その2


「──────ごめんね、アキト。」

嗚呼、何故。

「──────もう、限界なんだ。」

嗚呼、どうして。

「──────でも、やっぱりダメだったから。」

どうして、こんなことに。

「──────ホントに、ホントにダメだったから。」

どうして、そんなに嬉しそうに。

「──────ごめんね、アキト。」

どうして、そんなに悲しい涙を流すのか。

「──────わたし、頑張ったんだよ?」

わからない。

「──────頑張ったんだけど・・・・・・やっぱり、ダメだったの。」

わかりたくない。

「──────だから、お願い。」

わかりたくなんか、ない。

「──────忘れないで。」

わかりたくなんか、ないんだ─────────!

「──────わたしのことを・・・きゃあっ!?」


気が付けば。

彼女をぎゅっと、抱きしめていた。

もう二度と。

もう二度と、離さないように・・・・・・・・・


          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・いくな・・・・・・」

彼女の耳元で、アキトは囁く。

どうしようもなく小さく、どうしようもなく震える声で、精一杯囁く。

英雄でもなく、勇者ですらない、ただのアキトが其処にいた。

彼女にはそれが、わかっていたから。

誰よりも、わかっていたから。

だから彼女は、言った。

全てを込めて。

「・・・うん。何処にも、行かないよ。わたしはいつでも、ずぅっとアキトといっしょ。」
「・・・ホントに?」
「ホントに。」
「・・・ホントのホントに?」
「ホントのホントに。」
「・・・ホントのホントのホントに?」
「ホントのホントのホント。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ぷっ。」
「・・・・・・ぷぷっ。」

抱き合ったままで、思わず吹き出しかける。

少し躰を離して、お互いの瞳を覗きあう。

そこに映りこむ、万感の想い。

本当にいつまでも、この時が続けばと心底思う。

たとえそれが、叶わぬことであったとしても。

「なあ・・・」
「アキト。」

何かを言いかけたアキトを遮って、彼女が口を開く。

「・・・ありがと、アキト・・・わたし、すごく嬉しかったよ。」

ゆっくりと後ずさりながら、それでも彼女は微笑みかける。

アキトにしか見せない、アキトだけの太陽を。

「だからもう、わたしは大丈夫・・・・・・いつまでもずっと、アキトの傍にいられるよ」

アキトは呆然と、僅かずつ小さくなって行く彼女の姿を、見送ることしかできなくて。

ただ、涙を流すことしかできなくて。

「だから・・・・・・ね? 泣かないで?」

ちょっと困ったような、ちょっとだけ哀しい笑み。

彼女は知っているのだろうか、自らの頬を流れるその涙を。

「わたしは本当に、いつでもアキトの傍にいるよ。」

それでも彼女は微笑んで。

慰めるでなく、偽るでもなく。

本当に心から微笑んで。

「だから・・・・・・泣かないで。」

彼女の声が、奥まで透る。

躰の芯まで、魂の底まで。

「だから・・・・・・忘れないで。」

嗚呼、彼女の姿がもう霞む。

桜吹雪の、光の奔流が彼女を連れて行く。

「そしたら、ずっと傍にいれるから。」

連れて行って、しまう。

「・・・・・・・・・だから・・・・・・・・・」








































「今は、ばいばい。」










































          ◇          ◇          ◇


「・・・・・・ごめんなさい。」

ぺこり、とエリカ・フォンティーヌは頭を下げた。

「・・・いえ、いいんです。ありがとう、ございました」

対するアキトは無表情に、深々と礼をした。

名残惜しそうなエリカであったが、それ以上は何も言わずに立ち去った。

その気配がなくなるまで、アキトは立ち尽くしていた。

・・・・・・どのくらい、そうしていただろうか。

握り締めた拳から滴る血が、小皿ほどの溜りを作っていた。

そして。

ぶぁっ!

アキトはその拳を振り上げ、サクラの幹に殴りかかった!

だが。

鋼をも砕くその拳は、寸前で止められていた。

拳をほどき、掌を当てる。

・・・・・・そのまま暫しの時が過ぎ。

アキトは手を離すと、きびすを返して歩き始めた。

その足取りは、ほんの少しだけ。

今までよりも、力強く。

少しだけ、迷わなくなっていた。


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