サレナ 〜希望の花〜 第三話 Bパート |
「艦長は大丈夫ですか?」
「いえまだだめです。
まぁ後方にいれば敵の心配はしなくてもいいでしょう。
時間が経てば落ちつくでしょう・・・・」
医務室から戻ったプロスさんに、ジュンが艦長の様子を聞いた。
ライバルがいなくなったのだが、その顔は青い。
「救助の方は・・・・」
「まだ戦闘が続いていますからね・・・
あれから約半日、もう絶望と見て間違いないでしょうね。」
メグミもジュンよりも青い顔で、プロスに聞いた。
だがプロスは顔を横に振り静かに答えた。
「・・・・私がもう少しちゃんとやっていれば」
『ルリは悪くない、ナデシコに手一杯でしかたなかったよ。』
ルリもさすがに応えているようだ。
クラッキングの対処などはオペレーターの仕事だ。
その責任を感じているのだろう。
「ありがとうオモイカネ。」
しかし、その顔に笑顔はない。
「・・・・アキトさんもう帰ってこないんですか?」
メグミは、絶望的な状況をいまだ信じることが出来ないようだった。
「メグミちゃん・・・・大丈夫?
医務室でしばらく休む?」
ミナトが憔悴しきったメグミを見て、メグミに声を掛ける。
ビーービーーー
と突然、アラームがナデシコに鳴り響いた。
!!!!
「敵です。
前線から抜け出したチューリップがこちらに向かってきます!!」
ルリはすぐさま状況を知らせる。
「え?」
突然の事態でジュンは、とまどっている。
しかし仕方のないことかも知れない。
ここにいればナデシコは安全なはずなのだ。
「前線の艦隊到着まで間に合いません!!」
メグミが叫び声に近い声で、前方艦隊から状況を伝える。
「チューリップからジョロ、バッタ多数出現」
「後方艦隊攻撃開始しました!!」
「ダメ後方艦隊だけでは対処できません!」
「ジョロがこちらに向かってきます!!」
「ミナトさん急いでここから離脱!!」
ジュンは撤退を決めた。
「だめよ、エンジンの応急処置でここから動かせない」
ミナトが首を振る。
そう現在、エンジンの応急処置中で相転移エンジンは使えない。
また、融合炉も主力が低下しており艦内の維持でほぼ精一杯だ。
「ディストーションシールドは・・・」
「だめです同じく応急処置中で出力安定しません。
今のナデシコは艦の姿勢制御だけで精一杯です。」
ルリは絶望的な状況下で全く表情に変化がない。
それはテンカワ アキトの死で、死という物に対して麻痺してしまったのかも知れない。
感情を表せない少女は、テンカワ アキトの死を無表情に受け止めながら
心の奥底では嘆き悲しんでいたのだろう。
「くそぉ!!」
ジュンは何もできない自分に腹が立ち、コンソールを思いっきりたたきつける。
「ジョロ攻撃態勢に入りました。」
ルリは無表情に報告を続ける。
「くるぞぉ!!」
今のジュンには叫ぶことしかできない。
「きゃぁぁぁ!!」
ほぼ全員が地面に伏せる中、ブリッジに叫び声が響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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「あれ??」
「なに・・・もう天国?」
だがいつまで来ない衝撃に待ちきれなくなったクルー達が次々と頭を上げた。
「・・・・違います。本艦とジョロの間に未確認の機動兵器確認。
ジョロの攻撃は機動兵器に当たったようです。」
ルリだけは敵の攻撃の時も全く席を動かなかった。
いつもの声で状況説明をする。
「え?
だれか助けてくれたの?
