彼の鎖が増えたわけ    第4話前編

俺の目の前では・・・。

 ジュンとユリカが、過去と同じ会話をしている。



「そうだよね!! ジュン君はユリカの一番大事な友達だもの!!」



 ユリカの宣言に固まるジュン。

 ジュン・・・お前は、ずっとこんな会話をして育ってきたんだよな。

 さすがに同情をしてしまうな。



「ユ、ユリカ・・・そうじゃ無くて。」



「心中お察ししますよ。」



「・・・まあ人生先は長いんだし。」



  「今後の活躍を期待する。」



  「負けずに頑張って下さいね。」



   上からジュン、プロスさん、ミナトさん、ゴートさん、メグミちゃんだ。

 以上が、ジュンのナデシコ入隊歓迎式だったそうだ。

         

「これがジュンの歓迎式?」



「そうですよアキトさん。」



 俺が前回の戦闘の疲れで眠ってから、一日が経つ。

 その間に起こった事を、ルリちゃんに聞くと・・・

 先程のジュンの映像と、ビッグ・バリア突破の瞬間の映像を見せてくれた。



「変化と言えば、俺とガイがその場に居ない事ぐらいか。」

「そうですね・・・それと、ラピスからのデータ受信は終りました。」



「オモイカネ単独で出来そうかな?」



 例の設計図の事か。



「不可能では無いと思います。

 それと、例のプロジェクトの進行率は20%に進みました。」

「へえ、随分と進んだね。資金の方は順次渡していくけど何か聞きたいことは?」

「いえ、ありません。」

「そうかい・・・さて、ここからが正念場だな。」

 俺達はブリッジへと辿り着いた。

 プロスさんがお呼びらしい・・・

 用件に想像はつくが・・・さて、何処まで誤魔化せるかな?



「では、私は傍観させてもらいますね。」

「・・・助けてはくれないんだ。」



「私、少女ですから。」



 微笑んでそう言うルリちゃんに続いて、俺はブリッジに入った。

「さてさて・・・テンカワさんの戦闘記録を今先程、ブリッジ全員で拝見させてもらいましたが。」



 プロスさんがそう切り出し。



「正直言って、信じられん程の腕前だ。」



 ゴートさんが代表で褒めてくれた。



「やっぱりアキトは私の王子様だから!!」



 ユリカ・・・他に台詞を知らないのかお前は?

 過去でも、同じ台詞しか聞いた覚えが無いぞ。



 しかし、そんな騒がしいユリカをプロスさんが一言で黙らせる。



「艦長は黙っていて下さい。」



「・・・はい。」



 ・・・お前の艦長って役職は一体なんなんだ、ユリカ?

 しかし、かなり気合が入ってるなプロスさんにゴートさん。

「しかし・・・何故です?

 これ程の腕前を持ちながら、今までテンカワさんが軍に所属していた記録は無い。

 はっきり言えば、テンカワさんの実力を持ってすれば・・・」



 眼鏡を怪しく光らせながら、俺を睨むプロスさん。



「装備が揃えば・・・コロニーでさえ単独で落せる。

 ましてやナデシコを落す事も可能だ、と言う事だ。」



 ほう、ゴートさんとプロスさんの裏の顔が垣間見えたな・・

 しかし、コロニーを引き合いに出されるとは。

 過去の罪を忘れた訳では無いが。



 俺は自分の罪を再認識した・・・



「俺は・・・両親にその手の教育を受けたんですよ。

 両親は何かに怯えていました。

 そして、自分の身は自分で守れる様に、と。

 火星のある場所に、俺専用のトレーニング機を作ってました。

 でも、俺は両親の言う事なんて信じてなかった。」



 ・・・ちょっと苦しいか?

 ユリカは・・・涙目で頷いてるな。

 でも判断基準にはなら無いよな・・・

 ルリちゃん・・・肩が笑ってるよ。



 もうヤケクソだな、これは。



「だけど、両親がテロで殺されて、その話を信じる事にしました。

 俺は火星にいる間は、そのトレーニング機で練習をしてたんです。」

 

 どうだ?

 ・・・ルリちゃん、呆れた顔をして俺を見ないでくれ。

 これでもベットの上で、必死に考えたんだからさ。

  「・・・確かに、テンカワ夫妻なら可能な事かもしれませんな。」

  「プロスさん!!

 アキトの御両親をご存知なんですか?」

   お前が俺より先に反応するなよ、ユリカ・・・俺の台詞が無いじゃないか。

  「ええ、テンカワ夫妻は高名な科学者でしたからね。

 ・・・それが、テロなどでお亡くなりになるとは。」

   お、ブリッジはルリちゃんを除いて同情ムードだな。

 後は押しの一手でもって・・・

  「俺も最初は信じられませんでした・・・

 でも、あのトレーニング機だけが両親の形見だったから。

 俺、一生懸命練習したんです。」

 

 嘘泣きも付けた。

 このまま同情を誘って・・・一気に話を誤魔化そう!!

