ネルガル・コアネットにはネルガルという企業のすべてがある。
それはネルガルの記憶といってもいいだろう。ネルガルという企業体が生まれ成長してきた歴史のすべてがそこに存在するのだ。
そしてネルガルに所属するすべてのヒトと人工知性を接続し、有機的に運営するための神経網でもある。それはネルガルという巨大な生命体を制御する脳髄だった。
会長専用艦<エウカリス>からボソン通信網を利用した専用ゲートを通り、カナタはその巨大な脳髄を目の前にしていた。
でたらめに結びつきあいながらも、一定の理論の下で同調しながら活動を繰り返す、光の糸で編み上げられた蜘蛛の巣――電子の世界へと視覚をシフトしているカナタには、ネルガル・コアネットがそう感じられた。
しかしこの巨大な巣を作り上げた蜘蛛は、どこか狂っていたに違いない。そこには自然界の同属が作り上げるような整然とした美しさは存在せず、ただひたすら巨大に膨張してしまった歪さだけがあった。
「でっかいね」
『うん……』
ミライもどこか呆とした声色だった。ミライの電子戦能力はカナタの軽く倍以上。おそらくカナタ以上に、ネルガル・コアネットの深遠を感じているはずだ。
カナタは迷いを振り切るように首を振った。
「大きかろうがなんだろうが、どうでもいいや。知りたいことなんてひとつだけだからね。ミライ、メインデータベースへのアクセス経路は見つかった?」
『うにゅ……待って……にゅにゅ……うにゅ……にゅ』
おそらくマシンチャイルドとしての能力をフル稼働させているのだろう。カナタの肩に乗った二頭身のちびミライは、制御を失ったロボットのような不自然な動きで身体を揺らしていた。
ディフォルメされた巨大な瞳の中に、「0」と「1」が行列になって行進していく。
この、ふざけたぬいぐるみのような姿がミライだった。
カナタのサポートに徹しているミライは、最低限のコミュニケーション手段として、この姿を選択したのだ。
『うにゅにゅ……さすがにネルガルの中枢だね。すっごく厳重でなかなか――』
「0」と「1」が、ちびカナタの眼の中でぐるぐると渦を巻いている。
「って、どうすんのよ」
『うにゅぅ――。じゃあ、コアネットにエージェントをばら撒いてみようか』
ちびミライがぴょんとカナタの肩から飛び降りた。
エージェントとは、自立的に活動してネットワーク内を渡り歩いていく能力を持ったプログラムのことだ。広大なコアネットを自力で探索することを諦め、自立行動するプログラム群を放とうというのだろう。
『しゅーごぉ!』
甲高い笛の音が鳴り響いた。ちびミライの口元に笛がくわえられている。
「――うげっ」
イヤな光景だった。
同じ顔をしたミライたちが、わらわらと集まってくる。右を向いても左を向いても、どこもかしこもミライ、ミライ。
「見たくない……見たくないよ、こんなのぉ」
眼をつぶっても、まわりをうにゃうにゃという楽しそうなざわめきで取り囲まれているのがわかる。自分がいま、どんな状況におかれているのか、想像するのが恐ろしかった。
『どうしたの、カナちゃん』
「な、なんでもない。早くやっちゃって!」
『へんなの。じゃあ、キミたちは12番ゲートから先の探索ね。で、キミたちは――』
ミライがエージェントに指示を出しはじめた。「うにゅっ!」という復唱と共にパタパタと走り去る足音。
「あー、やだ。鼠の集団とか、昆虫の集団とか、同じ生物が一杯集まってるのって、なんかせーり的に苦手だよ。鳥肌がいぼいぼぉ」
きつく眼をつぶったままぶつぶつとカナタ。足元を何かが軽く触れて走り抜けるたびに、その背がピクリと震えていた。
しばらくすると周りを取り囲んでいたモノの数がずいぶん減ったような雰囲気だった。そっと薄目を開いてみる。
