サレナ 〜希望の花〜 第二章 第三話 Bパート

 

「・・・・さすがに町から近いですねぇ・・・・」

「・・・・まさか、グラビティーランチャーなんて・・・・」

はっとするアキト。

ここでそんな物を撃てば、間違いなく町に被害が出る。

町をねらわなければよいのだが、アキトにはまっすぐに撃つ自信がなかった。

 

「残念ですけど今回は持ってきてませんよ?」

「・・・・ふぅ。」

これで少なくとも町を破壊する悪者にはならなくて済みそうだ。

常々アキトはこのパイロットスーツが悪人のようなので

変えて欲しいとサレナやイネスにお願いしているのだ。

だが、サレナががんとして受け付けないのでこのままなのだが……。

 

 

「ほいほ〜〜い。アキト元気?」

「・・・・なんだよ、ユリカ。

お前もちゃんと仕事しろよ。」

アキトは最近ユリカが仕事しているところを見ていないので、

マジで仕事しているのか心配になっていた。

まぁ見えないところで仕事をしているのかも知れないが、

アキトが見えた途端に暴走するので、仕事をしている姿を一度として見たことはない。

まぁ、パイロットだからナデシコのブリッジの風景を見ることはまずあり得ないのだが。

 

「うぅぅぅ〜〜、アキトがイジメるぅ。

ウルウル。」

「・・・・・だぁ、何か用か?

用がなかったら切るぞ!!」

ユリカと話しているといつまで経ってもらちがあかないので、

さっさと切ろうとするアキト。

ウィンドウにうつるユリカの顔を見ると、艦長だという実感がわかない。

いや、それどころか戦場だという実感すら薄くなる。

まぁ、これはこれでリラックスできるということなのだが、

やる気満々の所でこれでは萎えてしまう。

 

「ううん、ちょっと聞きたいことがあるの。

あのさぁ、あのチューリップ一つを一人で破壊できる?」

まるで子供が親におねだりするような口調で、お願いする姿は恋人同士とも見え無くはない。

しかしその答えをアキトは出すことが出来なかった。

自分自身このブラックサレナの全性能を知っているわけではない。

 

「・・・・どうなの?」

結局サレナに聞く。

まるで出来の悪い弟が姉に質問するかのようだ。

現にアキトとサレナの関係はそんな物かも知れない。

 

「一つだけなら可能ですけど、

今のマスターの実力ではその後が続きませんよ?」

サレナは今の実状を素直にユリカに教える。

コックピットではサレナの返事を聞いてアキトが肩を落としている。

 

「いいのいいの。じゃぁ私が合図したら一番前のチューリップを

ちゃちゃっと料理してきちゃってね。」

「・・・・・おい、その後どうなるんだよ。」

悔しいがサレナの判断は間違いないと思っていい。

ならチューリップを破壊したあとどうしろと言うのだろう?

 

「あ、チューリップを破壊したら全力で地上におりてね、危ないから・・・・」

「・・・・何するつもりだ? まぁいいけど」

アキトもサレナも少なくとも撃墜されるといった事はユリカはさせないと思う。

よって、作戦の内容を深く聞くことはなかった。

 

「私の王子様のアキトならきっとやってくれるって信じてたんだ♪」

いつもの事ながら頭の痛いユリカの言葉を聞いて、アキトはだた空返事するしかなかった。

 

「そういえば、ジュンがいないけどどうしたんだ?」

ウィンドウに映るブリッジを見ていて、いつも自分と同じように頭を抱えているはずの

ジュンの姿が見えない。

数少ない理解者と思っているアキトにとっては、

ジュンがいないだけでもそれなりに寂しいことだった。

 

 

「ああ、ジュン君は今町にいるよ?

町の人の避難を手助けしてるの。」

 

「町の人か・・・大丈夫なのか?」

不意に町のことが心配になる。

ユートピアコロニーでの恐怖が、この町の人達に襲いかかっているのだ。

自分はこんな所にいて良いのか?

アキトは疑問に思う。

 

「うーん、このままだとあんまり芳しくないかな。」

「・・・・おいおい、大丈夫なのか?」

「大丈夫、だからこの作戦たてたんだから。」

何となくユリカの声を聞いていると安心する。

日常のユリカの態度はとても艦長とは思えないが、

こういうときは間違いなく艦長の仕事をしていると思う。

 

「・・・・俺はとにかくチューリップ一つを破壊すればいいんだな。」

「うん、その後地上で待機、忘れないでね。」

「わかった・・・・」

ユリカとの通信が切れ肉眼にもはっきりとチューリップが映る。

 

「・・・・あれ、サレナさん?

さっきから何も言いませんけど、どうしたんですか?」

「はぁ、ルリさんから今回の作戦の概要を転送してもらったんです。」

サレナの声はいつになく緊張していた。

その声にアキトはいつも以上に不安になる。

 

「ユリカのやつ、ヤバイ作戦思いついたんじゃ無いだろうな?」

「いえ、私が気にしてるのはエリナさんのことです。」

「エリナさん?そういえば会わなかったけど・・・・」

そういえばあの口うるさい女はここ最近全く顔を会わさない。

アキトはあの女の子のことをあまり信用していないのだが、

サレナは全く逆にいつも親しそうにしていた。

昔からのつきあいのはずはないのだが・・・・

もしかすると、彼女には彼女なりの良いところがあるのだろうか・・・・

 

「ええ、エリナさんは新しいナデシコクルーを迎えに送れてくるはずなんですけど・・・・」

「まさか戦闘空域に乗り付けるなんて・・・・」

「いや、しそうな雰囲気だったので・・・・」

「・・・・マジ?」

いくら何でも、戦闘領域に無防備なシャトルで来るはずはないと思うのだが・・・・

だが、サレナの不安は決して的外れな物ではなかった。

 

 

「作戦始まりました。

アキトさん、用意をお願いします。」

「わかった・・・・・」

サレナの言葉も気になるが、今は一般常識を信じるしかない。

アキトはすぐに頭を切り換えた。

 

 

「でもどうやって破壊するんだ?