 

 ・・・だからルリちゃん、俺にはその視線が痛いよ。

  「では、テンカワさんはエースパイロットとしても働ける、という事ですな。」

  「え、ええ、まあそう言う事になりますね。」

  「丁度良かった。

 ヤマダさんがあの状態ですからね・・・パイロットが不足していたんですよ。

 ではこの契約書にサインを・・・」

 

 何故か嬉しそうに、懐から契約書を出すプロスさん。

 その笑顔が怖いです・・・

 

 これは・・・墓穴を掘った、かな?

 

 俺は結局、正式にエステバリスのパイロットとなり・・・

 過去と同様に、コックとパイロットを兼任する事となった。

ルリちゃんが当直のブリッジに、俺は訪れた。

  「ルリちゃん・・・」

  「何ですかアキトさん?」

  「どの位の距離まで行けば、サツキミドリにハッキング出来るかな?」

   もう直ぐナデシコはサツキミドリに着く・・・

 それまでにやっておきたい事がある。

 

 戦艦相手では、幾らルリちゃんでもナデシコC並みの装備が必要だが。

 サツキミドリクラスの制御コンピュータなら、今のルリちゃんなら自力でハッキング出来るだろう。

 

「ギリギリの通信範囲からですね、ナデシコCでしたらかなりの距離から出来ますが。

 ・・・でも、サツキミドリをハッキングしてどうするんですか?」

 

 不思議そうに、俺に質問をするルリちゃん。

 そうか、通信距離が足りないのか・・・それは残念。

 

  「・・・じゃあ、サツキミドリのエマージェンシーコールを鳴らすウィルスを、作れないかな?」

 

 俺の言葉を聞いてルリちゃんの表情が驚きに変わる。

 どうやら俺の意図に、気が付いたみたいだ。

 

「それは、また・・・大胆な作戦ですね。

 とても先程の嘘を考えた同一人物とは思えません。」

 

 褒められてるの、かな?

 

「まあ、要するにサツキミドリから乗組員が脱出すればいいんだ。

 で、ウィルスは出来そうかな?」

 

「ええ、この手の悪戯はよくハーリー君とやりましたから。」

 

 クスクスと笑いながら、そう答えるルリちゃん。

 聞かなかったことにしよう。

「お陰でラピスの実力が良く解りました。」

 

 ・・・婉曲な解答を有難う、ルリちゃん。

「では、早速サツキミドリに仕掛けをしておきます。」

「ああ、頼むよ・・・俺はトレーニングルームに行って来る。

 やっぱり訓練は欠かさずにやらないとうまいこと体が動かないんでね。」

「そうですか?

 ・・・あの時のテンカワさんは、身体を鍛えてられましたからね。」

  「そう言う事。

 今は記憶の通りに動けるように、ちゃんとトレーニングをしておかないとな。」

 

「頑張って下さいね。」

「ああ。」

 

 ルリちゃんの声援に送られながら、俺はブリッジを出た。

 

  その後、エマージェンシーコールにより緊急避難するサツキミドリの人達と、ナデシコはすれ違った。

 後日、このエマージェンシーコールは木星蜥蜴の奇襲によるものと判断された。

 

「・・・確信犯。」

 

「それは秘密だよ、ルリちゃん。」  

 近頃ルリちゃんの突っ込みが厳しいのは、俺の気のせいだろうか?

   

 

 
「はじめまして!! 新人パイロットのアマノ ヒカルで〜す!!」

 

 

「おおおおおおお!!!」 (メカニック達の魂の叫び)

 

 

「18才、独身、女、好きな物は、ピザのはしの硬くなった所と、両口屋の千なり。

 後、山本屋の味噌煮込みで〜す!!」

 

 

「おおおおおおお!!!」 (メカニック達の血の叫び)

 

 

 ・・・前回と違いヒカルちゃんとリョーコちゃん、それにイズミさんは無事に合流出来た。

 と、言ってもサツキミドリからの避難組から、彼女達を引き取っただけだが。

 自分の機体は、それぞれ避難時に持ち出したらしいのだが・・・

 それでもエステバリスの0Gフレームが、一台残ってるらしい。

 はあ・・・結局取りに行くんだろうな。

 

「よお、俺の名前はスバル リョーコ 18才、パイロットだ。

 これからよろしく。」

 

 

「うおおおおおおお!!!」 (メカニック達の熱き叫び)

