< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 俺も生物学的には男・・・いやである。

 そりゃあ、あの二人―――ヒカルと万葉に好意を抱いていないわけではない。

 

 まあ、気が付くまで2年間を要したけどな。

 この前、アカツキに二人の事を聞かれてそう答えたらアイツの方が驚いていた。

 

 だからと言って・・・

 

「ヤマダ君の事だから、きっと引き返せない事態に陥ってから、その事に気付くと思ってたよ」

 

 ・・・それは無いだろう。

 俺も一人前の漢だ、少しは相手の事を考えるようにもなる。

 

「きっと、痴情の果てに・・・三人で無理心中とかしてるんだろうな、って僕は予想してた―――ガゴ!!」

 

「さあさあ、馬鹿な事は言わないでおきましょうね〜」

 

「まったくです、少しは気を利かせて欲しいですね」

 

 白鳥 ミナトとホシノ ルリに引き摺られて、アカツキの奴は消えて行った。

 結局、その日は最後までアカツキの奴と俺は会う事は無かった。

 

 そう、あの日は・・・

 

 アキトの仮の墓に皆で行った後、俺達は宴会に雪崩れ込んだ。

 普段、自分の生活が忙しくて、会えない事が多いのだ。

 久しぶりに会ったのなら、騒がなければ嘘だろう。

 ましてや、この『墓参り』はアキトに対する報告会でしかないのだから。

 

 苦しかったあの戦争も、終結して2年が経つ。

 その間にも色々な事があった。

 笑い話も、悲しい話も、尽きぬほどに・・・

 

 俺達はそれぞれの近況を話し合いながら、深夜まで騒いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が・・・・

 

 

 

 

 

 ピピピピ!! ピピピピ!!

 

 甲高い、耳に障る音がベットに眠る俺に襲い掛かる。

 寝惚け眼で音源を突き止め、無意識のうちにそのスイッチを切る。

 

「ぬ〜、目覚まし?

 今日は非番のはずだから休ませてくれ〜」

 

「まったくだね〜

 私も昨日の為に無理矢理原稿上げたんだからぁ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・・・ん?」」

 

 

 

 

 

 

 自分達の状況を見て、一番慌てたのは俺だ。

 何しろ、下着すら着けていなかったんだから。

 ・・・ちなみに、ヒカルも同様だったらしい。

 

 いや、確かに俺としてもヒカルに好意を持っていたのは確かだ。

 それに、多分ヒカルも・・・だと思う。

 だが、お互いの真意を確かめないままに最後の一線を越えるとは思えない。

 

 

 思わないと・・・思う。

 

 

 だって、昨日の記憶が無いし・・・俺

 

「あ、あははははは・・・あれ、どうしてこんな事になってるのかな?

 え〜、ヤマダ君が私を誘ったの?

 ―――そんな筈、無いよね?」

 

 シーツに潜り込みながらそう聞いてくるヒカルに、俺は何も言えなかった。

 軽々しく嘘を言ったり、笑って誤魔化すには・・・ヒカルの口調に混じるものは真剣すぎた。

 

「いや、すまん・・・記憶が無いんだ」

 

「・・・そっか、そうなんだ」

 

 正直に答えた俺に対して、ヒカルは何処か気の抜けた・・・何処か安心したような声で呟いていた。

 その後、かなりの罪悪感を感じつつ俺達はそれぞれの家に戻った。

 

「じゃ、私次の仕事がおしてるから帰るね♪」

 

「あ、ああ・・・またな」

 

 ヒカルは何時もの様に明るく振舞っていたが、その笑顔に陰りがあった事に俺は気付いた。

 こんな時ばかりは、少々他人の機微に敏感になった自分が煩わしかった。

 実際、俺とヒカルの間になにがあったのかは分からない。

 だが確実に、このままでは終れないナニかが動き出してしまった。

 心地よい距離を持つ、親友と言う関係が一夜で崩れた。

 

 ・・・それだけは確かだった。

 

 そして、それはもう一人の気になる女性にも波紋を広げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々なトラブルが重なり、俺の実家に万葉が居候を始めた。

 

 ヒカルとの関係も、あれから少しは近づいたとも言えるが、未だお互いの本心は明かしていない。

 やはり、万葉の存在がお互いの中にあったからだろうか?

 ヒカルは個人的にも万葉と会った事もある、決して仲は悪く無い。

 

 だが、万葉が俺の実家に居候をする事を聞いた時は・・・直ぐに駆けつけて来たが。

 ついでに、兄貴の攻撃が倍増しになったのはお約束か?

 ま、その日は流石に怪我の回復が追い付かず、自室のベットで唸っていたが。

 

 多分、その日一緒の部屋に泊まっていった万葉とヒカルの間に、何か話し合いがあったのだろう。

 

 次の日、何時もの笑顔でヒカルは自宅に帰って行った。

 なにやら、万葉とアイコンタクトをしていた様な気がしたが?

