< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第八話.ヤマダ ジロウ(魂の名前はダイゴウジ・ガイ・セカン)

                                   の私生活

 

 

 

 

 

 

 

 目の前では万葉とその仲間が楽しげに話しをしている。

 俺は別段、女性陣の話に興味は無かったので、自分の手元にある宇治金時に神経を集中する。

 

 ・・・女性の話に割り込んでも、ろくな事にならないのは経験済みだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、俺は万葉と同じく連合軍に所属している。

 リョーコとアリサは統合軍へと召集されていった。

 ・・・上の奴等の意図は俺にでもすぐに分かった。

 つまり、俺達が一ヶ所に固まるのが怖かったのだろう。

 自慢じゃないが、俺達ナデシコクルーのエステバリスライダーは、他の奴等とは実力が違う。

 アキトと北斗の二人を除けば、間違い無く連合軍・統合軍二つの軍内でトップを独占するだろう。

 

 ましてや、専用機を使った日には・・・

 

 俺は自分の使う、漆黒の拳を思い出し。

 スプーンを握っている右手をマジマジと見詰めてしまった。

 確かに専用機を使えば、俺でも一騎当千と呼ばれる存在になれるのだ。

 ましてや、ナデシコ時代に前線で培ったチームワークがあれば・・・

 

 ヒカルは軍の監視に嫌気が差し、漫画家の道を選んだ。

 イズミは終戦後、一時期姿を晦ましていたが最近になって、バーのママさんをやっている事が判明した。

 カザマは連合軍に残った様だ、よく艦長を迎えに家を訪れていると聞いた。

 ま、アカツキの奴はブツブツと文句を言いながらも、会長職を頑張っている。

 

 現在、俺の想い出の愛機はネルガルに保管されている。

 専用機に関しては色々と軍から突き上げを食らったらしいが、皮肉な事に北斗の存在がそれを押し留めた。

 アキトが居ない現在、あの「真紅の羅刹」を止める事が可能と思われるのは俺達だけだから。

 その俺達を分散して配置するあたりが、矛盾といえば矛盾だ。

 

 俺達に軍との交渉を教えてくれたアカツキの苦笑が、嫌でも思い浮かぶ。

 

「・・・ま、将来の恐怖より目先の危険の方が厄介なんだろうな」

 

 そんな事を小声で呟きながら、隣を見ると・・・未だ万葉達の会話に終わりは来ないみたいだ。

 何や小声で話し合ったり、急にしんみりしたりと実に多彩に感情表現をしている。

 それに付き合っている、二人の友人も楽しそうだ。

 

 現在、俺の実家に一緒に住んでいる女性、か。

 ・・・横目で万葉の事を何気なく見てみる。

 

 昔の俺には想像も出来なかった日常を、俺は過ごしていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄貴〜、帰ったぞ〜」

 

「おう、遅かった―――」

 

「あ、初めまして。

 御剣 万葉と言います」

 

 礼儀正しくお辞儀をする万葉。

 

 そして―――

 

 

 

 

 

 

 俺が万葉を連れて実家に帰った日を、親父達は「実家が静止した日」と呼んでいる。

 つまり、両親と兄貴が完全に停止したわけだ。

 

 ・・・いや、でも流石に心臓まで停まっていたのは、俺も驚いたけどな。

 心臓マッサージをしても、あまり効果が無かったので。

 仕方無しに台所に備え付けのスタンガンを最大出力で押し付けてやった。

 勿論、ウリバタケから購入した違法改造のお墨付きの製品だ。

 何でも同型のスタンガンの性能を数倍以上に引き上げた作品らしい。

 

 何処で使う気だったんだろう、あの男は? 

 まあ、物珍しさもあってそれを購入した俺も俺か。

 

 しかし、そのスタンガンを押し当てた親父達は・・・

 いや〜、跳ねた跳ねた

 

 あの時の光景は、今思い出しても壮絶だったな〜

 兄貴なんて髪の毛が全部逆立って、剣山になってたし。

 

 ・・・面白過ぎて、俺は当分正面から兄貴の顔を見て話せなかったぜ。

 しかし、そんなヘアースタイルでも仕事に行く兄貴は立派だと思ったね。

 親父は元々髪の毛を短く切っていたため、あまり目立たなかったけどな。

 

 でも営業って、あんな頭でも勤まるのか?