 

 

「特技は居合抜きと射撃。

 好きな物はオニギリ、嫌いな物は鶏の皮、以上。」

 

 

「うおおおおらららららら!!!」 (メカニック達・・・狂う)

 

 

「愛想が悪いよリョーコちゃん。」

 

「けっ!! 自己紹介に愛想なんかいるか!!」

 

「じゃあ私が代りに、色々とリョーコちゃんの秘密を喋っちゃおっと!!」

 

「何だとヒカル!! てめー勝手な事するなよな!!」

 

 ・・・相変らず仲がいいんだなリョーコちゃん、ヒカルちゃん。

 次はイズミさんだがたぶん今回も・・・・

 

 

 ベベベンン・・・


「こんにちわ〜〜」

「こんにちわ。」

「どうも、新人パイロットのマキ イズミです。」

 

 

「うおおお・・・・???」 (メカニック達正気に戻る)

 

 

「ふふふふふふ・・・ヒカルとリョーコ・・・二人揃って・・・」

 

 

「・・・・・・・」 (全員凍結)

 
ふっ、やってて良かったよ耳栓。


周りを見渡すと、イズミさんが楽しげにウクレレを鳴らしているが・・・

 

 あ、ユリカとジュンも凍ってる。

 

「イズミさんの話を聞いていた乗組員全員が、意識不明です。

 ・・・どうしますかアキトさん?」

 

 一人平気な顔で俺に話しかけるルリちゃん。

 

結局、ナデシコが通常勤務に戻るまで一時間もかかった・・・

 よく、木星の無人兵器に攻撃されなかったものだ。

その後・・・俺達主要なメンバーはブリッジに集まっていた。

 今後の作戦を話し合う為であるのだ、が・・・

 

「ねえねえ!! この船に乗ってる二人のパイロットって誰なんですか?」

 

 元気よくヒカルちゃんが、ユリカに質問をしている。

 

「え〜と、一人は名誉の負傷の為に入院中です。

 もう一人は・・・」

 

 俺の方を向いて、笑顔でヒカルちゃん達に紹介をするユリカ。

 名誉の負傷・・・

 ガイ、お前の名誉は守られた様だ。

 

「ナデシコの誇るエースパイロットのテンカワ アキトです!!

 そして私の王(モガッ!!)」

 

「・・・艦長、今はそんな事を言ってる場合ではないでしょう?

 サツキミドリに残された、0Gフレームの回収の話しを先決させて下さい。」

 

 ミナトさんに口を押さえられ、目を白黒させながら頷くユリカ。

 ・・・成長しないな、お前は。

 

「御免ね〜艦長、プロスさんって怒ると恐いんだもん。」

 

「・・・で、結局は回収に向かうんだろ?」

 

「ええ、それは是非ともお願いしますよ。」

 

 結局はテスト飛行を兼ねて、パイロット全員で回収に行く事になった。

 だが、結局リョーコちゃんとプロスさんとで、話しを決めてしまったな。

 ・・・ユリカ、お前って一体?

 

「クスン・・・ルリちゃん、皆が私を苛めるの・・・」

 

「私、少女ですから。」

 

 ・・・意味不明な会話をしてるな、二人して。

そしてサツキミドリに向かう俺達・・・ガイは勿論ベットの上。

 途中でリョーコちゃんから通信が入った。

 

 

 ピッ!!

 

 

『お前、テンカワ・・・って言う名前だったっけ?』

 

「ああ、そうだよリョーコちゃん。」

 

『けっ!! なれなれしい奴だな、会ってから二時間でもう呼び捨てかよ!!』

 

 う〜ん、相変らず気性が荒いな。

 

「気に障るんだったらスバルさん、って呼ぶよ。」

 

『・・・リョーコでいい。

 一応パイロット同士で仲間だからな、他人行儀は苦手だしな。』

 

「了解。」

 

 

 ピッ!!

 

 

『じゃあ私もヒカル、でいいからねアキト君!!』

 

 突然ヒカルちゃんも通信に割り込んで来た。

 

「はいはい、了解しました。」

 

『・・・リョーコ、テンカワ君に何が言いたかったの?』

 

 ・・・相変らず心臓に悪い登場をする人だな、イズミさんは。

 しかし、通信ウィンドウの開く音がしなかったぞ?

 もしかして、自分でキャンセルをしているのか?

 

『そうそう!! テンカワ、お前本当に凄腕のパイロットだな!!

 地球圏脱出の戦闘記録見せてもらったぜ!!』

 

『そうだよね〜、とても人間業とは思えない腕前よね。』

 

『・・・同感。』

 

「褒めても・・・何も出てこないよ。

 あ、サツキミドリが見えてきたな。」

 

 俺はその話題を避けるため、任務に三人の意識を戻した。

 

『よっし!! 俺が先頭で案内するからな!!