レールガンで破壊できるのか?」

確かサレナにはレールガンが通常装備されていたはずだ。

ラピットライフルの数倍の威力を誇るレールガンだが、

巨大なチューリップを破壊するのにはいささか心許ない。

 

「ああ、今回は市街地戦と言うことであんまり強力な飛び道具はありませんけど、

接近戦用の武器を持ってきましたよ?」

「え?リョウコちゃんが持ってる槍みたいなやつ?」

 

 

「いえ、言ってみれば剣みたいなやつですね。

・・・まぁ詳しく説明するより直接見た方がわかりやすいですか?」

「まぁ、百聞は一見にしかずっていうし見てみるよ。」

 

 

「はい、こちらにバッタが二つほど来ているので、

一つはリョーコさんに任せるとして、もう一つは私たちで料理しちゃいましょう。」

「うん、それがいいね。」

アキトがサレナの提案を了承するとリョーコのウィンドウが現れた。

 

「よっしゃぁ俺が先にいただくぜっ。

うおりゃ〜〜」

リョーコのエステバリスがバッタにつっこんでいく。

エステバリスに匹敵する大きさの巨大な槍をバッタに向けている。

バッタは突き刺さると言うより押しつぶされるような感じで槍から発生される

強力なディストーションフィールドに貫かれた。

 

「ヒュゥ〜〜」

その圧倒的な力に当の本人すら目を丸くしている。

 

 

「よっし、今度は俺達の番だ!!」

アキトも新しい武器を見ようと、バッタにターゲットを向けた。

 

「エンジン出力の30%をDFSシステムへ・・・・

ディストーションフィールド10%低下・・・・

揺れ幅2%・・・・安全圏内です。

収束率100%・・・・・DFSスタンバイOKです。」

 

「よっし、いくぞぉぉ〜〜」

高速でバッタにつっこんでいく。

これほどの高加速がかかると、ものすごいGがかかるのだが

パイロットスーツのおかげか強烈なGは感じない。

バッタに近づいて、右腕を振りかぶる。

強力だと思っていた割には、バッタがつぶれたり爆発したりという派手なことは起こらなかった。

ただ、黒い帯がバッタの中央を抜けたのが見えたぐらいだ。

 

一瞬こんな物かと疑問に思ったが、すぐにとんでもないことが起こっているのに気が付いた。

黒い帯が抜けた後止まっていたバッタが、黒い帯が通った後を境にずれ始めたのだ。

そしてまっぷたつになりながら小さな爆発を起こして地上に落ちていった。

アキトは余りもの手応えのなさに、呆然としていた。

 

「・・・・すごい、全然抵抗がなかった・・・・」

「はい、切れ味は保証済みです。

もっとも多少ディストーションフィールドの出力が低下するのが

難点なのですが・・・・」

素人のアキトには防御力低下は痛い問題だが、元々エステバリスの常識を越える

ディストーションフィールドを張れるブラックサレナに取ってみれば大した問題ではない。

アキトも防御力低下を全く気にしていない。

 

「これならチューリップぐらいならまっぷたつなんだけど、小さすぎないかな?」

「大丈夫です。100メートル以上伸ばすことが出来るので。」

それだけあればチューリップを真っ二つっといった芸当もできそうだ。

だが、アキトはふと疑問に思う。

大したことではないのだが・・・

 

「へぇ、じゃぁ逆に小さくできるの?」

「はい、包丁ぐらいに小さくできますよ?

これで料理なんていいんじゃないんですか?」

「はは、この切れ味だとまな板まで切っちゃうよ。」

何でも切れる包丁・・・なかなかいい物かも知れない。

 

・・・・だけど、何事もやりすぎは良くないのだ。

 

「まな板もお鍋に入れちゃえばいいんですよ。

おいしそうじゃないですか、味がしみこんでいて・・・・」

「・・・・・・・・サレナさん?」

この何気ない質問がサレナの思いがけない弱点が露出した。

サレナのこの答えは間違いなく、料理人の常識・・・

いや一般人の良識すら飛び越えていた。

 

「何か変なこと言いました?」

「いえ・・・・料理作ることあるのかな? と・・・・」

料理人としてのカンがこう警告する。

これは・・・やばいかも知れないと。

 

「どう思います?」

「いえ、出来れば作らないで欲しいなと・・・・」

間違いなくサレナが料理を作れば・・・・

・・・・・・ヤバイ・・・・・・

 

「・・・・どういう意味です?」

「・・・・・っ!!

あ・・・あっ、作戦開始の合図だ!!」

このときばかりは、アキトは緊張する戦闘も天からの救いに思えた。

 

(何か変なこと言いました? By サレナ)

・・・自覚していないのが一番恐ろしい。

 


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