『――最後のキミたちは、32番ゲートね。メインデータベースへのアクセス経路が確定できたら戻ってくること。それじゃ、いってらっしゃぁい』
仲良く手を振り合いながら、最後のミライたちが走り去っていくところだった。小さな手で、光を放つ糸に次々と触れていく。
光の糸という形で視覚化されているのは、ネットワーク内の通路だった。ネルガルの企業構成を模して個別に細分化された部門単位のネットワークが、この糸で相互に結ばれているのだ。
糸に触れたミライたちは、光の集合体となって、飛び去っていく。
「やっといなくなった……よかった」
『どうしたの。やっぱヘンだよ、ねえ』
「なんでもないよ。へーき」
ミライたちが気色悪かった、とはさすがに言えない。話題を外らす。
「で、どのくらいで結果が出そう?」
『コアネットの全体像が把握しきれてないもん、よくわかんない。それを調べるのもエージェントを放った目的だし』
「そりゃそうか。でっかいもんね、ここって。ちょっと一企業のローカルネットだとは信じられないくらいだよね」
『うん……。もしかすると、火星全体を合わせたマルス・ネットに匹敵しちゃうかも』
「まさか」
つい笑ってしまってから、ミライが本気だと気づいた。
「……ホントに?」
『うん。そのぐらいの手ごたえがある。マルス・ネットが火星の表の顔だとしたら、ネルガル・コアネットは火星の裏の顔だよ。――おかしなことを言うみたいだけど、マルスもネルガルも、どっちも火星のことなんだよね』
マルスはギリシア神話やローマ神話の軍神、そしてネルガルはオリエント神話の疫神の名であり、それぞれ時代は違うものの、火星を表す名として使われたことがある。
ネルガルが火星の裏の顔というミライの言葉は、奇妙に説得力を持っているように感じられた。
「でも……でもさ、そんなでっかい裏ネットワークを作って、ネルガルになんのメリットがあんのよ」
『想像だけど……マルス・ネットは地球連合の監視下にあるから、それから逃れるために独自のネットワークが欲しかったのかもしれない。そう考えるのが一番自然だよ』
ネルガルが地球の監視の眼をくらますために、火星全域に張り巡らせた、もうひとつの火星の情報網、ネルガル・コアネット。
もし本当にそんなものが存在するとすれば、ネルガルの目的はなんだろうか。カナタは奇妙な胸騒ぎを感じていた。
「……やっぱり、火星を支配しようとか考えてんのかな。なんだか、悪の秘密結社って感じだよね」
『ネルガルって、火星経済のほぼすべてを掌握してるんだよ? 実質的には、とっくの昔に支配者みたいなもんだよ。いまさらそんなことするわけない』
ミライのくせに、なんだか生意気な口ぶりだった。
『――どちらかというと、外敵への備えとか……そんなふうに考えたほうがいいような気がするんだ』
「外敵? 木連とかみたいな?」
『うん。そして、火星にとっての外敵になり得るのは、たぶん――』
「たぶん、なに」
『――――うにゅ』
転びそうになった。ふざけてるのか、こいつは。
『……そんなわけないよね。あはは』
「なにひとりで納得してんのよ。外敵ってなに」
『うにゅにゅ。笑わない?』
「笑わないから言いなさい」
『うーん。そのね……たぶん――地球』
「地球?」
馬鹿げている――はずだ。
たしかに火星産児育成法などといった地球連合による強引な政策は、火星の人々に地球を敵対視させる要因になっている。
さらにナノテクノロジーや遺伝子改良に対する地球との意識の食い違いは、深刻な亀裂を産みだそうとしていた。
火星はテラフォーミングが進んでいるとはいえ、当然ながら地球とは環境が違う。そこで生活する人々にとって、ナノマシンや遺伝子改良は生きていくために必要な技術であり、それがなくとも適応できる地球とは根本的に違うのだ。