 後続はしっかりと警戒しながらついて来いよな!!』

 

 

 

 

 

 

 

『デビルエステバリスだー!!!』

 

 なんだか・・・安直なネーミングだな、ヒカルちゃんそれって。

 

 

 ヒュン!! ヒュン!!

 

 

 中々の素早さで、デビルエステバリス(ヒカルちゃん命名)がコロニー内を飛び回る。

 

『くそっ!! 何て速さで動くんだよ!!』

 

『見かけは重そうなくせに!!』

 

ふむ・・・過去では俺はこの時外で遊んでたな、確か。

 ・・・エステバリスに遊ばれていた、というのが正しいが。

 しかし、何時までも遊んでる訳にはいかないな。

 取り敢えずライフルで狙って・・・

 

 こいつのパターンは、俺には既に読めている。

 

「そこか。」

ドン!!

 

 

 エステバリスを操っている無人兵器を、エステバリスの頭部ごと打ち抜く・・・

 ちょっとした隠し芸を披露した気分だな。

 

『・・・うそ?』

 

『一発で・・・終りかよ。』

 

『信じられない腕前ね。』

 

 三者三様の褒め言葉を貰いながら、俺達はナデシコに帰艦した。

 

 

 

 

「ふう・・・」

 

 ナデシコの格納庫に帰還をし、一息つく。

 その時・・・

 

 

 ピッ!!

 

 

『お帰りなさいアキトさん・・・

 もう手加減無用で倒されてますが、それでいいのですか?』

 

 ルリちゃんから通信が入った。

 

「ん? ああ、戦闘記録を見たんだね。

 ・・・どうせ素性は疑われているんだからな。

 せいぜい、役に立つ所を見せておかないとね。」

 

 プロスさんや、ゴートさんが俺の嘘に気が付かないはずは無い。

 あの嘘で騙せるのは、ユリカくらいだろう。

『・・・そうなんですか。

 私はリョーコさん達に、自分の実力をアピールされているのかと思ってました。』

 

 ど、どうしてそうなるかな?

 

「・・・もしかしてルリちゃん、戦闘前の会話も聞いてた?」

 

『ええ、艦長と一緒に。』

 

「・・・ああ、それでか。」

 

 俺はエステバリスの格納庫に向って、走ってくるユリカの姿を確認した。

 ・・・過去ではメグミちゃんが優しく迎えてくれたんだけどな。

 

『後で私も行きますからね。』

 

「俺は別に悪い事は、何もしてないじゃないか。」

 

『そんな事を言ってるから・・・過去と同じ状況になるんです!!』

 

 珍しく声を荒げるルリちゃん。

 何が言いたいんだろう?

 

『もう!! 知りませんからね!! アキトさんの馬鹿!!』

 

 

 ピッ!!

 

 

 そこでルリちゃんの通信は途絶えた・・・

 後には頭を捻ってる俺と。

 エステバリスの外で待ち構えている、ユリカがいた。

 





















 

 

「さて、と・・・」

 

 俺は一足先に出撃をし、雑魚共の掃除をしていた。

 リョーコちゃん達やガイを待つ間の、時間つぶしだ。

 ・・・別に一人で突撃をしても、無傷で帰ってくる自信はある。

 だが、ガイもそうだが皆とのチームワークを、無用に乱す必要は無いだろう。

 

「おーい、テンカワー!!」

 

「お待ちどう様〜〜♪」

 

「ふふふふ、やっぱり無事だったようね・・・」

 

 おや、リョーコちゃん達が先に着いたか・・・

 ガイはどうしたんだ?

 真っ先に突っ込んで来ると、予想していたんだがな。

 

「リョーコちゃん、ガイはどうしてた?」

 

 俺は取り敢えず、リョーコちゃんにガイの行方を訪ねた。

 

「ガイ・・・誰だそりゃ?」

 

 頭を捻ってるリョーコちゃん。

 まてよ? そう言えば・・・

 

「ほらリョーコ!! 格納庫にいた男の人!!

