「・・・・・・そーいやー、前から訊きたかったんだけどよ。」
ナオは、自分のベッドで煙なんか噴いちゃってるアキトに語りかけた。
その色がそこはかとなくピンクなのは、果たして真っ赤な顔の照り返しか、はたまた『お仕置き』のアレ方面での苛烈さか。
ナオとしてはそこいら辺も小一時間ほど問い詰めてやりたかったが、今回はもっと根本的な質問だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・なんスか?」
なんとか口がきけるまでに回復したようで、アキトがか細い反応を返してくる。それを確認して、ナオは前々からの疑問を口にした。
「お前さ・・・・・・なんで誰も選ぼうとしないんだ?」
「・・・彼女たちが選ばせてくれると思います?」
アキトにとっては、ある意味定型化した質問だった。
だが、いやだからこそ、ナオは敢えてもう一度問いかけた。
「違う。俺は、なんで『お前は』誰も選ぼうとしないんだ? って訊いてるんだよ。」
「・・・いや、だから彼女たちが」
「他人は関係ない。アキト、お前自身の話だ。」
言い逃れを許さぬ舌鋒に、アキトは沈黙した。
ナオは暫く、そんなアキトを見つめていたが・・・・・・やがて溜め息をつくと、備えつけの本棚から雑誌を取り出して、アキトに放った。
「・・・ま、其処でも行ってその煮詰まった頭どーにかしろ。お前、仮にも中華が得意なんだろ? 日々是、精進だぜ?」
お気軽に言って、ナオは出て行った。
残されたアキトは、のろのろと右手を上げて頭に乗っかっている雑誌を掴むと、顔を上げて開いていたページを見た。
其処には、かつて過ごしたあの場所に、出ている屋台の記事が載っていた。
「・・・・・・結局来ちまった、か・・・・・・」
アレから四六時中唸り続けていたアキトは、周囲に掛けるだけの心配掛けた揚げ句に、ルリとプロスに追い出されてここに来た。
流石に12月ともなればひとの姿もまばらで、それこそ店でもなければ人が寄り付くようなところではない。
もっとも春になれば、見事なサクラが咲いて、人々を楽しませてくれるのだが。
そう、ちょうどこんな感じで。
「・・・・・・っておい、サクラっ!?」
自分でモノローグにツッコミ入れつつ、アキトは慌てて振り返る。
そこには果たして、花弁を満開にしたサクラの木が、1本だけ佇んでいた。
「・・・狂い咲き、って奴か・・・」
呟いて、暫し季節外れの花見を愉しむ。屋台が来るのはもっと遅い時間だから、時間潰しにはお誂え向きである。
薄桃の花びらが、ひらりひらりと零れ落ち。
束の間の生命の残滓を、冷たくキンと冴え渡った陽だまりが照らし出す。
あり得ないはずの光景は、しかしなんの違和感もなく其処にあった。
と、不意に。
気配を感じて、視線を幹に降ろす。
其処にいたのは、赤い修道服を着た、二十歳前後の女性だった。
しかし。
しかし、嗚呼。
何故、視線が揺らぐのだろう?
何故、喉が乾くのだろう?
大きめの瞳も、
シャギーの入った髪も、
子供のような瑞々しい雰囲気も、
何もかもが同じで、全てが違うと言うのに。
だがこの、どうしようもない想いは只一つでしかあり得なかった。