なく、無駄遣いは出来なかったが、かといって出し惜しみをして捕まるのは本末転倒複雑骨折確実だ。

だから、逃げる事にした。

「あっ!?」

消える直前、いつも目の前でかけられる叫びをかすかに聞きつつ、これからどうしよう、と考えた。

・・・後で電話して、店に謝罪の電話を入れたのは言うまでもない。

と、今日からまた逃亡生活に身をやつす羽目になった。

おやすみ、と。

――――はあ。

4月7日

ここで、現在の確認をしておこう。

そもそも、彼女たちからの執拗なアタックに耐えかね、旅立つ事を決意したのは1年前。

もう、俺は彼女たちに愛想を尽かしていた。

いや、それは正しくないだろう。正確に言うと、彼女たちが見ているのは、俺ではなく、テンカワアキトである何か。

料理が出来て、姿かたちが俺と同じで、戦いが出来て、後何でもかんでも出来るナニカ。

俺は、そんな事は出来ない。そんな人間じゃない。そんな存在じゃない。そんな物じゃない。

だから、おれはいらないんだ。

いかん、つい暗いことを書きたくなってしまう。愚痴はこのくらいにして、と。

旅に出る際、俺には多くの協力者がいた。

アカツキ、ウリバタケさん、ナオさん、ハリ君、ブロス、ディア。

彼らの犠牲を、忘れるわけにはいかない。心に、刻んでおこうと思う。

ウリバタケさんからはじ

トントン。

ふとドアの方からなる軽い打撃音に、書きかけの日記を置いてアキトはドアに向かう。

そもそも今いる場所はシベリアの吹雪が激しい山小屋。近い町まで片道4時間のこんなところに、わざわざ来る客なんて殆どいるはずが

――――いた。俺対象と考えるならば。

彼女たちならば、きっとこんな吹雪なんて物ともせずに捕まえに来るに違いない。

そう判断したアキトは、取って返して机の上の日記を手に取り、今は亡きウリバタケ(勝手に殺すな!)の特製防寒防熱コートを羽織る。

「アキト!ここにいるんでしょ!」

この声はユリカか、と思考の端に捉えながら、アキトは家の裏口に向かう。

どうせ彼女らの事、裏口から出ても多数のエステで待ち伏せをしている事だろう。

以前のスリランカでは同じ手口で裏口から逃げようとした俺に本気で一斉射撃の発砲をしてきた事もある。

だから二の轍は踏まない。裏口のドアから出るのではなく、裏口の近くに隠した隠しの地下通路を通ることにする。

わざと解りやすいように、小屋は小さく、窓はなく、入り口のドアも表と裏しかないように見せかけた。

木の板で出来た床をしばらく指でなぞると、本当に小さな引っ掛かりを捉える。

そのまま力いっぱい横に引くと、ガラガラと重い音を立ててコンクリ壁の穴が姿を現す。

「・・・・・・。」

躊躇いもなくアキトは飛び込むと、裏から再びガラガラと木の扉を閉める。

しばらくは、時間が稼げるはずだ。

そう思いながら、アキトは穴の底から繋がる横穴へと足を進めていった。

4月8日

CCも既に尽きている俺にとって、昨日の作戦は博打のようなものだったが、今日記を書く事が出来ているから一日は時間を稼げている。

まず泊まり家を探してくれたウリバタケさんは、あれからウリバタケさん自体の隠れ家が見つかり、

芋づる式にアカツキ、ナオさんが彼女らに捕まった。

容疑は勿論俺の逃亡幇助である。すまん・・・。

ブロスとディアは真っ先に押さえられ、今は製作者の一人であるイネスさんにプログラムを書き換えられて全世界的に俺を捜索するAIと成り果てている。

ハリ君はルリちゃんに何らかの形で騙され、一番最初に裏切った。

というかアカツキが押さえられたのが一番痛い。

彼がいないとCCが手に入らないし、逃亡資金も既にやばい事になっている。

初めは5億ぐらい貰ったのにな・・・。

12月18日

ふとしたことが日記がかなり飛んでしまった。これも彼女らに捕まりかけたからだ。

どうやったか彼女らはコミュニケの位置から俺の場所を割り出す装置を作ったらしく、隠れ家に一気に詰め込んできた。

それもリョーコちゃん、北斗、ナオさん(何らかの手段で買収された)などなど白兵戦専用の人ばかりで。

彼女らのコンビネーションに加え、ルリちゃんやラピスのサポート、それに公的権力を利用したあぶり出しで、

俺は宇宙に逃げる事も出来ず、地球でひたすら逃亡を繰り返した。

おかげでやっと落ち着ける今はバミューダ海域にいる。

なぜか不思議な力場のせいでレーダーが通じないらしく、有り難く隠れさせてもらっている。

敵に回ったネルガルも此処には容易に近づく事は出来ないらしく、至って平和だ。

PS  逃亡時にタヌキのぬいぐるみを貸してくれた倉成一家には本当に感謝している。

    彼らのおかげで日本を脱出できたようなものだ。

12月25日

久しぶりに、クリスマスを平和に体験している気分になる。こんな気分は、久しぶりだ。

これが、幸せというものだろうか・・・。

――――あれ?