 確か自分はダイゴウジ ガイだ!! って叫んでなかった?」

 

 ・・・リョーコちゃん達とガイは、面識が無かった、な。

 ガイは先日まで、入院状態だったからな。

 

「・・・ああ、あの謎の熱血男。

 確かエステバリスに乗り込もうとしてるから、三人でフクロにしたのよね。」

・・・それは、酷い。

帰艦後、ガイが一週間入院をするほどの怪我をした事を、俺はルリちゃんから聞いた・・・




 そして戦艦ナデシコの、初めての本格的な戦闘が始まった・・・

 

「おらっ!!」

 

 リョーコちゃんの一撃で牽制をし・・・

 

「ヒカル!!」

 

「お任せ!!」

 

 ディストーション・フィールドを全身に纏った、ヒカルちゃんのエステバリスが敵を一気に殲滅する。

 

「おらおら!! 次ぎ行くぞ、次ぎ!!」

 

「お〜!!」

 

「・・・くくく、殺して上げる。」

 

 ・・・元気なのは良い事だ。

 でも、イズミさんが何だか恐いよ。

 さてと、雑魚はリョーコちゃん達に任せておいて。

 

「ルリちゃん、敵の戦艦は幾つ?」

 

『戦艦タイプは3隻を確認しています。

 後は、護衛艦タイプが30隻ですね。』

 

 ルリちゃんから、素早い返答が返って来る。

 レスポンスがいいね、相変わらず。

 

「ナデシコのディストーション・フィールドが、この敵戦艦の集中攻撃に耐えられるのは・・・

 後、10分ってところですか?

 フィールドを張るのに全力をかけてますから、グラビティ・ブラストの援護射撃はありません。

 でも、アキトさんには余裕ですよね?

 では、お任せしますアキトさん。」

 

 全然焦った様子も見せず、俺に微笑みながら現状を報告するルリちゃん。

 ・・・後ろのブリッジは、何だか騒がしいのだが。

 

「了解!! 5分で全戦艦を殲滅する!!」

 

 ・・・信頼されてるからな。

 今は、その信頼に応えないとな。

 

「リョーコちゃん!! ヒカルちゃん!! イズミさん!!

 サポート頼みます!!」

「おう!!雑魚は任せとけ!!」

 

「派手にやっちゃってね!!」

 

「・・・宇宙に華を咲かせてね。」

 

 ・・・イズミさん、それ意味を間違えたら恐いよ。

 

「では!! 行って来る!!」

 

 

 ゴゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウ!!!

 

 

 俺はエステバリスのスラスターを全開にし、手にはイミディエット・ナイフを持って突進する。

 敵戦艦からの主砲の攻撃を、ギリギリで避け・・・

 護衛艦や、バッタ達のミサイルの一斉攻撃を素早く潜り抜け・・・

 時には、ディストーション・フィールドの一撃で雑魚共を殲滅する・・・

 

遂に、一隻目の戦艦に突撃をする!!

 慌ててフィールドを強化している様だが・・・遅い!! 

 

 

 ドシュ!!

 

 

 ・・・ドゴゴゴゴゴォォォォォォォンンン!!

 

 

 俺の一撃にエンジン部分を破壊され、沈む戦艦。

 現在、ルリちゃんとの通信から3分がたっていた・・・

 

 

 

 

 

「まさか!! 本当に5分で終らせるつもりですかテンカワさんは!!」 (プロス)

 

「プロスさん・・・アキトさんの実力はまだまだ、こんな物じゃ無いですよ。」 (ルリ)

 

「そうだよね、アキトは、アキトは私の王子様だもん!!」 (ユリカ)

 

「しかし、信じられん・・・いや、異様な程の戦闘能力だな。」 (ゴート)

 

「良いじゃない? 味方なんだからさ。」 (ミナト)

 

「・・・では、もしテンカワが敵にまわるとしたら?」 (ジュン)

 

「それは無いですよ。」 (メグミ)

 

「何故、そんな事を断言出来る?」 (フクベ)

 

「「「ナデシコには私がいますからね。」」」 (ユリカ、ルリ、メグミ)

 

「はいはい、ご馳走様。」 (ミナト)

 

「「「・・・」」」 (プロス、ゴート、フクベ)

 

 ブリッジでこの話しがされている間に、俺は二隻目の戦艦を撃沈した。

 現在の時刻・・・通信後から4分。

 

 

 

 

 

「ラスト!! 沈めれる、な?」

 

 俺の攻撃を予想していたのか、最後の戦艦はフィールドの強化を終らせ。

 自分はナデシコへの攻撃を止め。

 護衛艦とバッタ、ジョロに俺への攻撃を集中させていた。

 

 どうやら、ナデシコよりも俺に脅威を感じた様だ。

 もっとも、無人兵器に感情は存在しないがな。

 純粋に俺とナデシコの戦力の差を、計算した結果だろう。

 

「ふん? 無人兵器もそれなりに考える、か。

 ・・・だが、それしきの攻撃で俺を止められると思うなど、甘い考えだ!!」

 

 ギュオン!!

