「ウリバタケ、さっきのパイロットは?」
『お!レンちゃんにルリルリ、テンカワの奴なら出撃した機体の中。なんか色々注文してきて今ちょっと忙しいんだ』
「ふ〜ん、早速専用機にする気かな?」
『まぁ、カスタム機は未だ実験機みたいなもんだ。色々と粗もあるしな』
「言ってることは的確?」
『おお、結構参考になる。相当乗りなれてるな、ありゃ。コミュニケ出そうか?』
「いや、もう直ぐそっち着く」
『わかった。待ってるぜ』
コミュニケが閉じる。
廊下を格納庫に向かいながら、一応目的の人物がいるか確認を入れるレン。
となりには不安と期待の入り混じった表情をしたルリがいる。
「ねぇ、ルリ。テンカワ・アキトと知り合いなの?」
「え、ええ。まぁ、ちょっとした知り合いといいますか・・・・・・」
ちょっとした知り合いに会いに行くには随分と複雑な顔をしている。
ルリにも色々あるらしい。そして、その対象、テンカワ・アキトにも改めて興味が湧いた。
NADESICO |
「みんな、おつかれ」
「お疲れ様です」
二人が格納庫につくと、出撃が無く簡単なチェックだけだったジェステシアとビラカンサが奥へと運び込まれる。
一方エステは一通りのチェックは終わり、今度は調整に入るようだ。
濃いピンクの機体より少し離れたところ
ウリバタケと若い、十代後半程度の少年がいる。
「ウリバタケ・・・・・と、テンカワ・アキト」
「お、ようやく来たかい」
声をかけると、二人がこちらに向く。
ウリバタケは色々とカスタムエステを弄れそうで喜んでいる。
一方、アキトはレンの顔を見るなり目を見開き、体を震わせ
「黒天使・・・・・・」
「ん?」
呟いた言葉は、聞いたことがある。
レンは立ち止まり、もう一度アキトの全身像等確認する。
「じゃ、俺はこいつの調整があるから」
ウリバタケはそれだけ言うと離れていく。
「テンカワ・アキトさんですね」
その間も、ルリはアキトに近づく。
「あ、ああ」
「見事な操縦でした。ブラック・サレナとくらべてどうでした?物足りませんか?」
「ブラック・サレナ?知らないけど・・・」
離れたところからこちらを観察するレンを気にしつつも、アキトは答えた。
微かにルリの肩が震える。
「・・・・・・そうですか・・・・・・、あの、どこかでお会いしたことありませんか?」
「・・・・・・いや、覚えが無いけど。ごめん、人の顔は忘れないほうなんだけどね」
「いえ、どうやら私の勘違いのようです」
瑠璃色の髪の少女は一度、深く溜息をついた。
「すみませんでした」
「いや、気にしてないよ。ええと、」
「あ、自己紹介、まだでしたね。私、ホシノ・ルリといいます」
「ルリちゃんか、俺はテンカワ・アキト、よろしくね」
「ええ、よろしく」
表面だけの微笑みを浮かべ、ルリは会釈をした。
アキトもまた、注意のほとんどがレンに向いているので上の空だ。
「ルリ、知り合いじゃなかった?」
「・・・ええ、まぁ」
「あんまり気落ちしないで・・・」
レンはルリとアキトに近づいていく。
すると、アキトはまた、あからさまに怯え、後ずさりする。
「随分と怖がる。それで・・・・・・」
ほんの少し、琥珀色の瞳が細められた。
「クリムゾンの諜報員、ナデシコに何しに来た?」
「え?」
レンの言葉に目に見えて気落ちしていたルリが驚き呟いたその時
「う、動くな!」
アキトは左手でルリを抱きかかえ、どこからか取り出したナイフをその首に突きつけ叫んだ。
「お、おい!」
「あれ、ルリルリとテンカワだよな・・・」
「な、何してるんだよ」
エステの調整に取り掛かっていたウリバタケ以下整備班の面々が騒ぎ出す。
「あ、アキ・・・・・・テンカワさん?」