俺は・・・どうしてこんな事をしているんだ?

そもそも、過去に戻ってきたかった理由は、こうやって追いかけられる事だったか?

こうやっておびえながら、過ごすためだったのか?

――――否。

木連と、和平を結ばせるため?

――――それもあるが、二次的な理由じゃないか?

自分の身に降りかかる出来事を、回避したかった?

――――それが一番近いかもしれない。

でも、何かが少し違うと、俺の中の何かが訴える。

――――そうだ。ただ、俺は、

あの屋台を引いて、ユリカとルリちゃんと三人で、

のんびりゆっくり過ごす幸せな生活を、もう一度したかっただけなんだ。

あれだけで、幸せだったんだ。幸せだったじゃないか。

どうしてそんな事を忘れていたんだろう?

どうしてそんな願いを見失っていたんだろう?

どうしてそんな思いを形作らなかったんだろう?

――――どうして、

それをしなかったんだろう?

直後、テンカワアキトはこの世界より消失した。

3月9日

「アキト!早く起きて!」

暖かな布団の中、いきなり降りかかる元妻の声に、俺はまぶたを薄く開く。

「ほら、朝だよ!ラーメン屋さん、また一日頑張ろうね!」

そう言うと、エプロンを着込んだままのユリカは隣の布団へ向かっていく。

「ルリちゃん、お早う。」

「ん・・・。

 ユリカさん、おはようございます。」

ふああとあくびをしつつ、布団から這い出る俺とルリちゃん。

壁の隅っこでかけられているカレンダーには、3月9日の場所に丸が書き込まれ、その前日までが×で埋め込まれていた。

長い事長屋暮らしをしていれば流石に慣れたもので、寝ぼけながらも俺はすぐにエプロン姿に着替え、外に置いてある屋台に向かう。

その反面、なぜか頭の中に残った小さな、しかしどうしても無視できない違和感。引っかかり。

まだ起きたばっかりの回転しきってない脳を無理矢理イメージ中でこねくり回し、油をさして、モーターを突き刺して摩擦の煙が出るほどフル回転させた。

何か、大事な事を忘れている。あまりにも当たり前すぎて、見過ごされるような事が。

「って、ラーメン屋だってえええええっ!?」

「どうしたんですか、アキトさん?」

「前からずっと、3人で屋台を引いてきたじゃない。」

「あ・・・そうだった・・・かな・・・。」

何となく釈然としないものを感じながらも、屋台にラーメンの材料を積み込み、ルリちゃんにラッパを渡す。

「さあ、今日も出発だよ!」

「よし、行くか!」

「はい。」

一日歩いたが、来た客はナデシコ長屋に住んでいた元クルーや知り合いを除けば、たった一人。

それも、桃色のショートヘアーをした、見た目小学生くらいの少女だけだった。

確かに、客は殆ど来てくれはせず、日がな屋台を引くだけだったが、今まで縁が遠かった日々の安らぎを久々に味わえた。

ナデシコクルーのみんなも、昔の木連との和平直後の姿だった。

そう、俺はかつての幸せな時に戻ってきたのだ。

しかし、まだ引っかかる事がある。

確かに強く望んだとはいえ、こうも都合よく昔に、しかも精神だけジャンプすることがありうるのだろうか?

いや、過去に戻った事のある俺が言えることではないのだが。

現に、試しに昂氣を使おうとしたが、昔の体のためか使えなかった。

それだけではない。

あの時、俺はジャンプフィールド発生装置も、ましてやCCを一個たりとも持ってはいなかったのだ。

そこから俺が考える事は二つ。

一つは、俺がいつの間にか、CCを用いることなくジャンプできる体になっていたか。

――――却下。この説は思いついた一秒後に否定した。

そんな体なら、時々昔のことを思い浮かべるだけでナノマシンが光っている事になる。

・・・それは理由にならないか。

二つ目は、もしかして何か特殊な現象が、俺を巻き込んだ結果か。

――――却下、とは言わないが保留。

特別なんて縁のない一般人たる俺には、そんなものとは無縁のはずだ。

まあ、ブツブツ考えていても仕方がない。明日も早いのだ。早く寝る事にする。

3月9日

・・・・・・おかしい。かといって、今日一日の中身がおかしいのではない。

まあ、客は昨日と同様、元ナデシコクルーと少女一人と、少ない。

閑話休題。

それから、この日記の日付が間違っているのでもない。

俺も朝ユリカから聞いたときは激しくおかしいと訴えたが、テレビニュースやラジオ、新聞を見て認めざるを得なかった。

――――俺は、二日目の「3月9日」を繰り返している――――

(中略)

3月9日

いまだ自分も信じたくはないが、俺はもう1週間以上も3月9日を繰り返していた。

3日目までは信じたくはなかったが、4日目には疑惑が巻き起こり、5日目にはほぼ確信せざるを得なくなっている。

それは幾つかの証拠がきっかけだった。

屋台から減らない材料に、増えない金。

内容の変わらないテレビ、ラジオ、新聞。

同じ時間に同じセリフ、同じ格好で訪れる代わり映えのしない客たち。

みんなに聞いてみても、何を言ってるの?と言う表情しかしない。

――――ワカラナイ。

何故俺達は、同じ時を繰り返しているのか。

俺だけなら、昔の罪か何かとか言う理由でこうなってると言われると理解できる。

だが、他のクルーまで、何故巻き込まれなきゃならないんだ!