 

 俺は一旦戦艦から距離をとり・・・

 フィールドを前方一点、拳にのみ集中する。

 

「テ、テンカワ!! お前何をするつもりだ!!」

 

「無茶よアキト君!!」

 

「・・・貴方が華になってどうするの、アキト君。」

 

 俺の意図に気が付いたパイロット三人娘から、制止の声が上がる・・・

 現在の時刻・・・4分30秒。

 

「ふっ、無茶をするつもりは無いし・・・自殺願望でもない!!」

 

 俺はそう返事を返し・・・宇宙に盛大なスラスターの光列を描き、爆発的な加速を開始する!!

 そして、雨の様に降り注ぐミサイルとビームの嵐の中に、俺のエステバリスが突入する!!

 

       ゴォォォォォォオオオオ!!

 

                             ギュワァァァァァアアア!!

 

 全身にフィールドを張れば、それらの攻撃を防げるが、着弾の衝撃でスピードが落ちる・・・

 ならば・・・攻撃を全て避ければいい!!

 拳の先に集中したフィールドでの一撃・・・それも、最高にスピードの乗った一撃。

 これで決着をつける!!

 

 

「落ちろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 ミサイルを全て紙一重でかわす!!

 出来るかぎり一直線で、余計な回避は行わない!!

 ビームが機体を掠める・・・それも敵の銃口から射軸を計算済みだ、当たりはしない!!

 敵の攻撃の間を一筋の光の矢と化し・・・

 俺の一撃が敵戦艦のフィールドを突破し・・・

 遂に敵戦艦を捕らえる。

ドガァァァァァアアアンンン!!

 

 

「ディストーション・フィールド、前方に解放!!」

 

 ナイフを突き刺した状態で、拳に集中していたフィールドを解放。

 エンジン周辺を爆破する!!

 

 そして・・・

 

 

 ズズズゥゥゥゥゥゥンンンン・・・

 

 

 最後の戦艦が撃沈された・・・

 

 

 

「敵戦力80%を殲滅・・・

 通信後からの経過時間は、4分53秒。

 お疲れ様ですアキトさん。」

 

「ミッション終了・・・後は残敵の掃討に入るよ、ルリちゃん。」

 

「はい、護衛艦はナデシコに任せて下さい。」

 

「じゃあ、バッタとジョロの相手でもしてくるか。」

 

 俺とルリちゃんの緊張感の無い会話を・・・

 信じられない、と言う顔で全員が聞いていた。



そして、ナデシコは火星に無事突入した・・・






「グラビティ・ブラスト、スタンバイ!!」

 

「グラビティ・ブラスト、発射準備完了。」

 

「どうして今更グラビティ・ブラストの用意をするの艦長?」

 

「火星で待ち構えている、敵第ニ陣を一挙に殲滅します!!

 ルリちゃん、チューリップの位置はサーチ出来た?」

 

「完了してます。

 ミナトさん・・・このポイントに移動して下さい。」

 

「・・・ふんふん、了解!!」

 

 

 ドゴオォォォォォォォォオオオオオオオンンンン!!

 

 

 そしてナデシコの上空からのグラビィテ・ブラストの一撃に、敵チューリップは殲滅した。

 ただし・・・

 

 

「重力制御を忘れてるぞユリカ!!」

 

 俺は必死で手近な物に掴まる!!

 今や床は直角の壁と化していた!!

 

「テ、テンカワ!!」

 

「きゃああああ!! アキト君!!」

 

「くっ!!」

 

 ぐえっ!!

 

 リョーコちゃん達三人が、俺にしがみ付く。

 全員女性だったのと・・・ナデシコに乗ってからの日課の鍛錬のお陰で、何とか支える事が出来たが。

 

 下手をすれば全員滑り落ちてたぞ。

 

「くそ〜〜〜〜〜!! テンカワばかり美味しい目に会いやがって!!」

 

 ・・・俺も出来れば変わって欲しいですよ、ウリバタケさん。

 

 あ、ウリバタケさんが落ちた。

 ・・・ま、大丈夫だろう。

 

 

 と言った被害が発生した。

 頼むからもう少し考えて戦ってくれ、ユリカ・・・

 

「では、今からナデシコはオリンポス山に向かいます。」

 

「そこに何があるんですか?」

 

 プロスさんの話を聞いて、ユリカが質問をする。

 

「そこにはネルガルの研究施設があるのですよ。

 我が社の研究施設は、一種のシェルターでして・・・

 一番生存確率が高いのです。」

 

「では、今から研究所への突入メンバーを発表する。」

 

「済みません、俺にエステを貸して貰えますか?

 故郷を・・・ユートピア・コロニーを見に行きたいんです。」

 

「何を言い出すんだテンカワ!!