「動かないで、傷つきたくなかったら!」
ルリは信じられないといた様子で自分の首にナイフを突きつけている少年を見ようとしが、アキトの鋭い声に身を竦ませる。
「・・・・・・『黒天使』なんて言うからカマをかけたんだけど、まさか本物とはね」
「・・・妙な動きを見せるなよ。この子が大事なら」
「まぁ、大事だけど」
「おい!ウリバタケ班長、エステをもう一度用意してもらうぞ」
「て、てめぇ!ルリルリを離しやがれ!」
「黙ってやれ!」
アキトは相変わらず怯えながらも、レンを警戒し、ゆっくりとエステのほうに後ずさる。
一瞬、エステを確認するためレンから眼を逸らした。
その時、風が鳴った。
「ぐぅ!」
アキトの右肩に激痛が走る。
うめくアキト
そして目の前には一瞬で詰め寄ったレンがいる。
「くそ、ぎゃっ!」
次の瞬間にはあっさりナイフを持つほうの手をとられルリから遠ざけられ、金的を蹴飛ばされる。
ルリはレンが引き寄せ、アキトは崩れ落ちた。
止めとばかりにレンは延髄を蹴飛ばした。
気絶するアキト
かなり加減しているので折れなかったが、首を痛めることは確実だろう。
右肩にナイフが刺さっていた。
レンの投げた、柄まで全て合金製の投げナイフである。
「ルリ、大丈夫?」
「は、はい・・・・・・」
未だショックの覚めやらぬルリは呆然としている。
「さて、こいつどうしよ?」
どうやらナデシコは厄介者を拾ったらしい。
レンは珍しく眉を顰める。
未だ刺さったままのナイフが鈍く光った。
『・・・そうですか、テンカワさんがルリさんを・・・』
「うん、どうもクリムゾン関係の諜報員みたい。ちなみにけが人無し。彼以外」
身動きできず、縄抜けも出来ないよう念を入れて縛り上げられたアキトを見ながらレンは答えた。
簡単にチェックしたが外傷は肩のみだ。
右肩の傷はルリが応急処置を施し、血も止まっている。
『では彼を一室に監禁し、尋問ということで』
「いや、私がやる。二時間ぐらいかかる。あとバーチャル・ルーム開けといて。使うから」
『・・・・・・・・・わかりました』
コミュニケの向こうでプロスはしばし躊躇いつつ答えた。
「今度のことには緘口令をしく。ブリッジの面々は?」
『気付いていません。話を聞いたのは私だけです』
「ゴートには伝えといて。あと、ルリの迎えにミナト寄越して」
『わかりました。それだけですか?』
「終わってもルリの側いるから、しばらくブリッジ空けるね。その間艦長たちよく見といて」
『仕事を与え、観察しろと?』
「うん、よろしく」
コミュニケを閉じ、レンは側にいたルリに向き直った。
「大丈夫?」
「・・・・・・・・・・ええ」
ショックが大きかったのか、ルリは青ざめた顔で頷く。
それ以上に、一人はぐれてしまった迷子のような表情が気になる。
「もうすぐ、ミナトが迎えに来るから。それまでは私もいるし」
「いえ、大丈夫です。姉さんはお仕事してください」
とても悲しい瞳でアキトを見つめながらも、ルリは答える。
「そう?じゃぁ、ウリバタケ」
「おう」
「整備班にも今回のこと、黙っているよう徹底させて」
「わかったが…。こいつ、どうする?」
忌々しげにアキトを見ながらウリバタケは聞く。
「教育、あとは出来次第」
「教育?」
「そ、」
ウリバタケは怪訝に思い聞き返すがレンは特に答えない。
「じゃ、ウリバタケカート貸して。これ運ぶから」
「わかった」
「ルリ、ホントに大丈夫?」
「え、ええ」
勤めて冷静を装いルリが答えたルリ。
迎えに来たミナトにまで待ったレンは斥力で僅かに浮かぶカートにアキトを乗せ、
「じゃぁ、部屋で待ってて。あとで一緒にお話しよ。ミナト、後よろしく」
「わかりました」
バーチャルルームに向かった。