今日もこれから寝るが、また同じ時を過ごすだろうことは容易に想像できる。

段々と、自分が、壊れて、行くような、気がして。

3月9日

もう、一ヶ月。

段々と心をすり減らし、思考をパターン化し、体を機械同然とさせて俺は動く。

動いていなければ、本当にオレ自身が壊れてしまう気がして。

そこには意思も思いも願望もなく、ただ決まった事を処理する、終わりの見えないルーチンワーク。

だから、いきなり聞かれたときは驚いた。

「アキたんは、いつまでこの時間を望むの?」

それは、クルー以外の唯一の客。多分日本人の、少女。

思わず、俺は勢いよくカウンターから身を乗り出す。

「何か、この現象の事を知ってるのか!?」

少女は首を縦に振り、真実らしきものを語り始めた。

「ここは、妄想の世界なの。

 強い願いが生み出した、虚構の空間。」

「妄想の・・・世界・・・?」

「21世紀前半にも、同じような事があったの。

 妄想を世界に強く広げて、それがどんな結果を引き起こすか確かめる実験。」

何の事かは解らなかったが、俺は黙って耳を傾け続けた。質問したくても、あまりにも問題が意味不明すぎて考えが纏まらなかったが。

「そこで、ある人は大事な人を失うの。

 だから、強く望む。その人が、生きている世界を。」

「詳しい事は省略するけど、結果は、一つの世界が創り上げられたの。

 本人にとって、とても都合のいい世界を、その人が無意識の内に。

 創り出した人は、タイムスリップだと思い込んでる。過去に戻って、歴史を変えることが出来たんだって。」

「じゃあ、俺も・・・!?この世界も・・・!?」

「アキたんの思い込みが創り出した世界だよ。」

「アキたんは気づいてないかもしれないけど、アキたんは昔の自分に罪悪感を感じてるから、

 その原因を起こさないように、戻ってやり直したいと強く願ったの。

 その思いはまだ残ってるから、例え平和になってもアキたんは自分が罪深いと思って、自分は生きている価値がないと思って、

 戦いが終わったあとでもみんなに出来るだけ会いたくないから逃げたかった。」

彼女の言う事は全く言い返せず、次々とわが身に突き刺さる。

相手は、自分のことを何も知らない他人だと言うのに、そう反論させる事も出来ない何かを持っていた。

何故こうも、自分でも考えたくない事を突きつけられるのが痛いのか――――

「生きてる価値がないなんて、そんな事はないの。

 確かに人間は、他の生き物を殺さなきゃ生きていけない生き物だよ。

 だけど、生きてる事自体が奇跡なんだよ。

 命はこの世の中で一番大切なもの。偶然の中から生まれた奇跡なんだよ!

 生きてる価値がないなんて、思う必要はないの!」

少女は指を1本ピンと立て、太陽のように明るい笑顔を見せる。

が、急に申し訳なさげな物に変わるが。

「一部、つぐみんとたけぴょんの受け売りだけどね。」

――――受け売りでも、関係なかった。

言葉の槍は、俺の心のウイークポイントを抉り続ける。

「アキたんは、この時間が何かおかしいって感じてる。

 けど、幸せな思い出のときにいたいって言う心が、否定の気持ちとせめぎあってる。」

ふと周りを見ると、街街の姿は消え去り、太陽はなく、後ろにいたはずのユリカやルリちゃんもいなくなっていた。

白一色の空間に存在するのは、俺と屋台、そして謎の少女のみ。

「同じ事言うけど、アキたんは、自分のしたことが悪い事って感じてる。

 だから、逃げたかった。

 過去でも未来でもどこでもいい、罪を知ってる人のいない場所へ。」

「ココは、そんなアキたんでも、大丈夫だと思うよ。

 逃げる必要なんか、ないんだよ。

 アキたんはたくさん人を殺しちゃったけど、その裏で、殺されるはずだった人を一人でも守れたんだから。」

ココと自らを呼んだ少女は、真面目になりきれない真面目な表情で、懺悔の人をいたわるように続ける。

「アキたんは幸せだね。周りのみんな、アキたんの事を気にかけてくれてる。」

「・・・そうか?」

「そうだよ。

 アキたんは、それは嫌なの?」

「話が、外れちゃったね。

 ――――アキたんは、どうしたいの?」

そうか、俺は――――

そうだ、俺は――――


なかがき

もう話がむちゃくちゃになっています。

自分で何がしたかったのかも分かりません。

選択肢もその後もよく解らなくなりました。

今後の反省です。

ちなみに太字が日記内です。