< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、僕は今から千沙君と出掛けるから。

 皆も適当に午後を過ごしておいてよ」

 

 スーツを脱ぎ捨て、隣の自室で私服に着替えようとする僕に―――

 

「駄目です」

 

 冷たい目でプロス君が。

 

「無理だ」

 

 明後日の方向を向いたゴート君が。

 

「ふざけるな、この極楽トンボ」

 

 外したトレードマークのサングラスを布で拭きながら、ヤガミ君が。

 

「今から対クリムゾングループの緊急会議を開きます。

 まさか、忘れていたなんて言わないわよね?」

 

 エリナ君が僕の顔に穴が開くほどに、キツイ眼差しで睨みながら尋ねてくる。

 

 ・・・思いっきり忘れてました。

 

 そう言えば、昨日の夜にエリナ君からそんな話を聞いたような気が。

 あの時は明日に備えて入念に服装その他のチェックをしていたからな〜

 そんな些細な事は完全に無視してたよ、わははははは―――

 

「ちなみに、俺は明日には一旦西欧方面に帰る身だからな。

 今日の会議を逃すと、一週間は連絡が取れないぜ」

 

 サングラスを掛けながら、無慈悲な言葉を紡ぐヤガミ君だった。

 良いよね君は、あっちに両想いの彼女がいてさ!!

 

 ・・・何だか急に腹が立ってきたな。

 有給取り消してやろうか?

 

「それと、有給申請を取り消したら・・・そのまま西欧方面軍か、ピースランドに再就職するからな。

 俺も今回の休暇を楽しみにして、重労働をこなしてきたんだ」

 

「そんな事するわけないじゃないか。

 あはははははははははは」

 

 乾いた僕の笑い声だけが、沈黙が支配する会長室に木魂した。

 ・・・全員の視線が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り合えず、着替えてくるから・・・」

 

「最初から素直にそうすれば良いのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会長室の隣にある、私室に入り・・・僕は直ぐに備え付けの端末にあるコードを打ち込んだ!!

 そのコードとは―――

 

『会長、ジャッジはエネルギーパックを抜き出しておきましたので、幾ら呼んでも来ませんよ』

 

 ・・・プロス君が扉越しにそんな事を言ってくる。

 

 どうやら・・・僕の愛機は身動きが出来ないみたいだ。

 せっかくディア君やブロス君に近い、緊急呼出機能を付加したのに・・・

 本当に緊急事態が起こった時にはどうするんだい?

 

 かと言って、隣の部屋にいる4人を突破する術は僕には無い。

 エリナ君だけならともかく、プロス君もゴート君もその道のプロだ。

 

 ・・・ましてや、最凶最悪の敵としてヤガミ君が居るし。

 

 テンカワ君か北斗か枝織君じゃないと、絶対に逃げ出せないって!!

 こんな事で僕のささやかな願いは潰されるのか?

 再会まで、また一ヶ月もの時を待たなければいけないのか?

 

 ・・・・

 

 ・・・・

 

 ・・・・

 

 ・・・・

 

 ・・・・

 

 否!! 断じて、否である!!

 今日は最後まで行けるチャンスなのだ!!

 テンカワ君!!

 君の力を僕に貸してくれ!!

 

 

 ピッポッパッ

 

 

 押しなれた何時もの番号をコミュニケに打ち込む。

 

「あ、ウリバタケ君かい?

 実は頼みたい事が―――」

 

 何時もの作業服姿のウリバタケ君に、簡単に現状を説明する。

 

 

『・・・何で俺がお前の恋路を応援せにゃならんのだ!!

 貴様も裏切り者か〜〜〜〜〜!!』

 

 

  プチ―――

 

 ・・・相談する相手が悪かったみたいだ。

 少しは融通が効くかと思ったのだが。

 どうにもこうにも、娘さんとハーリー君の関係が露見して以来ナーバスになっちゃって。

 

「第二候補っと・・・」

 

 ピッポッパッ

 

「あ、ヤマダ君かい?」

 

『違う!! 俺・・・!!!!!!』

 

 急いで音量を下げる。

 どうにもこうにも、迂闊に話し掛けられないね彼には。

 ヤマダ君は自室に居るみたいで、白い半袖のシャツにジーパンを履いていた。

 

 とにかく、今は時間が惜しい。

 手っ取り早く餌を示して、ヤマダ君に会議中に乱入して貰おう!!

 

「実は君の名前を改訂する件なんだけど・・・力を貸してあげようか?」

 

『何!! 本当か?』

 

 どうやら餌に食いついたみたいだ。

 後はこのまま、彼のエステで本社に強襲を掛けてもらって・・・

 

『何、アカツキさん?』

 

 掛けてもらって?

 

『アカツキ? ネルガルの会長だったな、確か?』

 

 ・・・おひ

 

『ああ、何でも俺に頼み事があるらしい』

 

 ヤマダ君の背後から聞える二人の女性の声。

 

 勿論、僕が良く知る女性の声だ。

 そう、良く知っている。

 

 が―――

 

 ・・・ちょっと待てい

 

「・・・ヤマダ君」

 

『おう、頼み事って何だよアカツキ?』

 

「いや、その前に一つ質問があるんだが。

 ・・・どうして万葉君とヒカル君がそこにいるんだい?」

 

 しかもヤマダ君の自室に?