でも、その人は・・・・」
そうだろう、ジョロの一斉攻撃ではさすがにただではすまない。
ナデシコクラスの船ならば何とかなるが、コスモスは遙か遠く前線で
戦っているのだから・・・・
「健在です。
未確認機動兵器周囲に強力なディストーションフィールドを展開しています。
出力はナデシコの5倍以上・・・・」
それは信じられない事だ。
ネルガルの最新鋭であるはずのナデシコを大幅に越えている。
確かに約8ヶ月タイムスリップしたとしても、ナデシコを遙かに越えている。
それになりより重要なことがある。
それほどのディストーションフィールドを機動兵器が作り出していると言うことに・・・・
「うそぉ〜〜」
まさに誰にも信じられない状況だった。
「未確認機動兵器から通信です。
つなげますか?」
だがルリは淡々と仕事をこなす。
まだ腰を抜かしているジュンの横で・・・・
「ああ、たのむよ」
ジュンは何とかコンソールに手をついて起きあがろうとする
「でわ・・!!」
と、今まで無表情だったはずのルリの顔が険しくなる。
当然そのルリの表情にみんなが注目する。
「どうしたの?」
ミナトが声を上げた。
ルリが驚くほどの事態は全く予想できない。
「ナデシコがクラッキングされました。
強制通信されます。」
ルリは悔しそうな顔で報告をする。
「え??」
まさにクルー達には何がなんだか分からない。
「おい・・・大丈夫か?」
ウィンドウには、ついさっきまでナデシコにいたあの少年があった。
「ア・・・・アキトさん!!」
メグミが『信じられない』といった顔で声を上げた。
「いや・・・ただいま。」
アキトは少し照れていた。
「おいアキト、今乗っているのは何だ!!」
リョーコが、声を上げた。
アキトが生きていることも信じられないが、その機動兵器がリョーコの目に留まった。
たぶんアキトはあそこから通信しているのだと気がついたのだろう。
「リョウコちゃん大丈夫だった??」
アキトはボロボロのナデシコが心配のようだ。
外部から見ただけではどれだけの被害があるのか完全に把握できないのだろう。
「あたりまえだ!!
おまえは勝手にどっかいっちまうし。
心配してたんだぞ!!」
リョーコの目が潤んでいる事に、横にいた二人は気がついたようだ。
だがここで下手にちゃかすのは野暮という物・・・・
「アキト アキト アキト ・・・
ホントにほんとにアキトなんだよね!!」
と突然の大音響がナデシコに響いた。
「ユリカ・・・・ごめん
急にエステバリスが動かなくなって・・・・
それから救助を待っていたら、こんなエステが迎えに来たんだよ。」
「はぁ?」
アキトは必死になって説明しようとするが、クルー達は理解できない。
「・・・・わかんないよね?
自分も半信半疑だし
・・・・・
よし、後で話すから俺はこれからあのチューリップを何とかするから!!」
現在黒い機動兵器はナデシコをねらったジョロを牽制している。
まだ話し合いが出来る状況ではなかった。
「なんとかって・・・・どうするんだよ!!」
リョーコが叫んだ。
機動兵器一機で何とかなる状況じゃない。
「・・・・ううそんな事どうでもいいからアキト帰ってきてよぉ。」
ユリカは、とにかくアキトに会いたいようだ。
戦況も何も関係ない。
「あのなぁあのチューリップがあればナデシコが破壊されるだろう?
あれを破壊しないと・・・・」
「無理だよ、この近くに戦艦はないんだよ!!」
ジョロを機動兵器で倒すのは難しい。
ナデシコのエステバリスはすべて修理中で出撃不可能。
アキトが機動兵器に乗っているが、アキトの技量では破壊は不可能なはずだ。
「ブラックサレナがある。」
アキトが答えた。
「ブラックサレナ??」
だがクルー達には何がなんだか分からない。
「このエステの名前だよ。
じゃぁまってろ!、すぐに終わると思うから。」
そのまま牽制していた機動兵器「ブラックサレナ」が攻撃態勢に移った。
「うぅアキト死んじゃイヤだからね。」
ユリカは王子様をただ見送るしかできない。
「大丈夫だよ・・・・たぶん
サレナ・・・ホントに大丈夫なんだよな」
アキトも実は不安のようだ。
サレナという人物に確認をしていた。
・・・・・・・
・・・・・・・・・・
「サレナって誰?」
サレナという謎の人物名に女性陣が反応した。
「よし、行って来る!!