 今、お前とエステを手放せる訳ないだろう。」

 

 ゴートさんが顔を顰めて怒る。

 

 やっぱり・・・そう言うよな。

 

「・・・かまわん、行ってきたまえ。」 

 

「提督!! 何を言うんですか!!」

 

 期待通りのお言葉、有難うございます提督。

 貴方の心中・・・今では理解出来ますよ。

 俺も貴方も、大切な者を助ける為に血を・・・罪を重ねた身ですから。

 俺はユリカを、貴方は仲間と地球の人々を・・・

 だから俺は貴方を責めません。

 罪悪と後悔の念に捕われる者同士だから・・・

 

 

 そして俺は、陸戦用エステバリスで故郷の地を踏みしめた・・・

今回はメグミちゃんを乗せずに。

しかし、後10秒遅かったら前回の二の舞だったな・・・・・




俺はイネスさんと合流する為に、例の場所に向かった。

 ・・・今回は時間の勝負だから。

 ルリちゃんに、ユリカを何時までも引き止める事は出来ないだろう。

 

「ここらへんだった・・・かな?」

そんな台詞をいいながら。

 俺は目測で、地面のある一点に踵を叩き付ける!!

ボコッ!!

 

 

 予想通り、ドンピシャだ!!

 俺達の足元の地面が崩れ、地下に落下する!!
 




ドン!!

 

 

 ふう、どうやら怪我も無く着地出来たようだな。

確か過去では、ここでイネスさんと・・・

 

 しかし、俺が見付けたのは白衣の女性ではなく。

 

「誰だ!! お前は!!」

男性、 しかも複数だった。


「木星の奴等か!! くそっ、ここまで見付けたのか!!」

 

 そう言って男性達は暴徒と化し、俺に襲いかかって来た・・・

 長い避難生活で、気がふれかかっているのか!!

 
 俺は迫り来る男達と対峙する。

 ・・・少々の怪我位、覚悟してもらうか。

ビュッ!!


俺は鉄パイプを振り落としてきた男を蹴り飛ばす!!

ドガッ!!

俺の素早い回し蹴りをくらい、吹き飛ぶ男性・・・

 

 ガスゥ!!

 

「ぐあっ!!」

 

「貴様!!」

 

 一人の男性が怒声を上げながら、俺に向って突進する。

 無言でその男性の攻撃を、体捌きでかわしつつ・・・カウンターで鳩尾に肘を叩き込む。

 

 ドゥ!!

 

「げっ!!」

 

 そのまま泡を吹いて倒れる男。

 

 ・・・手加減はしてある。

 三日も寝込めば回復するだろう。

 

 一瞬の内に三人の仲間を倒され・・・全員の顔に理性が戻りつつあった。

 かわりにその顔に浮かぶものは・・・俺への恐怖だがな。

 

「さて・・・どうする?

 このまま全員地面に沈むか。

 それとも・・・そこまで人生を諦めてるなら。

 いっその事、俺がお前達の人生に幕を降ろしてやろうか?」

 

 俺の本気の眼差しを前に・・・

 俺の顔を真正面から見れるほどの人物はいなかった。

 

「そこまで・・・人生に絶望はしていないわ・・・少なくとも私は、ね。」

 

 ・・・そこに、居たんだなイネスさん。

 男性陣の後ろからイネスさんが現れた。

 

「それで、勇敢なナイトさんは何処から来られたのかしら?」

「俺は・・・」

 

 俺の説明に、イネスさん達は予想通りナデシコへの乗船を拒否した。

「では、住民を代表してプロスさんにその意思を伝えて下さい。」

 

「・・・そうね、貴方達もそれなりに苦労してここまで来たのだし。

 私がプロスさんに説明をするわ。」

 

 よし、予想通りイネスさんは連れ出せたな。

 

「では、この上にエステバリスが置いてありますので。」

 

 そして、俺と、イネスさんは・・・ナデシコに向って旅立った。

これで俺がナデシコに合流すれば、あの地下の人達は無事に火星で過ごせるだろう。

 

「・・・ルリちゃ〜ん、お願い!!」

 

「駄目です・・・アキトさんからお願いされてますから。」

 

「艦長、いい加減諦めて、アキト君達が帰って来るのを待ってなさいよ。」

 

「ぶ〜〜〜、でもアキトとメグちゃんが一緒なんだよ!!

 ルリちゃんも心配・・・!!」

 

 

 ズズゥゥゥゥゥゥンンン!!!

 

 

「敵、前方のチューリップから次々に現れます。」

 

「ルリちゃん!! グラビティ・ブラスト発射準備!!」

 

「グラビティ・ブラスト・・・発射準備完了。」

 

「発射!!」

 

 

 ギュォォォォォォォォンンンン!!!

