< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 昼食の時間になったので、気絶している極楽トンボを引き摺りながら外食に向かう事になった。

 ヤガミ ナオが片足を持ち、もう片方をプロスペクターが持っている。

 

 ・・・上等なスーツも、今はただのモップと化していた。

 

        ズルズル・・・

 

「・・・あの、もう気が付いてるんですけど?」

 

 全員その言葉を無視

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ホウメイさんの所でいいのか?」

 

 社用車に乗り込み、自らハンドルを握るヤガミ ナオ

 会長は何事か呟きながら、後部座席に座る。

 私はその会長に続いて後部座席に座った。

 

「そうね、久しぶりだし」

 

 確認をしてきたヤガミ ナオに私は相槌をうち。

 隣で不貞腐れている会長も同じ様に頷いていた。

 

「私もそれで良いですよ」

 

 助手席に座りながら、プロスペクターも同意する。

 本当ならイネスかフィリスを誘いたいところだけど・・・忙しそうだからね、あの二人は。

 ・・・それなのに、一人余計な急患が出てるし。

 

「それじゃあ、早速出発しますか」

 

 ヤガミ ナオの言葉と共に社用車は滑らかに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい!!

 ・・・って、あんた達かい。

 仕事は一段落ついたのかい?」

 

 店に入ってきた私達を見て、ホウメイさんが笑いながら挨拶をしてくる。

 私達はそんなホウメイさんに、それぞれ挨拶を返しながら4人掛けのテーブルに着いた。

 

 店主の腕から考えれば小さな店だが、やはり味の分かる常連客が絶えないらしい。

 ネルガル本社の社員食堂にスカウトをした事もあったが・・・笑って断られた。

 

 そして一度だけスカウトを断る理由を聞き、私は彼女をスカウトする事を断念したのだった。

 それ以来、ネルガル本社から比較的近い場所に彼女は店を出している。

 

 『日々平穏』と言う名前の店を―――

 

 

 それぞれが注文を終え、世間話をしていると点けっぱなしのTVでニュースが始った。

 

『今日のニュースです。

 近々開発がスタートする新ターミナルコロニー・・・』

 

「・・・契約書の件、ちゃんと話を通しておきなさいよ」

 

「・・・はい」

 

 そのニュースを見た瞬間、全員に白い目で見られて反省をする極楽トンボだった。

 まあ、少しは態度が改まるなら・・・休暇の事を少しは考えてあげるか。

 好きな人に会えない辛さは、よく分かるから。

 

「しかし、このターミナルコロニーにもネルガルは関与してるんだろ?

 そのネルガルの首脳部が揃ってこんな店に来ていいのかい?」

 

 笑いながら豪快に鍋を振るホウメイさん。

 私が注文した野菜炒めを作っているみたいね。

 

「あ、気にしない気にしない〜

 どうも肩肘張って仕事をするのは、僕のスタンスじゃないからね。

 それに、今更格好つけたってホウメイさんには僕の本性はバレてるし」

 

 お手拭で手を拭きながら、朗らかに笑う会長。

 

「・・・だからって、少し位は格好を考えろよ、この人間モップ

 背中に埃が固まってるぞ?」

 

「・・・誰が僕を人間モップにしたと思ってるんだい?」

 

 ジト目でヤガミ ナオとプロスペクターを見るが、二人は同時に視線を外した。

 流石に、少しやり過ぎたと思っているみたいね。

 

「あ、そうそう忘れていました。

 実はヤガミさんに出張を頼みたいのですよ?」

 

「・・・仕事か?」

 

 思い出したように話し出すプロスペクターに、真面目な雰囲気になったヤガミ ナオが答える。

 こんな店で話す内容とは思えないが、まあこの店なら大丈夫か。

 それに、聞かれた所で問題は無い話だし。

 

 ・・・この前も、ウリバタケが何か仕掛けようとしてホウメイさんに中華鍋で撃退されてたし。

 

「ヨーロッパとアフリカ・・・どちらに行きたいですか?」

 

「ヨーロッパ」

 

 やっぱり即答よね、ヨーロッパを選ぶと思ったわ。

 

「では、7月7日に開催されるピースランドでのルリさんの誕生パーティの護衛、確かに頼みましたよ」

 

「げ!!」

 

 ニコニコしながら仕事の内容を話すプロスペクターに、思わず顔を顰めるヤガミ ナオ。

 でも、その気持ちは良く分かるわ・・・

 

「去年のパーティでも、ピースランド王妃からルリさんを連れ出すのは苦労しましたからね〜

 今年はどんな手段を使ってくることやら」

 

 やれやれと首を左右に振るプロスペクターに、青い顔で頷く会長・・・

 前回は会長も賓客として招待され、その帰国時にホシノ ルリを連れて帰ったのだ。

 その時も凄く・・・大変だったらしい。

 帰国した時の会長のやせ細っていた姿が今でも思い出されるわね。

 

 本当、何があったんだろう?