でもその前におまえがじゃまだぁぁ」
そしてブラックサレナはナデシコをねらったジョロに一直線に向かっていく。
「うぉぉぉぉぉ」
ジョロはブラックサレナに向かい激しく攻撃を加えるが全く効果がない。
「落ちろぉぉ」
ブラックサレナが放った銃口から激しく火花が飛び散る。
ズドォォ〜〜ン!!
「すごい・・・」
「これは・・・とんでもないエステバリスですね。」
「うわぁ、ジョロってあんなに弱かったっけ?」
みんなが感心しているとコックピットでアキトの悲鳴が聞こえた
「はぁ0点??そりゃないよサレナさん・・・・」
一人間抜けな悲鳴がナデシコのブリッジに響いた。
『ところでサレナさんってだれ?』
女性陣は戦闘とは完全に別の問題を注目していた。
「次はせめて35点以上は・・・・」
そう言い残し黒い機体はチューリップに一直線に飛んでいく・・・・
「赤点回避ですか・・・・しかしあれほどの力で0点とは・・・」
いままともブラックサレナのこと考えているのはプロスさんかも知れない。
『だから・・・・サレナさんって・・・・誰????』
女性陣の疑問は別なところにある。
いまは目の前の機動兵器よりも、たぶん女性の「サレナ」
という人物が謎なのだ。
「うう、アキトぉ、死ぬのはイヤだけど浮気もイヤだよぉ〜〜。」
『艦長 まだつき合ってないでしょう(だろう)』
ユリカはたまらずアキトに泣きついたが、
ユリカの言った問題発言を黙って聞いている女性陣ではない。
艦長の独り言に通信士を中心とする女性陣の鋭いツッコミが放たれた。
(その中にオペレーターがふくまれていたとかいないとか・・・・)
「ん〜〜、なにやらいつものナデシコに戻ったようですねぇ。」
「うむ」
プロスは元のナデシコの雰囲気が戻ってきたブリッジを見ながら嬉しそうに見た。
そのころの黒いエステバリス内 (ブラックサレナコックピット)
「うう〜〜なんで0点なんだよぉ。
ジョロは確かに倒しただろう?」
アキトはささやかにサレナに抗議した。
「しかしジョロからの攻撃が全弾命中していました。
普通のエステバリスでは100%撃墜されています。」
だがサレナは全く取り合わなかったようだ。
「でも全然効いていなかったじゃないか!!」
だがまだアキトは納得できない。
「私はあくまであなたのサポートなんです。
私が倒したのではダメです。あなたが倒さなくては・・・・」
あのジョロはほとんどブラックサレナの性能で倒したような物だ。
普通のエステバリスなら不可能だろう。
「う・・・でもこれ乗るのは初めてなんだから無理だろう!!」
「操縦系はエステバリスと変わりませんが・・・・
そうですね、まずはお手本というのがよいかも知れませんね。」
まだブラックサレナという化け物に振り回されている今のアキトでは、
乗りこなせというのが無謀かも知れない。
その意見はさすがに、サレナも納得したようだった。
「ああ、そうしてくれよ」
「わかりましたマスター。
操縦システムを一時私に委譲してください。」
『あくまで私はサポート』なのだから、操縦権限を移動するにも
パイロットの許可が必要なのだ。
「わかったよ」
アキトはすぐに了承した。
自分が言った手前、許可するのは当たり前だしそれに
このブラックサレナという機体の真の力を見てみたかったのだ。
「ブラックサレナはこれより自動コントロールに入ります。」
「うわっ、うわっ、うわぁぁぁぁぁぁ」
サレナが、ブラックサレナのメインAIのコントロールに入った事を伝えた途端
すさまじいGがアキトを襲った。
一方ナデシコでは・・・・
「あれ?なんかの・・・・何だっけ?