しかしそれを理解することのない地球は、それらの技術を忌避した。とくに自分の身体を改良することに対する嫌悪は根深く、生活のために自らを改良する火星人を、地球の人々は一段下の存在として見下す風潮が色濃い。
まだ表立った活動は目立たないものの、極左的な反地球組織も活発化しているとも聞く。だからといって、その活動にネルガルが手を貸すなどということがありえるのか。
仮に火星が地球に対して反旗を翻した場合、ほとんど即日のうちにその活動は圧殺されてしまうだろう。
火星には軍事力が存在しない。正確には統合軍の艦隊が常駐しているが、その矛先は火星を守るためではなく、火星そのものへ向けられているのだ。
それともネルガルはそれに対抗するだけの戦力を手にしているのだろうか。そうでなければ、抵抗運動など自殺行為だ。
……いや、そのための下準備がネルガル・コアネットなのかもしれない。
直接の軍事力よりも、信頼に足る情報網。規模こそ違うが、抵抗運動の組織作りとしては、ごく順当な手順なのではないか。
……考えすぎて、目眩いがしてきた。
「……ちょっと納得しちゃいそうな自分がヤダ。でも、そんなことあるわけないよ。戦争になったら、たくさんの人が死んじゃうんだよ? そんなの誰だってイヤだもの」
『うにゅ。ボクもそう思うよ……でも、現実にはそれでも戦争は――』
ミライが小さな身体を震わせた。大きな眼がさらに大きく見開かれる。その琥珀色の瞳が、光の糸から実体化しようとしているミライ・エージェントを映していた。
エージェントはその構成データの大半を食い千切られ、無残な姿をさらしていた。
『うにゅ!』
ミライが今にも消えてしまいそうなエージェントに駆け寄る。エージェントの残骸は、伸ばしたミライの手の中に吸い込まれて消えた。エージェントの集めたデータを吸収したのだ。
「どうしたの」
ミライの琥珀色の瞳に一瞬の狼狽が走った。
『逃げて、カナちゃん! 攻性チェイサーが来る!』
エージェントの記憶に何を見たのか、ミライが叫んだ。ミライが叫ぶなど、カナタをして初めての経験だ。
マズイと思う間もなく、“それ”は仮想空間に出現していた。
漆黒の外皮をもつ蛆。
濡れ光る外皮をいやらしく震わせ、ずるりと空間に湧き出ると、それは一気にカナタを包み込むように広がった。
カナタは悲鳴をあげる暇さえなく、その闇に飲み込まれていた。
「ここ……どこ」
目の前に広がるのは、微風に揺れる草原。
地平がざわざわと意思あるように波打つ。
気持ちがいい。なんだか、身体の中から洗われているようだ。空気が美味しいからだろうか。
上を見上げると視界の半分を青と緑が分けあっていた。
青は空。緑は巨大な樹だ。
こんなに大きな樹なんて見たことが無い。こうして見上げているだけで、安らぐ気さえする。
ごつごつとした幹の中を、大地から水が吸い上げられている音が聞こえる。聞こえるはずのない音なのに、それは人の鼓動のように力強く響いていた。
「なんか……落ち着くなぁ。眠い……」
重い目蓋を下ろそうとしたとき、聞きなれた声に名を呼ばれた。
『カナちゃん、寝ちゃダメだよ! なんでこんな状況で寝られるのさ! カナちゃんってば』
ぺちぺち、と頬の辺りがうっとおしい。
「うるさいなぁ。眠いんだってば。邪魔しないでよ」
手で追い払う。
『うにゅうっ――!』
何かが、ころころと転がっていったような……気のせいだろう。
『……ひどいよ、なにすんのさ。カナちゃんがその気ならボクだって――にゅっ!』
ずぼっと鼻の中に何かが差し込まれた。
「――っくしゅ! うわわ、なに、なに!?」
慌てて眼を開くと、小さなミライが腹の上を転がっていた。どうにか立ち上がり、満面の笑みで手を振ってくる。その手が、どういうわけか濡れて光っているような……。
「あ……あんた、女の子に、まさか……」