 

 

 

 

 

 

「ガイ〜、風呂が空いてるぞ」

 

        ガラ!!

 

 自室のベットで寝転がりながら、俺は雑誌を読んでいた。

 今日は親父とお袋は、親父の実家に出掛けている。

 兄貴は会社の同僚とコンパらしい。

 ・・・なんでも、俺が悔しがるような『素敵な女性』をゲットしてみせると、いきこんでいたが。

 

 ま、頑張ってくれ。

 

 俺は心の中で兄貴にエールを送った。

 明日の朝には溺酔して玄関口に転がってると思うけどな。

 

「あ〜、分かった―――!!!!!!!」

 

 何気なく、部屋の入り口に向けば・・・そこにはバスタオル一枚で身体を隠した万葉がいた!!

 風呂を上がったばかりの上気した肌が、何とも艶やかだ・・・

 

 って、そんな問題ではな〜〜〜〜〜〜〜い!!

 

 内心でそんな事を叫びつつ、思わずベットから滑り落ちる俺!!

 

「な、何て格好してられたえれば!!」

 

「・・・酔ってるのか?」

 

 俺の意味不明な言語に首を傾げつつ、歩み寄ってくる万葉。

 その一歩一歩ごとに、鮮明に映る万葉の身体に・・・俺の頭は沸騰寸前だった。

 

 あの時ヒカルとはお互いにパニックに陥っており、直ぐに床に落ちていた服を着たためそれほど意識をしなかった。

 

 しかし、これはマズイ!!

 

 そう、果てしなくマズイ!!

 

 いや、俺の本能が

         色んな意味で叫んでる!!

 

 俺は背中一面に冷汗が吹き出るのを実感していた。

 

「どうしたんだ、顔が赤いぞ?」

 

 万葉が可愛く微笑みながら、そう言って俺の前で屈んだ瞬間。

 あの時のヒカルの声が、俺を責めているように思い出され・・・

 

 それに気が付いた瞬間、俺は自室の窓を開いて、二階からダイブを決行した!!

 

       ガラガラッ!!

 

「お、おい!! ガイ!!」

 

一番!! ダイゴウジ ガイ セカン!!

 跳びます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱ、どうにかしないと駄目だよな〜」

 

 庭の植木を突き破り、そのまま隣の家の家庭菜園にめり込んだまま。

 俺は夜空を見上げながら、そう呟いていた。

 

 結局、どちらかを選ばない俺が・・・悪いんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記 その一

 

「・・・ヤマダ、お前ヒカルを泣かしたらタダで済むと思うなよ?

 あの日、お前達が一緒にホテルに入るのを俺は見たんだからな」

 

 ・・・じゃ、止めろよ頼むから。

 

「・・・フッ(ポロロン♪)」

 

 いや、意味不明だぞ。

 ・・・そのメッセージは?

 ゴートのおっさんなら、何か気が付くかもしれんけど・・・

 せめて日本語で話してくれ。

 

 

 

 留守録に入っているその二つのメッセージを聞き、俺は戦慄をした。

 

 

 

 

 

 

 

 追記 その二

 

「もしもし、ヤマダさん?

 私、空 飛厘です。

 万葉がお世話になってるそうだけど・・・下手な事をすると、私達全員を敵にまわすわよ。

 これは優華部隊だけじゃなく、舞歌様からのお願いでもあるんですからね。

 ・・・じゃ、万葉の事をお願いね♪」

 

 万葉の居候が決まった次の日、この留守録が入っていた。

 誰だよ、話した奴は?

 

 逃げ道は、確実に狭まりつつあるようだ・・・

 

 

 

 

 

 

 追記 その三

 

「・・・と言うわけで、凄く危ない状況なんだが。

 アカツキには相談するだけ無駄だと思ってさ。

 この手のトラブルの第一人者である、アンタにアドバイスをして欲しいんだが?」

 

 アキトが居れば、勿論そっちに聞き行くのだが。

 ・・・って、アキトの奴もそれ程的確なアドバイスは無理だろうな。

 何しろ、何時も逃げ回っていたし。

 

 そんな事を思い出しつつ、俺は最良と思われる相談相手に向かって頭を下げた。

 

       ポンポン・・・

 

 そして俺が相談相手に選んだ、長身で黒いスーツを着て顔をサングラスで隠した男は。

 何度も頷きながら俺の肩を優しく叩き、同情を示しつつ・・・

 

「・・・お前、そんな目で俺を見てたのか?」

 

 渾身の右ストレートを俺の顔面に叩き込んでくれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 追記 その四

 

 やっぱり、兄貴は次の日の朝には玄関で寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話に続く

 

 

 

 

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