黒いエステバリス動きが変じゃない?」
最初にブラックサレナの異変に気がついたのはミナトだった。
操縦に長けたミナトだから、今までとは全く異なった動きをするブラックサレナに、
気がついたのだろう。
「ブラックサレナだそうです、ミナトさん。
アキトさんの乗り方とは、パターンが異なります。」
「いや・・・しかし、こっちの動きの方がしっかりしていますなぁ。」
プロスが今のブラックサレナの動きの感想を述べた
「ああ、どうしたんだアキトの野郎。
とたんに動きが早くなりやがった。」
「それに結構うまいよぉ〜〜。
私たちのエステバリスじゃぁあんな事出来ないよねぇ」
「・・・・ネタが思いつかない・・・つかれてるわね私・・・・」
パイロット達も次々と感想を述べる。
いずれの感想も、今の動きを誉める物だった。
「ルリちゃん、今向こうのエステに通信つなげられる??」
心配になったメグミが、ルリに通信をつないでもらうように頼んだ。
「やってみます・・・」
「接続開始・・・・・接続成功しました。」
ルリの顔にIFS特有の幾何学模様が浮かんでしばらくして、
オモイカネが成功の知らせを言った。
すぐにウィンドウに、アキトの様子が映る。
ウィンドウには絶叫しているアキトがうつっていた
その顔は苦痛にゆがみんでいた。
「うぎゃぁぁぁ」
「アキト!!」
「急加速に耐え切れてない??
大丈夫かなぁ・・・・」
「ふっ、大丈夫よ。
私たちが初めて乗ったときのことを思い出すわ。
無茶な教官が戦闘機でぎりぎりのGを体験させてくれたこと・・・。
つぶれたお坊さんとバッタ・・・・
つぶれた僧 バッタ ・・・・
つぶれそうだった・・・」
いきなりの映像に、驚くリョーコだが他のパイロット達は冷静に見ていた。
アキトは圧倒的な機動力を秘めたブラックサレナの中で、高Gで苦しんでいるのだ。
あれだけの動きをすれば間違いなくジェットコースターを遙かにしのぐGを、
ジェットコースターの搭乗料を払うことなく体感することが出来るだろう。
「くるしいな・・・・
今のアキトもお前のギャグも・・・」
リョーコもそれに気がついたようで平静を取り戻した。
「いったでしょう? 今、調子悪いの。」
「だったら無理するなよ・・・・」
格納庫での話はウィンドウをとおしてブリッジにも聞こえていた。
それによりアキトがGで苦しんでいるのであり、命には別状がないことがわかり
ブリッジにも安堵のため息が聞こえた。
「アキト!! ムチャしないで・・・・」
だが、いまだ医務室ではユリカが声を上げていた。
「おれがムチャしてるんじゃない!!
サレナさん もう少し穏やかに・・・・・」
「アキト!!
私という物がありながら!!
うぅぅ、今までアキトのことだけを思っていたのに・・・・
早く帰ってきてよぉ」
ユリカはとうとう我慢できなくなったようで、完全に誤解をしていた。
「くっ・・・だから・・・・今サレナさんが・・・・」
今のアキトではサレナについて説明出来ない。
一刻一刻と女性陣の誤解が膨らんでいた。
「うぅ〜〜」
みんなの誤解が膨らむ中、今のアキトは強烈なGに耐えることしかできない。
「あのぉ・・・・サレナさんって誰です?」
とうとうルリも我慢できなくなったようだ。
最もルリは単純にサレナという人物に興味を持っただけだろう・・・・
「くぅぅぅ」
アキトは高Gの中全く喋られなくなった・・・・。
だから、誰も答えようがない・・・・はずだった。
「私ですか?」
と突然ウィンドウから見知らぬ女性の声が聞こえてきた。
「あなたが・・・・サレナさん?」
「はい、オモイカネシリーズ ブラックサレナ搭載AI サレナです。
はじめまして。」
それがサレナの最初の挨拶だった・・・・