思わず鼻を押さえて狼狽してしまう。頬が熱かった。
『うにゅう? なんのことぉ』
ミライはヘラヘラと笑っていた。ものすごく憎ったらしい。握りつぶしてやろうかと本気で考えていると、ミライが真面目な口調に戻った。
『カナちゃん、ブラックハウンドにやられかけたんだよ。覚えてないの?』
「……ブラックハウンド?」
『攻性チェイサー。アンチ・マシンチャイルドのトラップだよ。あれに捕まったら、マシンチャイルドはノーミソ焼かれちゃうからね、危なかったんだよ』
あれ? と思う。
そういえば、なんか凄く危ない思いをしたような。
「あっ! そうだよ、なんであたし、こんなとこにいるの? なんでミライ、ちっちゃいままなのよ!?」
なんというか、この草原は仮想現実とは思えないリアルさだ。それなのに、ミライは仮想世界用の二頭身の姿だった。
「もしかして、ここってまだバーチャルの世界なわけ?」
『そうみたい。ボクたちが使っていた、オモイカネ・クローンが抽象化してるんじゃないよね。すごくリアルだもん。ここまでの処理ができるのって、たぶんオモイカネ・オリジナルだよ』
だからといって、鼻の穴の感触まで再現しなくてもいいだろうにと思う。
「どこのオモイカネだろう。やっぱりネルガル本社のかな」
『……訊いてみるのが早いと思うよ。だってここ――オモイカネの自我領域だもん。そこのでっかい樹が、オモイカネの自我だよ』
「――えっ!?」
驚いて、巨木を見上げる。枝がざわざわと揺れた。まるで生きているかのように。
「これ、オモイカネなの!? だって――」
『うん。こんなにでっかくて複雑に成長したオモイカネの自我なんて始めて見たよ。これに比べたら、ボクたちの知ってるクローンなんて、雑草以下だよね』
「うわぁ、すご――」
その見事さに、呆然と見上げるしかない。これだけ複雑に成長したオモイカネというのは、どこまでの性能を示すのだろうか。それに、ここまで育て上げたオペレーターはいったい誰なのか。よほど優秀な人物だったに違いない。
「コミュニケーションできるの?」
危機感を好奇心が上回った。いきなり脳神経を焼かれるようなことさえなければ、いつだって逃げることは可能なのだ。ただ単に、IFSコンソールの上に置かれている手を、すこし動かすだけでいい。
それがマシンチャイルドの利点だったが、そんなマシンチャイルドにも対抗できるように開発されたのが、攻性チェイサー「ブラックハウンド」だった。
IFSを使用し、ハードウェアとウェットウェア(生体)を直結しているマシンチャイルドは、このブラックハウンドに捕まると神経系を過電流によって焼かれてしまう危険性がある。
カナタもそうなっていたはずなのだ。それなのに、なぜか巨大に成長したオモイカネの自我領域にいる。なにが起きたのか、知りたかった。
『たぶん話しかけるだけでいいと思うよ。返事は、むこう次第だけど』
樹に話しかけている自分を想像して、そのメルヘンぶりに恥ずかしさがこみ上げた。不思議の国にでも迷い込んだ気分だ。
それでもやるしかない。
「えっと、オモイカネ……さん?」
なんとなく敬語になってしまう。
「あたしたちに、何か用ですか。それとも、もしかして助けてもらっちゃったんでしょうか。――というか、まさかと思うけどあたしたちを尋問しようとか? だったら、逃げますけど」
害意は無いという、不思議な確信がある。なぜだろうか、この自我領域はずっと昔から馴れ親しんできたような雰囲気があった。
「帰ったほうがいい」
予想外なことに、その返答は女性の声だった。
いや、女性のイメージだったというべきだろうか。
オモイカネの自我に、性別などない。人間とは著しく異なるその思考は、擬人化することなど害にしかならないからだ。
「なぜ、コアネットに接触した。危険なのに」