 

「・・・で、ちなみにアフリカは何の用だったんだ?」

 

「それはですね―――」

 

 投げ遣りな口調でプロスペクターに尋ねるヤガミ ナオ。

 その質問にプロスペクターが答えようとした時、威勢の良い声が横手から掛った。

 

「はいよ、炒飯定食と唐揚げ定食お待ち!!」

 

「あ、僕が唐揚げ。

 炒飯はプロス君だよね?」

 

「そうです」

 

 それぞれ注文した料理を受け取る会長とプロスペクター

 

「直ぐに野菜炒めと肉団子定食も持ってくるから」

 

 明るく笑いながら、カウンターに既に置いてある二つの料理を取りに行くホウメイさん。

 

「そんなに急がなくてもいいのに」

 

「全くだ」

 

 そんな元気なホウメイさんの後姿を見ながら、私とヤガミ ナオは苦笑をした。

 

 ・・・一瞬、ホウメイさんの後姿が、『彼』と重なったのは秘密。

 何時もナデシコ食堂で元気に働いていた。

 どれだけ絶望的な状況下でも、笑う事と料理を止めなかった。

 その笑顔と料理に私達はどれだけ助けられた事か・・・

 

「―――で、どうなってるんだい?」

 

「え!!」

 

 突然、声を掛けられた私は驚いて周囲を見回す。

 どうやら、回想に浸っていたみたね・・・

 

「全く、しっかりしなよ会長秘書さん!!

 で、やっぱり新しいナデシコにはルリルリが艦長をするのかい?」

 

「え、ええそうなるわね。

 来年、B級ジャンパーへの手術を予定してるわ。

 それが終わり次第、春の卒業にあわせてナデシコBの艦長として就任予定よ」

 

 私はほぼ確定している将来について、ホウメイさんに語った。

 ・・・3年、それがホシノ ルリと私達の間で交わした約束だった。

 その間にナデシコBの製造を終了し、同時並行でナデシコCとユーチャリスの製造も行なっている。

 試験艦としてナデシコBのデータが揃い次第、ナデシコCとユーチャリスも直ぐに戦線に並ぶだろう。

 

 勿論、最大の目的はあの時何処かに消えた『彼』―――テンカワ アキトを探し出す事

 

 世の権力者は、既に彼は帰って来ないと思っている。

 あの最後の別れから2年・・・確かに音沙汰は無い。

 だけど、私達には一つの確信があった。

 それは「ボソンジャンプ」

 彼と共に有ると思われる演算ユニット、それが稼動しているからこそボソンジャンプは可能なのだ。

 つまり、彼は動けない状況か意識の無い状況で、この宇宙の何処かに居る!!

 

 それが私達の唯一の希望だった。

 だからこそ、きっと見つけてみせる。

 例え、どれだけの月日が掛ろうとも・・・

 

「ルリルリも言い出したら聞かない子だからね。

 まあ、私も人の事は言えないか」

 

 そして、苦笑をしながらホウメイさんは厨房に戻っていった。

 ホウメイさんが自分に課している事は一つだけ。

 今は居ない愛弟子の代わりに、元ナデシコクルーや関係者に料理を作る事。

 

 それが以前、スカウトを断る理由を聞いた時に教えて貰った事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、アフリカはどんな仕事だったんだよ、プロスさん?」

 

「知りたいですか?」

 

「そりゃあ、俺が動くって事は護衛対象がネルガルにとって重要人物か・・・

 『例の施設』の破壊を目的にした時だろ?

 で、俺の代わりに一体誰を派遣するつもりなんだ?」

 

「仕事自体は護衛の方ですよ。

 オオサキ提督が亡くなった奥さんの墓参りに行かれるそうです。

 それと、カズシさんの墓参りと」

 

「・・・そうか、そっちにも行きたかったな」

 

「まあ、そちらの護衛は心当たりがありますから問題は無いですよ」

 

「あ、そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第六話に続く

 

 

 

 

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