 もしかして、世間は俺が想像しているよりもアバウトかもしれんな。

 

「おい、母親の方もスタンガンで起こすつもりか?」

 

 俺の行動を見て、心配になったのかそう尋ねてくる万葉だった。

 

「ん〜、流石にお袋には少しキツイかな。

 俺と兄貴と親父は、普段の生活のせいで慣れてるからな」

 

「・・・これで、少しなのか?」

 

 身体の隅々から、白い煙を上げている兄貴と親父の姿を見て、万葉は引き攣った笑みを浮かべた。

 ちなみに、親父と兄貴は今度はスタンガンの痺れが抜けないらしく、床に倒れた状態で俺を睨んでいる。

 命の恩人に対する感謝の意は、その眼からは伺えない・・・

 

 ちょっと、ヤバイかも

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、そんな理由で家に来たのかい。

 それなら歓迎するよ、この馬鹿息子も少しは気が周るようになったんだな〜」

 

 親父の嬉しそうな笑い声が、俺の耳に響く。

 

「でも、あの子の女友達って・・・綺麗な娘ばっかりね〜」

 

「いえ、そんな・・・」

 

 お袋の台詞に、万葉が照れの入った返事をする。

 

「全くだぜ、まああの弟に二股をする器量があるとは思えんが」

 

「あ、それ限りなく本当です」

 

 万葉の発言の後、不自然なまでに実家が静かになる。

 

 シ〜〜〜〜〜〜〜〜ン

 

 ・・・逃げた方が良さそうだな。

 でも、今の俺の状態は庭の木の枝に吊るされた、サンドバックだ。

 とてもじゃないが、逃げ道は無い。

 

   ガララ!!

 

       カッカッカッ・・・

 

 雨戸が開く音が響き、誰かがサンダルを履いて庭に出てきた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 月明かりの中、俺と兄貴の視線がぶつかる。

 兄貴の瞳の中には、限りない・・・俺への憎悪があった。

 こんな瞳を向けられるのは、小学校の時兄貴の好きな女の子に悪戯をして、犯人を兄貴のせいにした時以来だ。

 ん、まてよ?

 そう言えば、二年程前にも俺が原因で意中の女性に逃げられたと言ってたな?

 

 ・・・なんか、兄貴がふられるのは全部俺が関連してるのか?

 

「・・・ふっ」

 

「は、鼻で笑ったなお前!!

 ちょっとモテたからって良い気になるなよ、こら!!」

 

   ドスッ!!

 

           ボスッ!!

 

 大粒の涙を流しながら、俺に向かって拳を振るう兄貴・・・

 最早、何を言っても無駄だろう。

 

 兄貴を止めようとする万葉を、両親が首を振って止める。

 どうやら、大した事にはならないと判断をしたらしい。

 

 でも、今凄く痛いんだけど・・・俺

 

「お前に!! お前に俺の苦しみが分かるか〜〜〜〜〜!!

 喰らえ!!

      愛と!!

         怒りと!!

             憎しみの―――!!」

 

「あ、兄貴それはキャラが違う―――」

 

 

 

 

 

 その日、俺は久しぶりに足腰が立たなくなるまでのダメージをくらった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か、ガイ?」

 

「ま、なんとか・・・」

 

       ギィ、ギィ・・・

 

 未だ木から吊り下げられている俺を、万葉が様子を見にきてくれた。

 兄貴が風呂に入る事で監視が緩んだ隙に、ここまで来たみたいだ。

 

 ―――俺自身は初夏の風に揺られて、右に左にと揺れていたが。

 

「しかし、まあお前の家族らしいと言えば、家族らしいな」

 

「・・・ま、家族だからな」

 

「そうなんだよ、な」

 

 木の根元に座り込みながら、万葉はクスクスと笑っていた。

 何が可笑しいのか分からないが、少し前にヒカルともこんな会話をした事を覚えている。

 

 

 

 

 あの時も、兄貴の逆鱗に触れた俺が問答無用でボコボコにされて・・・

 確か部屋の中で倒れていたんだよな。

 

『やっほ〜、生きてるヤマダ君?』

 

『煩いな・・・俺の名前はダイゴウジ ガイ セカンだ〜』

 

『そんだけ無駄口が叩けるのなら、全然大丈夫みたいだね。

 じゃ、夕方からのお出かけまでにはちゃんと回復しててよ?』

 

 俺の横に座り込みながら、ヒカルは楽しそうにそう言った。

 そう言えば、この頃からお袋とヒカルは良く一緒に買い物に行っていたな。

 その日は、お袋とヒカルに誘われて俺も買い物に同行する事になっていた。

 

『でもさ、やっぱり家族って良いよね〜』

 

『少なくとも俺は兄貴は苦手だ・・・』

 

 しみじみとそう呟くヒカルに、何か陰の様なモノを感じたが。

 ・・・俺はそれに気が付かない振りをする。

 

『不思議だよね、単純な実力では完璧にヤマダ君の方が上なのに』

 

『・・・家族、だからかな』

 

 

 

 

 俺の答えを聞いて、ヒカルは楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2に続く

 

 

 

 

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