そこに至ってようやく、大木の幹に寄り添うように立つ、女性の姿があることに気づいた。
それは童話の挿絵から抜き出してきたかのような光景だ。
全体に色素が不足したかのような外見に、琥珀色の瞳。自分たちと同じマシンチャイルドだと気づかなければ、妖精でも現れたかと信じたくなる、幻想のように儚い女性だった。
突然の出現に言葉を失っていたカナタだったが、会話の相手としては遥かにましな相手だと思い直した。
「――えっと、誰?」
「わたしはラピス・ラズリ」
切り捨てるような喋り方だった。
ラピス・ラズリ。このオモイカネを育て上げたオペレーターなのだろうか。だとすればネルガルの関係者だ。コアネットに忍び込んだ自分たちにとっては、もっとも会いたくない人間だといえる。
しかし、女性の発言は、まったく逆のものだった。
「コアネットには接触しないほうがいい。帰りなさい」
「あなたはネルガルの人じゃないんですか?」
カナタの疑問に、女性は、傍らの樹の幹を撫でながら答えた。
「あなたたちが攻性チェイサーにやられかけていたので、この子に守らせただけ」
「そのことは御礼を言います。助かりました。でも……あなたはいったい何者なんですか。ネルガルの関係者でないなら、いったい……」
「わたしはラピス・ラズリ。ネルガルの影。――もう帰りなさい、カナタ」
衝撃だった。
この女性は自分のことを知っている。
「待って! あなた、あたしのことを知ってるの!? 教えて、あたしは自分のことが知りたくてここまで――」
「帰りなさい。そこであなたの母親が待っている。なにもかもその人に教えてもらえるはずだから」
アイが待っている――
自分の知らないところで、なにかが進行しているのだろうか。言葉を失うカナタに、女性は急きたてるように言った。
「急いで。“大途絶”が始まる。もうあまり時間がないの。このボソン通信回線も、すぐに使えなくなってしまう。早く帰って、そして教えてもらいなさい――あなたが生まれた理由を」
『帰ろう、カナちゃん』
ミライだった。
『この人の言うとおりだ。なんかおかしいよ。ボソン通信のタイムラグが大きくなっているみたいなんだ』
「どういうこと」
『ボソン通信って、光速の制限を受けないから、通信にラグは発生しないはずなんだよ。それなのに、さっきからどんどん通信時間のズレが大きくなっているみたいなんだ。ヘンだよ、なんか……なんかおかしい』
ミライの声に焦りの色があった。
「あなたはミライね」
女性はどこか優しい口調で言った。
「あなたも自分のことが知りたくなったら、またここに来ればいい。あなたの疑問には、すべてこの子が答えてくれる」
オモイカネの幹に白い指を滑らせる。
「行って。わたしも戻らないと。アキトが呼んでる」
その言葉を最後に、女性の姿は幻だったかのように宙に消えていた。
『……行こう、カナちゃん』
「なんだか夢で見ているような、ヘンな気分。ホントに不思議の国にでも迷い込んだのかな」
『ボク、そういうの嫌いだよ。あの人、アキトって言ってた。カナちゃんのこともボクのことも知ってた。アイさんのことも知ってるみたいだった。ボクたちとどこかで関わりのある人なんだよ。帰ってアイさんに訊けばわかるかもしれない。今は早く戻るべきだ』
「そうね……そうかも。ミライ、あんた、意外と頼りになるね」
『うにゅ。ボク、男の子』
二頭身のぬいぐるみモドキが胸を張る姿に苦笑しながら、カナタは予想外の展開に混乱する思考をもてあましていた。
三日前までは、こんなことに首を突っ込むことになるなど想像もしていなかったのだ。それなのに、いまでは引き返すには、あまりに多くの疑問を抱えてしまっている。
このまま自分の未来はどこに加速していくのか。
その答えは、母親のアイが握っているのかもしれない。