 

 

「・・・敵、小型機は殲滅するものの。

 戦艦タイプは依然として健在。

 その数・・・更に増大しています。」

 

「な、何でグラビティ・ブラストが効かないの?」

 

「・・・艦長、敵もディストーション・フィールドを張ってるみたいです。」

 

「そんな・・・ここからフィールドを張りつつ撤退!!

 あ、でもアキトがまだ合流してない!!」

 

「・・・テンカワ機より、通信が入ります。」

 

「え!! 本当ルリちゃん!!」

 

「本当です、通信出します。」

 

 

 ピッ!!

 

 

「ユリカ!! 今から敵陣を強行突破してナデシコに合流する!!」

「俺と、イネスさんって人が合流するからな!!」

そう言って通信を切る。

前回とは違い音声だけを送る。

たとえイネスさん一人でも見られたらやばいからな。

そうして俺とイネスさんはナデシコへと戻ってきた。


















ナデシコと俺達は、無事合流を果たし・・・

 敵を殲滅しつつナデシコは、敵の包囲網から逃げ出した。

 が、依然として危機は身近にある。

 

 

 今、ブリッジでは今後の作戦を全員で考えている。

 こればかりは・・・俺もルリちゃんも手の出し様が無い、な。

 そして、イネスさんの『説明』が始まる。

 ・・・その顔が凄く嬉しそうに見えるのは、気のせいじゃ無いだろうな。

 

 ちなみに、『なぜなにナデシコ』はルリちゃんのサボタージュによって阻止された。

 

「・・・イネスさん不貞腐れてたよ、ルリちゃん。」

 

「じゃあ、アキトさんがお兄さん役をしてあげればいいじゃないですか。

 その方がユリカさんも喜ばれますよ。」

「まあ、暇があれば・・・」





「つまり、このナデシコに搭載されている相転移エンジン・・・

 それとディストーション・フィールドの開発者の一人が、私よ。

 だからこそ解るの、今のこのナデシコ一隻の実力では火星を解放する事は・・・

 いえ、それどころかこの火星から逃げ出す事さえ無理ね。」

 

「そんな事はありません!!

 そんな事・・・」

 

 イネスさんの睨まれて、言葉を小さくするユリカ・・・

 しかし、現実がイネスさんの言葉が正しい事を物語っていた。

 最強の武器であったグラビィティ・ブラストは、敵のフィールドに防がれ。

 敵の放った一斉攻撃を受け、逆にナデシコは洒落にならない損害を受けていた。

 そう・・・自力では大気圏外に出れない程の損傷を、だ。

 

 

「先程の戦闘で、木星蜥蜴もディストーション・フィールド
を張れる事が解ったわよね?

 これでナデシコの最大の攻撃方法であるグラビティ・ブラストは、一撃必殺では無くなったわ。

 さらに今現在でも、敵はチューリップから増援を呼び続けている・・・

 さて、この現状のどこをどうしたら勝てるのかしらね?」

 

・・・相変らず、説明をしながらの怒涛の会話だな。

 相手に反論の隙を与えないし。

 

「では、この艦長の能力に今後を期待するとして・・・」

 

「すると、して・・・」 (ブリッジ全員)

 

「流石にお腹が空いたわ・・・そこの君。

 アキト君、って名前だったっけ?

 食堂にでも連れて行ってくれないかな?」

 

「あの、出来ればプロスさんとかジュンとか・・・ゴートさんもいますし。」

 

「私はアキト君がいいな・・・何だか彼とは、初めて会った気がしないのよね。」

 

 それはそうだろう・・・

 記憶は無くても、何故か俺だと気が付いているのか? アイちゃん・・・

 

「そこまで言われるのでしたら・・・俺でよければ。」

 

「そんな他人行儀な事言わなくても。

 私を抱かかえて敵陣突破をした仲じゃない。」

 

 

 ピキッ・・・

 

 

 空間が凍り付くのを、俺は感じた・・・

「さ、さあイネスさん!! 食堂はこちらですよ!!」

 

「え、ええ、じゃあちょっと食事に行ってきます。」

 

 そして、俺とイネスさんは逃げる様にブリッジを退散した。

 後には・・・

 

「アキト・・・ふふふふ、逃げられると思ってるの?」

 

「アキトさん・・・そう言えば前回の釈明がまだでしたね。」

 

 

「「ふふふふふふふふふふ。」」

 

 

「ミスター・・・こんな事をしていていいのか、今のナデシコは?」

 

「ゴートさん、全てはテンカワさんの責任です。

 彼に責任を取って貰いましょう。」

 

      続く