 

『ああ、ちょっとした事情があって万葉を俺の実家に連れて帰ってたんだ。

 で、ヒカルは今さっき遊びにきたとこだ』

 

 ・・・この男、実はテンカワ君以上の危険人物かもしれない。

 僕があれだけ千沙君の事で苦労をしているというのに・・・

 君は両手に花かい?

 

 この情報は最優先でウリバタケ君に送ろう。

 ヤマダ君にこそ、地獄が相応しい!!

 

『で、結局俺に何を―――』

 

「さらばだヤマダ君。

 僕は君を絶対に許さない」

 

   プチ―――

 

 ・・・そのまま、2秒ほど固まった後。

 

 僕は無言で先程録音していた会話を、ウリバタケ君に送信した。

 後の事は僕の関知する事ではない。

 

 

 

 

 

『おい、アカツキ!!

 いい加減観念して出て来い!!

 早めに会議を済ませれば、それだけ早く千沙君と会えるだろうが!!』

 

 待ち時間に焦れたのか、ヤガミ君が大声で僕を急き立てる。

 どうやら、本当に時間は残されていないらしい。

 だが幾ら早く会議を終らそうとしても、どう考えても今から3時間はかかるだろう。

 既に時計の針は11時半を指している。

 

 千沙君とお昼を一緒に食べる事は諦めないといけないのか?

 

 いや、待て・・・まだもう一人協力者と呼べる人物が居るじゃないか!!

 

 ピッポッパッ

 

「あ、アオイ君かい?」

 

『珍しいな・・・何の用だ』

 

 何故か非常に困った顔をしたアオイ君が、コミュニケの画面に出てきた。

 着ているのが私服のジャケットなのを見る限り、どうやら軍に居るわけでは無さそうだ。

 ようやくツキが周ってきたみたいだね!!

 

「実は頼み事が―――」

 

『ねえねえジュン君!!

 ジェットコースターの順番がもう直ぐ周ってくるよ!!』

 

 

 ジュン、お前もか!!

 

 

 僕は心の中で叫んだ!!

 ありったけの声で!!

 僕がこれだけ困っているのに、君は遊園地でデートだと!!

 

『あ、ちょっと今通信中だから・・・』

 

 ユキナ君の顔が、アオイ君の肩越しに現れる。

 ・・・仲が宜しいご様子で。

 

「・・・アオイ君、君の幸福を祈るよ。

 どうぞ、ごゆっくり」

 

『おい!! 誤解するな―――』

 

   プチ―――

 

 一言、アオイ君にそう告げた後。

 問答無用でコミュニケを切る。

 

 ・・・そのまま、記憶を頼りにある所にメールを送る。

 ちなみに匿名希望でだ。

 

「・・・貴公の最愛の妹君が、根暗で線の細い男性とデート中である。

 直ぐに現場に向かわれたし、と。

 着信位置から何処の遊園地かは既に分かっているし。

 遊園地の名前も送付しておくか」

 

 後は白鳥中佐の大活躍に期待をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

『・・・なあ、もしかして部屋の隅で泣いてるんじゃないのか、アイツ?』

 

『あ、それはありそうね』

 

『想像すると・・・かなり嫌な光景ですな〜』

 

『精神的に惰弱すぎるのだ。

 今度、俺が直々に精神修行をつけてやる』

 

『『『それだけは止め(て)(とけ)(て下さい)』』』

 

 

 

 

 

 ・・・僕の今までの人生の中で今日ほどボソンジャンプが出来たら、と切望した事はないよ。

 それに、扉の前に陣取って何を好き勝手な事を言ってるんだよ、君達は。

 

 ―――最早、残り時間も少ない

 

 コミュニケに表示された時間は、既に十二時まで後10分しか残されていなかった。

 

 やはり、ここは覚悟を決めて・・・特攻しかないのか?

 本当に、死して屍拾うもの無し、状態になると思うけど。

 やらずに後悔をするよりは、よっぽどマシさ!!

 

 覚悟を決めた僕は、首に巻いていたネクタイを強引に引き抜き。

 革靴から、シューズに履き替える。

 ズボンも動き易い黒のチノパンに着替え、準備は万端だ!!

 

 ・・・取り合えず、扉の前に固まってる連中に向けてブラスターでも連射してみるかな?

 いや、確か備え付けの使い捨てバズーカがあったはずだね?

 

 備え武器ラックから、護身用のブラスターと使い捨てのバズーカを取り出し構える。

 クックックッ、手くいけば邪魔者の一人や二人・・・倒す事が出来るかもしれないね!!

 

 既に理性と呼ばれるモノは放棄した僕だった。

 

 ピッ!!

 

 バズーカの引き金を引こうとした瞬間―――

 

 僕のコミュニケに一通のメールが届いた。

 

 その内容とは・・・

 

『急用のため、直ぐに木星に戻ることになりました。

 お誘い頂いたお食事につきましては、また次の機会にでも宜しくお願いします。

 それでは、文章にてお断りする非礼をお許し下さい』

 

 

 

 

 

 時が止まった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・本当に、部屋の隅で泣いてるぞ?」

 

「・・・何だか、見ていて気の毒になるほど惨めね」

 

「・・・仕方がありませんね、会議は明日にしますか。

 ヤガミさんには衛星回線を通じて、会議に参加をして貰いましょう」

 

「・・・うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話に続く

 

 

 

 

ナデシコのページに戻る